第九話 シルクロードステークス開始
「
「うん? あ、あのヒントで答えに辿り着いてしまったのか。そうだ。あいつの契約している名馬はアストンマーチャン。そして学園のアイドルの真名も
残念そうに
「とにかく、これで学園のアイドルの愛馬の正体を知ることができた」
デバイスの画面を確認すると、そろそろレース場に向かわないといけない時間帯になった。
もう少し戦略を練りたいところだけど、時間が押している以上はどうすることもできない。
「時間だから、俺はレース場に行って来る」
「私も行くよ! 今回も
「あたしもレース観戦しようかしら」
「アタイも行くぜ! どっちが勝つにしろ、次のために戦略を練る必要があるからな」
俺たちは空き教室を出ると、急いでレース場へと向かう。そしてクロたちと中で別れると、俺は騎手控え室へと向かって行く。
どうやら今回も俺が最後だったらしく、俺が入室した瞬間、解説担当の虎石が話しを始めた。
「では、今回のシルクロードステークスに出場する騎手13名が集まりましたので、皆さんの愛馬を顕現してください」
虎石に促され、俺はハルウララを顕現させる。
『レースだ! レースだ! 今日も満足するまで走るぞ!』
サンディオの人気キャラであるギティちゃんの絵柄のマスクを被った愛馬が、俺の横に現れるなり、彼女は言葉を放つ。
しかしハルウララの言葉を聞いた俺は、頭を抱えたい気持ちになった。
満足するまで走るってことは、言い換えれば満足したら走るのをやめるってことじゃないか。
「頼むから、前回みたいに途中で飽きないでくれよ」
『それは多分大丈夫! 根拠はないけれど、今回は最後まで走れるような気がするから』
「自信満々に根拠はないと言わないでくれ」
早くも心配になってくる中、他の騎手たちも己の愛馬を顕現させた。
「来てくださ〜い。私のマーちゃん」
間延びした口調で
すると彼女の隣には、茶褐色の毛色に額から鼻にまで届く細長い白色の模様に、優しい瞳を持つ馬が現れる。その特徴はアストンマーチャンそのものだった。
「なるほど、なるほど、今回の出走馬はハルウララ、アストンマーチャン。それにロイヤルキャンサー、コパノフウジン、ステキシンスケクン、ニシノマオ、ウルワシノハナ、シルバーストーン、エイシンウェーブ、コウセイカズコ、アーバンストリート、プリンセスルシータ、そしてファイングレインですか」
「ファイングレイン!」
虎石が最後の馬の名前を上げた瞬間、
確か、ファイングレインって、当時のシルクロードステークスを優勝した馬だったな。それに良く思い出せば、コパノフウジンは2着、そしてステキシンスケクンは3着だった。
俺は前回のように、アストンマーチャンが一番の強敵かと思っていたが、もしかしたら彼らが一番の強敵なのかもしれないな。
「それでは、顕現された名馬たちは、
虎石が手を叩く。すると
「それじゃ、行って来るね。ハルウララ、前回のように、途中で飽きちゃって立ち止まってはダメだよ!」
『大丈夫、大丈夫、そんなことはしないから……多分』
「はぁ、先が思いやられるよ。でも、他の人にはハルウララは任せられないだろうし、ここは私が頑張るしかないね」
「クロ、ハルウララがワガママ娘ですまない」
『ちょっと! 私を自分勝手な子どものように言わないでよ!』
「いや、事実だろう。良いから行って来い」
ハルウララの態度にため息を吐くも、俺は彼女たちを見送る。そして本馬場入場の時間となり、俺は
「どうだった?」
「うん、今日は前回みたいに立ち止まって、みんなに迷惑をかけることはなかった。少しは彼女を信じても良いんじゃないのかな?」
『だから言ったじゃない! 大丈夫だって! それなのに信じてくれないなんて、本当に失礼だよ。ぷん、ぷん!』
どうやら怒っているようだ。人間みたいに頬を膨らませることができないから、言葉で怒りを表現している。
「悪かったって。お前の活躍、期待しているからな」
ハルウララに騎乗して通路を歩き、コースに出た。そこは前回と違い、中京競馬場のコースへと変化していた。
これは元々、VR技術と言うものを元にして作られたシステムだ。元祖VRはゴーグルと言うものを取り付け、片方ずつズレた映像を見せられることで、立体的に見えるようにしているもの。
だが、このレース場では、建物に足を踏み入れた瞬間に、直接脳にその映像が見えていると誤認するようになっている。
具体的には、建物内に今回のレース会場のデーターを蓄積させたものを目に見えない粒子として散布させ、それを人々が鼻腔から吸引する。
すると、鼻の粘膜から吸収して血液に混じり、摂取したデーターが脳へと送り込まれることになる。すると脳は、負荷によって脳内神経伝達物質の過剰分泌で生じた脳回路の異常が発生する。
