第六話 学園のアイドル
後から女の子の声が聞こえ、俺は振り向く。
背後に居た女の子は、茶髪の髪をモテの王道であるクラシカルストレートにしており、クリッとした可愛らしい目の瞳の色は同じく茶色をしている。肌は健康美溢れる肌色で、穏やかな顔立ちでこちらを見ていた。パッと見細身ではあるが、それとは対極の豊満な胸につい視線が行きそうになる。
「もう一度言いますよ? ダイワスカーレットの騎手さん? 楽して情報を得ようとするのはメッ! ですからね」
女の子は両手の人差し指をクロスさせ、バツを作る。
突然何の前触れもなく現れた女の子に戸惑い、どう対応すれば良いのかと思うと、彼女と目が合う。その瞬間、女の子は柔軟な笑みを浮かべた。
「
落ち着いた口調で語りかけ、女の子は学園のアイドルだと名乗った。
つまりは、アイドル並みに人気のあった馬と契約を結んでいるってことか? でも、そんな馬、数が多過ぎて絞り込むのは困難だぞ。
まぁ、勝負をする訳ではないから、彼女の真名を明かす必要はないのだけどな。
「
「ああ、そんなことは分かっている。安心しろ。アタイはこいつらにお前の真名を明かしたりはしないさ」
「では、私がこの場に来た本題に入らせていただきます。ダイワスカーレットの騎手さん。間違っていたらすみません。この前のレースを拝見させていただきました。契約している名馬からして、名前はダイワスカーレットで、間違いないでしょうか?」
「あたしは
右手を腰に置き、優雅な佇まいで
「では、
落ち着いた口調で人差し指を
でも、彼女は。
「あー、そいつは無理だぜ。学園のアイドル。アタイがどんなに頼み込んでも、この女は勝負を拒絶しやがった。
「奇跡の名馬とですか?」
「なるほど、彼を利用して私の真名と愛馬を特定しようと言うのですね。まぁ、別に良いですよ。真名や愛馬が特定されたところで、私の方もあなたの愛馬のデータは持っています。同じ土俵に立った状態で勝てば良いだけの話ですものね」
少し顔を俯かせていた学園のアイドルがブツブツと独り言を言う。
「分かりました。では、奇跡の名馬さん。私と霊馬競馬をしてください」
学園のアイドルが勝負をするように言葉を放つ。すると彼女はポケットからデバイスを取り出し、操作を始める。
すると俺のデバイスが振動を起こし、胸ポケットからデバイスを取り出して画面を確認する。
画面にはレースの申請がありました。承諾しますか? と表示され、承諾と拒否の項目が現れ、カウントダウンが始まる。
俺はハルウララと契約をしている影響で、申し込まれたレースは受け入れなければならなくなっている。
どうせやっても意味はない。頭の中では分かっていても、俺は拒否のコマンドをタップする。
だが、前回と同じで反応がなかった。
やっぱり、俺には拒否権が存在しないようだ。
仕方がなく、承認のコマンドをタップした。その瞬間であった。
「合意がありました!」
廊下の窓が開かれ、解説担当の虎石が窓から廊下側へと侵入してきた。
お前、どこから現れてやがる! しかも、ここって確か、2階だったはず!
心の中で叫び声を上げていると、虎石はスカートに付いた汚れを手で振り払い、こちらを見る。
「合意がありましたので、今からレースの内容を決めます! 出場する騎手さんはデバイスの画面に注目してください」
虎石が画面を見るように言うと、クロと
お前たち、どうして俺のところに集まる!
口で言いたかったが、今そのようなことを言っては空気を読んでいないような気がしたので、喉まで出かけた言葉をグッと堪える。
「それでは! 抽選スタート!」
虎石の合図と共に、画面がスロット画面のように次々と入れ替わって行く。そして会場名、レース名、走る距離、天候、芝か
「出ました! 中京競馬場! シルクロードステークス! 1200メートル! 天候は晴れ! 芝! 馬場状態は良!」
1200メートルと言うことは短距離か。マイル戦ではないから、今回はマイル適性を上げる必要はないな。その分、空いた箇所に別のアビリティを付けることが可能だ。
「細かいことが決まりましたので、これで失礼します。レースは第5レースとなりますので、3時間後にレース場まで起こしください。では、トラちゃんと中山の馬券対決もお楽しみに!」
元気良く右手を上げ、笑みを浮かべながら虎石は自分たちのコーナーの宣伝をすると、小走りでこの場から離れて行く。
すると、彼女と入れ替わるようにして、実況担当の中山が俺たちの前に現れた。
「あれ? もしかして、もう抽選が終わってしまいましたか?」
「あ、うん。先程終わったところだ。虎石も帰って行った」
「そんな! 私、今来たところなのに! もう、トラちゃんのアホ! 一緒に階段から来れば良いのに、木を登って2階に上がるなんて」
自分勝手な相方への不満を口にしながら、中山もこの場から離れて行く。
「では、3時間後お待ちしていますね。奇跡の名馬を倒した暁には、勝負してもらいますよ。
まるで俺なんか眼中にないと言いたげに、俺を無視して学園のアイドルは
「あなたが奇跡の名馬に勝てば、レースを受け入れて上げるわ。でも、油断していると、痛い目に遭うわよ」
「ええ、それはもちろんです。油断していたのでしょうが、それでもダイワスカーレットに勝った馬ですもの。大穴の馬として対策はいたしますね。ですが、偶然はそう連続で起きないものです」
俺との戦いの筈だが、学園のアイドルは次の勝負へと意識を向けている。
こうなって来ると、俺はただの前座のように思えて来た。
「それでは、私はこれで失礼します」
丁寧に頭を下げると、学園のアイドルはこの場から離れて行く。
「それじゃ、妥当学園のアイドルを目指して作戦会議をしよう! 帝……奇跡の名馬行くよ」
クロが俺の手を握ると、作戦会議をすると言って俺を引っ張って行く。
彼女が向かう場所は体育館の裏ではなさそうだ。いったい、どこに俺を連れて行くつもりだ?
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