第十二話 シルクロードステークス決着

東海帝王トウカイテイオウ視点〜







『アストンマーチャン! 消滅! これにより、アストンマーチャンは競争を中止したことになります』


 目の前を走っていた名馬が、肉体を維持することができずに消滅してしまった。


 このままでは、騎手の明日屯麻茶无アストンマーチャンが落馬して芝に激突してしまう。


「ハルウララ! 急げ!」


 愛馬に鞭を入れ、加速するように促す。


 すると、俺の指示を受け取った彼女は速度を上げ、仰向けの体勢になっている明日屯麻茶无アストンマーチャンに接近する。


 間に合え!


 俺は心の中で叫び、そして彼女に向けて手を伸ばす。


「掴まれ!」


 声を上げて俺の手を掴むように言うと、明日屯麻茶无アストンマーチャンは手を伸ばし、俺の手を掴む。


 良かった。どうにか間に合ったようだ。


「大丈夫だ。お前を芝には落とさせない」


「奇跡の名馬!」


 明日屯麻茶无アストンマーチャンは驚いた表情を見せていた。きっと、俺が助けに入るとは思っていなかったのだろう。


 腕に力を入れ、彼女の華奢な体を持ち上げると、前に座らせた。


「行け! ハルウララ!」


 俺は愛馬に、このままゴール板に向かうように告げる。


『ム、ムリムリムリ! ムリに決まっているよ! 何を考えているの! 人間2人を乗せて走るなんて、ハンデ戦の重さどころではないよ!』


 明日屯麻茶无アストンマーチャンを乗せたまま走るように指示を出すが、彼女はムリだと反論して来る。


「何を言っている! 現に走っているじゃないか!」


『私が言っているのは、2人を乗せたまま最後まで走り切れる自信がないって言っているの!』


「良いから走れ! 文句はレースが終わってからたっぷり聞いてやるから! 大丈夫だ。俺はお前ならやれると信じている。負け馬根性は伊達ではないところを、観客たちに見せ付けてやれ」


「分かったよ。もう、こうなればどうにでもなれ! アストンマーチャンのように消滅しても知らないのだから!」


『学園のアイドル騎手を乗せたまま、ハルウララはレースを続行! ハンデ戦を凌駕する重量で、果たして最後まで走り切れるのか! 後からファイングレインが迫って来ている!』


「行け! ファイングレイン! お前に単勝で賭けているんだ! 絶対に優勝しろ!」


「ハルウララ頑張れ! 応援しているから!」


「くそおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ! アストンマーチャン、競争中止かよ! 俺の金がああああああああぁぁぁぁぁ!」


「コパノフウジン! まだだまだチャンスはあるぞ!」


 ゴール板が近付いたことで、観客たちの声援が耳に入って来る。


『私の応援する声が聞こえて来る! みんなに負け馬根性を見せ付けてあげるよ!』


 ハルウララが声を発したその瞬間、彼女の名馬の伝説レジェンドオブアフェイマスホース負け馬の最後の走りザ・ラストランオブアルーシングホースが発動したようだ。芝のコースがダートへと代わり、彼女の走った後には蹄鉄の跡が残される。


『ここでハルウララの名馬の伝説レジェンドオブアフェイマスホースが発動! 芝がダートへと代わり、ファイングレインが速度を落とす!』


『やったね♪ これでみんなは速度が落ちた! これなら何とか……ってなに⁉︎ この迫り来る嫌な予感は!』


 芝がダートへと代わり、ハルウララはざまぁみろと言いたげな口調で言葉を連ねていた。しかしその言葉は直ぐに怯えたような口調へと変わって行く。


『速度を落として行く馬の中に、逆に加速して馬がいるぞ! コパノフウジンだ!』


『コパノフウジンは、芝よりもダートの方が得意ですからね。コースがダートへ変わったことで、走りやすくなったのでしょう!』


『どうしてダート適性のある馬が混じっているの! 私の中ではルール違反だよ! ハルウララのルールブック違反により、コパノフウジンは失格にする!』


 ハルウララの意味の分からない言葉に頭を抱えたくなるが、今は集中力を切らす訳にはいかない。どうにか、彼女には頑張ってもらわないと。


「何意味の分からないことを言っている! 良いから、お前はゴールに目がけて走ることだけに集中しろ!」


 彼女の体に鞭を叩き、レースに集中するように注意を促す。


『3番手だったコパノフウジンが、ファイングレインを抜いて2番手に! そしてハルウララに迫り来る! 1馬身差……半馬身差……並んだ! ハルウララとコパノフウジンが並んだ!』