脳回路上を制御、抑制されない情報が駆け巡るという暴走状態に陥った脳は、情報のつながりが統合できなくなって混乱してしまうのだ。フィルターのかからないあらゆる刺激情報が直接脳に入力されることになるから、その結果幻覚と言う形で脳自身が脳内に入り込んだデータの映像を見ていると思い込む。
それが現代の進化したVRだ。
なので、実際にはここは何もないただの空間なのだろう。だけど、人の体をコントロールしている脳が錯覚と言う思い込みをしているので、痛みを感じることもあれば、匂いも嗅げるし、食べ物を食べれば味もする。
ハルウララの
『さぁ、続いて入って来ましたのは、6番、ハルウララ! 前回のメイクデビュー戦ではあのダイワスカーレットを破って初の優勝を果たしたダークホース! 今回も負け馬根性の走りで、観客の度肝を抜くのか!』
芝の上を軽く走らせると、実況担当の中山がハルウララのことを紹介してくる。
観客たちの中にはハルウララを応援する声もあったが、まばらだった。
おそらく、人気投票は低いだろうな。
『続いて本馬場入場して来たのは1番、アストンマーチャン! 僅か4歳でこの世を去った名馬が、霊馬となって復活だ! 歴史は浅いが実力は申し分ありません』
アストンマーチャンが芝の上を駆けていると、しばらくして騎手の
「奇跡の名馬! そしてハルウララ、私がこのレースで勝って、ダイワスカーレットとの勝負を実現してみせる!」
堂々とした口調に、俺は驚かされた。
彼女、アストンマーチャンに騎乗してから性格が変わったか? そう言えば、アストンマーチャンも普段は大人しいが、レースになると性格が変わったかのように荒ぶることもある馬だったな。
彼女の強い意志と勝利への執念を感じる。もし、アニメか漫画だったら、彼女の周りに闘気のようなオーラが出ていたことだろう。
宣戦布告を告げられたが、俺たちも負けてはいられない。俺だって、レースに出走する以上は、1着を取れるように全力でハルウララをサポートするつもりだ。
本馬場入場が終わり、ポケットの中に入ってハルウララを歩かせ、彼女の昂った気持ちを一旦落ち着かせる。
そして出走時刻が迫ると、ゲート入りをする時間となり、俺たちのところにクロがやって来る。
俺たちは今回6番だ。偶数なので、しばらく時間がある。
『それでは、ゲート入りが完了するまで、このコーナーといきましょう。中山と』
『トラちゃんの!』
『『馬券対決!』』
順番待ちをしていると、それまでの間、中山と虎石のコーナーが始まったので、彼女たちの言葉に耳を傾ける。
彼女たちはいったいどんな予想をしたのだろうか。
『それでは、私からいきますね。私は1着ハルウララ、2着アストンマートャン、3着ファイングレインの予想で3連単にしました。3連単とは1着から3着まで全てが的中すれば払戻金が発生します。これは的中するのは難しいですが、見事的中すれば、数十万のお金が手に入るかもしれませんので、今回はビッグな夢を掴んでみようと思います。では、トラちゃんの予想はどうですか?』
『はい。私は1番アストンマートャンと8番ファイングレインのワイドにしました。ワイドと言うのは、3着までに入る2頭の馬の組み合せを馬番号で当てる馬券です。1着、2着、3着の着順は関係ありません。ワイドは組み合わせとして当たっていれば、払戻金が発生します。例えば、1着、アストンマーチャン、2着ファイングレイン、3着ハルウララとしましょう。番号は1、8、6となりますので、1―8、1―6、6―8は当たりです。ですが、馬券を2―8や6―10にしても、相方の番号が3着以内に入っていないので、この場合は負けとなります』
『いかがだったでしょうか? 今後の馬券購入の参考にしてください』
「帝王、順番が来たよ」
彼女たちの馬券対決に耳を傾けていると、順番が来たようだ。クロに誘導してもらい、ゲート入りを完了する。
その後、他の馬たちも次々とゲート入りをして行く。
『13頭のゲート入りが完了しました。間も無く、シルクロードステークスが始まります』
中山の言葉の直後、ゲートが開かれた。
今回のオッズ
人気順 倍率
アストンマーチャン 2.3倍
ファイングレイン 3.8倍
コパノフウジン 5.2倍
コウセイカズコ 5.6倍
ウルワシノハナ 8.9倍
ロイヤルキャンサー 13.1倍
エイシンウェーブ 13.8倍
ステキシンスケクン 18.3倍
ニシノマオ 21.8倍
シルバーストン 38倍
アーバンストリート 42.6倍
プリンセスルシータ 86.4倍
ハルウララ 102.8倍
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