第四話 帰国子女の樫の女王
「初めまして。私は新堀学園長が送り付けて来た刺客よ。二つ名は帰国子女の樫の女王」
銀髪のゆるふわロングヘアーを耳にかける動作をしながら、変装していた人物が自己紹介を始めた。
この女の子は、義父の送った刺客か。でも、どうして彼女が
「どうやら、その顔は勘違いをしているみたいね。奇跡の名馬、私のターゲットは別にあなたではないわ。私のターゲット、それはあなたよ。
「あたしなの!」
自身に指を向け、
それもそうだろう。俺もてっきり、俺のことを狙っていると思っていたから。
「そうよ、新堀学園長の送る刺客は奇跡の名馬だけではなく、彼に関わる人全員に広がっているの」
「それは可笑しいだろう!
思わず声を上げ、
こんなの可笑しすぎる。いくら何でも、彼女が狙われる理由はないはずだ。
「確かに、何も知らないあなたたちからしたら、どうして
「俺のせいだと」
『それは違うよ! 帝王が強いんじゃなくって、この私、ハルウララが最強だからだよ。こんなに最強な名馬に乗れて、帝王は幸せだね』
シリアスの場面だと言うのに、ハルウララは通常運転で横槍を入れる。まぁ、最強かどうかはともかく、彼女が強くなっていることは事実だ。
「あなたはハルウララとトウカイテイオーに騎乗し、これまで無敗の4連勝。そして新堀学園長が次々と送り付ける刺客を悉く倒してきたわ。その結果、新堀学園長はあるものが起きることを恐れた。これ以上奇跡の名馬を強くしないために、あなたに関わる騎手もターゲットに加えたのよ」
「それだと、約束が違うじゃないか! 俺が条件を呑めば、学園の生徒には手を出さないって約束をしただろう!」
「
感情的になってしまい、つい義父との約束を暴露してしまった。そのせいで
「あなたバカなの! わたしたちのためにあんな無茶な条件を呑んでいたなんて。学生の中には、1回も顔を合わせたことのないような生徒も居るのよ」
「今回ばかりは
「だからだ。俺のせいで、何も関係のない生徒が危険に晒すようなことをしたくはない。だから、俺は親父の条件を呑んだ。でも、親父の方から約束を
「それは不可能よ。あなただけは新堀学園長のルールを守ってもらう必要があるわ」
鋭い眼差しを向ける
「どうして、私が
帰国子女の樫の女王の言葉に、俺は耳を疑った。
そんな理不尽なことがあって良いはずがない。でも、ここで俺が断れば、関係のない人が次々と不幸な目に遭う。それだけは避けなければ。
「安心して、いくら新堀学園長がどうしようもないゲスで、頭のイカレタクズ野郎だとしても、あなた以外のターゲットがレースで負けても、あなたが転校することはないから」
帰国子女の樫の女王がポケットからタブレットを出すと、空中ディスプレイが現れ、義父の姿が映り出す。
「私よ。作戦は上手くいったわ。こんな茶番に付き合わせた以上、ちゃんと約束は守ってもらうから」
『ああ、もちろんだ。お前の願い通り、こちらも動く。さて、我が義理の息子、
あまりの理不尽さに、奥歯を噛む。本当はこんな約束をしたくはない。でも、クロたちを巻き込みたくないし、他の無関係な生徒たちを危険な目に遭わせたくもない。
俺はどうすれば良いんだ。
「帝王、私のことは気にしなくて良いから。どんな刺客が来ようと、返り討ちにしてあげれば良いだけ」
「そうね。今回はどうやらあたしが狙われているようだけど、負ける気がしないわ。だから、あなたは今まで通りに勝ち続ければ良い。きっと、ここに居ない
『そうだよ! 2人の言う通りだ! 帝王には、この私やトウカイテイオーも付いている。きっと帝王なら、ちょっと条件が変わっても、勝ち続けられるよ。ねぇ、トウカイテイオー』
『そうだな。元々オレは霊馬となった今では、無敗の夢を実現しようと思っている。勝つことに拘りすぎるのも良くないが、オレとお前のコンビでなら、3冠の夢も達成できる気がしてならない。
ハルウララの言葉に合いの手を差し伸べるように、トウカイテイオーが顕現すると仲間を信じるべきだと語ってくる。
ああ、俺は何を怯えていたんだ。俺がこれまで出会って来た学園のみんなは、自分の信念のもとに愛馬と共に走ってきた。そんなみんなが、親父の送り付けた刺客なんかに負けるはずがない。
「その条件を呑んでやる! 俺はこれからも勝ち続け、仲間と共に霊馬競馬界の頂点に立ってみせる! どんな強敵でも送って来い! この俺が……いや、俺たちが全員纏めて倒してやる!」
俺は人差し指を、空中ディスプレイに移る親父に向ける。
すると、画面越しの親父は苦虫を噛み潰したような表情をした。
『何故だ! どうしてそのような顔で宣言する! ワシが見たかったのは、理不尽に追い詰められながらも、無様に仕方なく了承する姿が見たかったと言うのに! これでは、試合に勝って勝負に負けたようなものではないか! くそう! くそう! くそう!』
義父の方から通話を切ったのか、空中ディスプレイが消えた。
「ふーん、中々やるわね、絶望の縁に立たされても希望を捨てることなくあんなことを言えるなんて。私は奇跡の名馬の刺客担当ではないから、あなたのレースは応援してあげても良いわよ」
「敵の声援なんて、嬉しくもない」
「そう、それは残念」
「帰国子女の樫の女王、あなたの相手はこのあたしよ。あたしをターゲットにしたこと、そして帰国子女の樫の女王と言う二つ名。あなたの正体が分かったわ。あなたの愛馬、それはローブデコルテね」
「さすがにあなたにはバレてしまったわね。そう、私の真名は
「それでは、ごきげんよう。桜花賞が楽しみね」
その瞬間、眩い光が放たれ、俺は咄嗟に目を瞑る。
閃光弾か。
再び目が開けられるようになり、瞼を開く、そこには、
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