『自分の名馬の伝説レジェンドオブアフェイマスホース)で敵に塩を送るとはな! 策士策に溺れるとは、このことだ! ざまぁ』


『ムキイイイイイイイィィィィィィィ! ざまぁといった方はざまぁなんだよ! だから君の方がざまぁだ!』


 何馬同士で言い争っているんだ。でも、実際にコパノフウジンの言う通りだ。でも、だからと言って、名馬の伝説レジェンドオブアフェイマスホースを使っても使わなくても変わらなかっただろう。


 相手がコパノフウジンか。ファイングレインかの違いでしかない。


『ハルウララ、コパノフウジン、ハルウララ、コパノフウジン、ハルウララ、コパノフウジン! 両者鍔迫り合いのまま1歩も引かない!』


 コパノフウジンと競り合ったまま、互いに1歩も引かない。騎手の方も愛馬の力だけに任せている所を見る限り、アビリティなどは使い果たしてしまったのだろう。


『くそう! どうして負け馬を追い抜けない! 1勝もできないクソザコ牝馬ひんばの癖に!』


『残念でした! 私は既に1勝していますぅ〜もうクソザコではないですぅ〜それに私がクソザコなら、2人を乗せている状態でも追い抜けない君の方がもっとクソザコですぅ』


『うっぜー! ウザすぎる! でも、事実だから何も言い返せられない!』


 ハルウララとコパノフウジンが言い争っている間、2頭はゴール板を駆け抜けた。


『ハルウララとコパノフウジン! 2頭並んだままゴールイン! 3着、ファイングレイン、4着はステキシンスケクン、5着はコウセイカズコと言う順位となりました。1着と2着は写真判定となっています。もうしばらくお待ちください』


 肉眼ではどちらが先頭だったのかが分からない。なので、写真判定と言う結果になった。


 電光掲示板にゴール直前の映像が流れ、ゴールした直後に映像は停止した。


 その映像を見た俺は、ハルウララの頭を優しく撫でる。


「頑張ったな。ハルウララ」


「て、帝王。私……グスン」


 ハルウララの目から涙が流れる。彼女は俺と明日屯麻茶无アストンマーチャンを乗せた状態で走っていたのだ。その状態であそこまでのレースをみせてくれたのだ。それは誇って良いことだ。


「さぁ、行くぞ。主役の凱旋だ」


『結果が出ました! 1着ハルウララ! 2着コパノフウジン! ハルウララ! ハンデ戦以上の重量でありながら、見事シルクロードステークスを制しました!』


 実況担当の中山の言葉に、観客たちは一斉に喝采を上げた。


「スゲーぜ! ハルウララ!」


「まさか、ここまでのレースを見せてくれるとは!」


「私たちも負けていられない! 同じレースで競う時はライバルだから!」


 観客たちの歓声を受けながら、ハルウララを観客席前へと歩かせる。そして俺は右手を上げて優勝したことをアピールする。


「あ、あのう……奇跡の名馬? いつまでハルウララちゃんの背に乗って入れば良いのですか? 優勝してもいないのに、ここに居るのは恥ずかしいのですが」


 頬を朱色に染めつつ、明日屯麻茶无アストンマーチャンが早く降りたいことを告げる。


 そう言えば、彼女を乗せたままだったな。


 G Iレースではない以上、あんまり図に乗ったことはしない方が良いだろう。


 ある程度の所でハルウララをコースから出るように誘導する。


「ハルウララ。良く頑張ってくれた。今は休んでくれ」


 彼女から降り、労いの言葉をかけると、ハルウララは姿を消す。


明日屯麻茶无アストンマーチャン、今から時間はあるか?」


「え、あ、はい。大丈夫ですが?」


「そうか。なら、俺と付き合ってくれ!」







掲示板の結果


1着6番

    >ハナ

2着5番

    >1

3着8番

    >2

4着10番

    >クビ

5着2番

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