第四話 魚華は意外と乙女?
「奇跡の名馬! アタイと勝負だ!」
まさか、こうなるとは思ってもいなかった。今回はレースをしないで済むと思っただけに、動揺が激しい。
相手はウオッカだ。ダイワスカーレットと同様か、それ以上の強さを秘めている牝馬だ。油断はできない。
「あ、帝……奇跡の名馬、ここに居たんだ! 探したよ!」
思考を巡らし、今できる策を考えていると、奥の方からクロが近付いて来る。一度俺の真名を言おうとしたが、他にも生徒がいることに気付いたらしく、慌てて二つ名に言い直す。
「どうしたの? 何か取り込み中だった?」
クロが
その瞬間だった。
「クロ!」
「お祭り娘!」
俺と
クロは驚いてその場で膝から崩れ落ちたようで、廊下に座り込んでいた。
彼女の顔には室内用の靴跡もなければ、ケガをしている様子もない。どうやら寸止めだったみたいだ。
「クロ! 大丈夫か!」
「あ、うん。驚いただけだよ。別にケガとかはしていないから」
外見で判断しただけなので、自信はなかったが、彼女自身の言葉を聞いて安堵した。
「アタイの後に立つな。今回だけは警告に留めておくが、次はその可愛らしい顔に靴跡を残すことになる」
「あ、お馬さんがプリントされたパンツ」
わざわざ言う必要はないだろうに、クロは
「きゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! み、見るな!」
自分が今履いている下着が暴露され、
「言っておくが、これはお馬さんじゃない! ウオッカだ!」
いや、否定するのはそこじゃないだろう。
内心ツッコミを入れつつ、何とも言えない空気感に包まれたことで、俺はどう行動すれば良いのか分からなくなる。
「ウオッカか。確かに彼女の特徴を感じさせるパンツだね。それにしても、わざわざパンツが見えるように足を上げたってことは、見せびらかしたかったの? 自分のパンツを見せるなんて痴女だね」
「ち、痴女じゃない! まだ大人の経験どころか、彼氏ができたことすらないのだからな! アタイは純潔だ!」
羞恥心で頭の中が混乱しているようで、
「それに、今日はスパッツを履き忘れていただけだ! だからけしてアタイは痴女じゃない! 分かったか!」
自分が痴女扱いされるのが耐えきれなかったのだろう。
「でも、だからって反射的に足を上げてパンツを見せるのはどうかと思うよ?」
「もう、パンツの話題から離れろ! これはアタイの生まれながらに持つ癖なんだよ! 背後に視線を感じると、つい蹴りを入れてしまう!」
騎手と馬のシンクロ率やべー! 完成度高いな。
「お祭り娘、ごめんね。こいつ
「
クロが立ち上がると、彼女は優しい笑みを浮かべながら自分にも落ち度があると言い、謝る。
「どうしてアタイなら仕方がないだよ! おかしいだろう! 普通は怒るところじゃないか!」
思っていたことと違った展開になっているようで、
「確かに他の人なら怒るよ。でも、ウオッカなら仕方がないし、今回はそのシンクロ率の高さに感動さえ覚えたから、許して上げる」
「お前たちはバカだ! どうかしている! もう、何が何なのか分からなくなってきたじゃないか!」
どうして俺たちがこのような反応を示しているのかが理解できていないようで、
ダービー馬のウオッカは、父親のタニノギムレットの血を受け継いでいることもあり、父親と同様に後に近づかれるのを嫌っていた。後に立った相手を自分から蹴りに行くと言う気性の荒さもある。
俺たちはウオッカと
「もう、何が何なのか分からねぇ! くそう! 出直しだ! 覚えておきやがれ! ブォン! ブォン! ブオオオォン!」
この場に居辛くなったのか、
「なんかごめんね。私が来たことで、何か邪魔しちゃたみたい」
「いや、助かった。クロが来なければ、余計な勝負をすることになっていた。
翌日の放課後、今日はクロと
廊下を歩いていると、黒いショートヘアーで、毛先は白くなっているツートンカラーの女の子が、こちらに向かっているのが視界に入る。
彼女は
距離が近付くと、彼女も俺たちのことに気付いたらしく、右手を上げる。
「よぉ、ハルウララの騎手」
「
「勝負? ああ、そう言えばそんなことを言っていたな。だけどパスだ。今のアタイはレースができない」
元気なく言葉を連ねる彼女に、衝撃を覚える。
いったい彼女に何が起きたんだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます