第三章
第一話 ヌイグルミが動いた!
一件落着となったそんなある日、俺は部屋で寛ぎつつも、なんとなくタブレットのアプリを開き、ハルウララのステータスを閲覧してみる。
「ステータスが上がった」
閲覧したハルウララのパラメーターに変化が起きていた。
芝G
短距離A
マイルB
中距離G
長距離G
スピードG+
スタミナG+
パワーG+
根性F+
賢さF
そして、バッドステータスの【レースに飽きちゃった】が消え、その代わりにグッドステータスと言うものが追加されていた。
グッドステータス【高知競馬場の救世主】……最後の直線でおい比べ状態になると、根性に補正が入り、粘り強くなる。この能力は、観客の人数に比例してステータス補正が異なる。更に高知競馬場でのレースの場合、効果が更に上がる。
粘り強くなる。そのワードを見て、俺は今日のレースを思い出す。
ゴール直前まで、ハルウララはコパノフウジンと競り合っていた。普通に考えれば、ハルウララがコパノフウジンに勝つなんてことはあり得ないはずだ。
だけど、偶然にもグッドステータスが発動し、好条件のままレースをすることができた。だから最後の最後で、ハルウララは粘り勝ちができたのだろう。
それにしても、競馬場の救世主か。ハルウララが救世主ってどう言うことだ? クロや
「まぁ、明日になって聞いてみるとするか」
そんなことを考えていると、扉がノックされる音が聞こえた。
「奇跡の名馬居るかい? あんた宛に荷物が届いているよ」
扉越しに聞こえたこの声は、寮母さんだ。
ベッドから起き上がると、扉へと向かい、ドアノブを捻って開ける。
「俺に荷物ですか?」
「ああ、とにかく早く受け取ってくれるかい?」
「お疲れ様です」
寮母さんに労いの言葉を言い、荷物を受け取る。差出人の名前を確認すると、
いったい俺に何を寄越したのだろう。
扉を閉めて机に向かい、ダンボールを置くとガムテープを外して蓋を開ける。すると、そこにはハルウララが居た。
いや、正確にはハルウララのヌイグルミだった。
直径30センチメートルくらいの大きさで、サンディオの人気キャラであるギティーちゃんの描かれた生地で作られたマスクを被り、細かいところまで再現されているほどの完成度の高いヌイグルミだった。
そして内部には骨組みみたいなのが入っているのか、関節を動かすことができ、臨場感のある体勢で飾ることもできるようだ。
どうしてハルウララのヌイグルミなんてものを送ったんだ?
疑問に思いながらも、同封されていた手紙を取り、書かれてある内容を黙読する。
『
どうやら、俺がハルウララを2連勝させた功績を讃え、
ヌイグルミの馬としてのハルウララは存在してはいないが、俺が遊んでいるゲームアプリのウマキュンシスターズのハルウララは、擬人化としてのキャラとして、グッズは一応存在してはいる。
まぁ、ゲームアプリと霊馬のハルウララを同一に扱うのは良くないか。
「さて、そろそろ寝るかな。今日はレースで疲れた」
ハルウララのヌイグルミを机の上に置くとベッドへと向かい、倒れるようにしてベッドにダイブをした。すると疲れもあってか、次第に瞼が重くなり、俺はそのまま眠りに就く。
「あれ? どうしてハルウララのヌイグルミが隣にある?」
翌日、目が覚めると、何故かハルウララのヌイグルミが俺の隣に置かれていた。
おかしい。俺は確かに人形を机の上に置いたはずだが?
もしかして、これは夢遊病と言うやつなのか? 知らない間に行動して、無意識の内に手元に持って来たのかもしれない。
保健の先生に相談した方が良いだろうか?
「取り敢えずは、校舎に向かう準備をしないといけないな」
上体を起こして寝巻きを着替え、校舎に行く準備を済ませる。そしてベッドの上に置いてあったハルウララのヌイグルミを机の上に置き直した。
「これでよし、後は校舎に向かうだけだ」
準備を終え、部屋を出ようとしたその時、後で何かが落下した音が聞こえた。
振り返って見ると、ハルウララのヌイグルミが床に落ちていた。
ちゃんと置いたはずなのに、バランスが崩れて落ちたのか?
あのまま床に落として置くのもなんだか可愛そうな気がしたので、引き返すと落ちているヌイグルミを掴み、再び机の上に置き直す。
今度は前に体重がかからないように気を付けて配置も考えた。これなら落ちてしまうことはないだろう。
そう思って踵を返すと、扉へと向かう。
しかし、またしても何かが落下する音が聞こえ振り向く。
「マジかよ」
振り返って見ると、机から落ちたハルウララのヌイグルミが俺の視界に映った。
「もう、置き直すのは面倒だ。そのままにするか」
帰ってから設置しなおそう。そう思って扉のドアノブに手をかける。そして気になって振り返って見た瞬間、衝撃的な光景が俺の視界に映し出された。
ハルウララのヌイグルミの位置が変わっていたのだ。
先ほどまでは、机の下に落下していたのに、今はヌイグルミの1馬身ほど手前に移動していたのだ。
俺の目の錯覚なのだろうか?
一度前を見直して再び後方を見る。だが、やっぱりハルウララのヌイグルミは俺に近付いていた。
背筋に寒気を感じる中、再び前を向く。
「だ・る・ま・さ・ん・が・転・ん・だ」
幼少期に戻った感じでだるまさんが転んだと言い、言葉の最後に振り返る。すると、ハルウララの人形は大きく前進していた。
「だるまさんがころんだ!」
今度は素早く言って振り返る。すると、ハルウララのヌイグルミはバランスを崩して転倒してしまった。だが、ヌイグルミは独りでに起き上がり、俺の所にやって来る。
『動いてしまったから、私の負けだね。次は私が鬼をするよ』
「おい、待て。これはどう言うことだ? どうしてハルウララのヌイグルミの中にお前が居る?」
『私のヌイグルミがあれば、それは憑依するじゃない。ヌイグルミの中に入れば、いつでも帝王と一緒に居られるからね。さぁ、早速だるまさんが転んだをしようよ♪』
「誰がするか! 俺は学ぶために校舎に行かないといけないんだ。お前の遊びに付き合っている暇はない」
『そうなの? なら、私も行く!』
校舎に向かうことを告げると、ハルウララは器用に俺の体を登り、前足を俺の頭に乗せ、後ろ足を肩に置く。
「お前はお留守番だ。ヌイグルミを教室に持っていけるかよ」
頭に手を持って行くと、そのままハルウララのヌイグルミを掴み、机の上に置き直す。
『やだ! やだ! やだ! 私も教室に行きたい!』
机の上に置いた瞬間、ハルウララは仰向けになって肢体を動かしながら駄々を捏ねる。その姿はまるで、子どものようだった。
「ダメだ。お前はお留守番」
『やだ! やだ! やだ! 私も行きたい! 連れって行ってよ!』
「無理だ」
『私も教室に行きたい! 連れって行って! 連れて行って! 連れて行って!』
「ダメだと行っているだろうが、遊びに行く訳ではないのだからな」
『ふんだ! なら良いよ! 私を教室に連れて行ってくれないのなら、次のレースは手抜きで走るから。そうすれば帝王の評価はダダ下がり。賞金も手に入らなくって貧乏生活だ。やーい、やーい、貧乏野郎♪』
子どものように悪態をつくハルウララに、どうしたものかと思いながら頭を掻きむしる。
彼女には本気で走ってもらわないと困る。面倒臭いことになりそうだから、本当なら連れて行きたくないのだが、ここは俺が折れてあげるしかないか。
「分かった。連れて行ってやるから、あんまり大声を出さないでくれ。だけど、あんまり目立つような行動はするなよ」
「本当! やったー! 教室に連れて行ってもらえる! 帝王大好き!」
連れて行くと言った瞬間、ハルウララは俺に飛び付いて来た。
こうなったら仕方がない。あんまり目立たないようにしてもらうとするか。
ハルウララのヌイグルミをバッグの中に入れ、俺は校舎へと向かって行く。
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