第二話 風紀委員との出会い
〜
「
「嫌よ。この間桜花賞に出走したばかりなのよ。ダイワスカーレットの調子を考えると、対戦する訳にはいかないわ」
「そこをなんとか! アタイはウオッカをダイワスカーレットと戦わせたいんだ!」
「だから、しばらくレースの勝負はしないって言っているでしょう! 少なくとも、来月まで待ちなさい!」
「嫌だ! アタイは今レースがしたいんだ! 今じゃないと、このアタイの昂った気持ちが消えてしまう!」
「ねぇ、今日の
俺の隣にいるクロが苦笑いを浮かべながら声をかけてくる。
「そうだな。桜花賞の時の映像を見て、あの時の気持ちが呼び起こされたのだろう」
でも、そろそろ良い加減に止めないと、周りの迷惑になりそうだな。
「おい、2人共――」
「お前たち、何をそんなに騒いでいる!」
彼女たちに声をかけようとすると、聞き覚えのない声が聞こえ、そちらに顔を向ける。すると、2人組の男が立っていた。
1人は黒髪のオールバックに耳にはピアスをしてある。そして鋭い目付きで、彼女たちを睨み付けていた。
そしてもう1人は茶髪の男だ。寝癖なのか、それともセットに失敗しているのか、一部の髪がボサボサでアホ毛のように飛び出ていた。
2人とも、腕に風紀委員の腕章をしてある。
彼らは風紀委員か。それなら、この騒ぎを聞き付けてやって来たのだろう。
「すみません、騒いでしまって。直ぐに止めますので」
風紀委員の登場に、クロが慌てて謝る。
『あれ? 風紀委員なのに、ピアスなんてしているよ! いーけないんだ! いけないんだ! せーんせいに言ってやろう』
風紀委員の1人の格好を見て、ハルウララが小学生のような言い方で指摘する。
そこは俺も気になっていたことだが、先生たちが何も言わずに風紀委員にさせていると言うことは、それなりに事情があるのだろう。
彼を刺激してはいけない。そう判断した俺は、ハルウララの口を手で塞ぐ。
「バカ、それ以上言うな」
ハルウララの口を塞ぐも、時既に遅かったようだ。不良のような格好をした風紀委員が俺たちのことを睨んで来る。
「喋る馬のヌイグルミと連んでいる生徒、そうか、お前が奇跡の名馬……いや、
『お前たちは何者だ! 人にものを尋ねる時は、自分から名乗るのが礼儀じゃないか!』
俺の手を抜け、ハルウララが声を発する。
「もう、お前は喋るな」
再び彼女の口を塞ぐ。風紀委員なのに不良のようなイレギャラーな存在はあまり怒らせない方が良い。彼が何かしようとしてきたら、ひたすら謝る方が良いだろう。
最悪の事態に備え、思考を巡らせていく。
「確かにそうだな。俺の二つ名は――」
「彼の名は
不良のような格好の風紀委員が二つ名を明かそうとした瞬間、彼の言葉を遮って寝癖の男が真名を明かした。すると、瞬く間に
「おい! 幻の三冠の一角! 何真名を明かしやがる! 二つ名の方で良いだろうが!」
「だって、僕たちは彼の真名を知っているんだよ? なら、こちらも真名を明かすのが礼儀じゃないの?」
「お前と言うやつは、どれだけバカなんだ。どうして二つ名で呼び合うようになったのか、その意味を思い出せ」
「まぁ、まぁ、真名がバレたところで、君にはさほど影響は出ないって。だから敢えて明かしたんだよ。そ・れ。よ・り・も!
「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「アタイの背後に……立つんじゃ……ねぇ!」
そして
「グホッ!」
「いきなりなんなのですか、あなたは?」
まるで寒気を感じているかのように、
「だから、
「嫌です。気持ち悪い」
立ち上り、自分のことをパパと呼ぶように要求するも、彼はキッパリと断られ、
だが、数秒後にはその場で四つ這いとなり、嘆く素振りを見せた。
「これが年頃の娘が父親を毛嫌う現象と言うものなのか! 僕の何がいけないと言うんだ! 僕はただ、
両の目から悔し涙を流し、廊下を叩く。
「
「存在全てよ。早くあたしの視界から消えてほしいわ」
「グハッ!」
再び口撃を受け、
おそらく、彼女は毛嫌いをしているのではなく、心の底から嫌っているのだろう。
それもそうだ。いきなり見知らぬ人物に抱き付かれようとされたのだ。嫌われて当たり前だ。
「僕の夢は馬たちのように、
いじける彼を見て、俺はなんだか可愛そうな気がしてきた。出会い方が間違っていなければ、もしかしたら知り合い程度にはなれたかもしれないのに。
『ねぇ、帝王?』
「どうした?」
『この学園って、本当に大丈夫なの? 1人は不良にしか見えないし、もう1人は変態だよ?』
「きっと、この人たちが特殊なだけで、他の風紀委員はきっとまともなはずだ」
そうあってほしいと、心の底から思ってしまうほどの衝撃的な出来事だった。
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