第三話 魚華登場!

「アタイと勝負しやがれ!」


 突然現れた女の子は、こちらに指を向けるなり、勝負を挑んできた。


「ですって。昨日レースをしたばかりなのに、もう次のレースを挑まれるなんてね。まぁ、あの負け馬で有名なハルウララを優勝へと導いたのですもの。当然と言えば当然よね」


 女の子が勝負を挑んで来ると、大和鮮赤ダイワスカーレットは可哀相なものを見るような眼差しを向けて来た。


 マジかよ。昨日レースをしたばかりなのに、もう、次のレースを受けないといけないのかよ。


 俺はハルウララと霊馬契約を結んでいる。それにより、彼女の逸話の力が発揮し、俺はレースから逃げられない。


 挑まれれば拒むことができずにレースに挑み続けなければならない。


 しかも今回は、相手の愛馬がどんな名馬なのかも分からない状態だ。前回よりもきついレースになるだろう。


 しかも今はクロが居ない。彼女のサポートを受けることはできない。


 思考を巡らし、どのように次のレースでハルウララを勝たせるのかの策を思案していると、何故か目の前の女の子は不思議そうに小首を傾げた。


「何を言っているんだ? アタイが勝負したいのはアンタだ。ダイワスカーレットの騎手」


「あ、あたしなの!」


 彼女が対戦を申し込んでいたのが自分だと知り、大和鮮赤ダイワスカーレットは驚きの声を上げ、人差し指を自身へと向ける。


「ああ、そうだ。アタイの名は魚華ウオッカ。真名と同じで契約している愛馬もウオッカだ。ダイワスカーレットとウオッカは、切っても切り離せない程の固い運命の糸で結ばれたライバル同士。こうして同じ学園で出会ったのも2頭の運命の導き。そうとなれば、レース勝負をするものだろうが」


 魚華ウオッカと名乗った女の子は、大和鮮赤ダイワスカーレットに指を向ける。そしてどうして彼女とレースをしたいのか、その理由を述べた。


 彼女が契約している名馬はウオッカ? なら、勝負を挑む理由も納得だ。


 でも、大和鮮赤ダイワスカーレットはこの勝負を受けるのだろうか? 個人的には、当時の競馬を白熱させたと言う2頭が競い合う光景を見たい。


 どうするのか大和鮮赤ダイワスカーレットの言動に注視していると、彼女の口が開く。


「はぁー、どうしてあなたとレースをしないといけないのよ? ダイワスカーレットとウオッカが運命的なライバルだった? だからそれがどうしたと言うのよ。それはあんたが勝手に思い込んでいることじゃない。そんな妄想に付き合っているほど、あたしは暇じゃないのよ」


 なんて返答するのか、大和鮮赤ダイワスカーレットの言動に注視していたが、どうやら彼女はレースを受け入れないようだ。小さく息を吐き、面倒臭そうに言葉を連ねる。


「そうか。そうか。引き受けてくれないのか。それじゃ仕方がないな…………って、何でだよ!」


 大和鮮赤ダイワスカーレットが拒むと、それを理解したかのように何度も頷く魚華ウオッカだった。しかし時間が経過すると、彼女の思惑とは違った結末になっていることに気付き、突如漫才師のツッコミのように左手を横に振った。


「何で勝負を受けないんだよ! アンタ、ダイワスカーレットの騎手何だろう! だったら、アタイが勝負を申し込みたい気持ちだって分かっているはず」


「何も分からないわよ。別にあたしがダイワスカーレットの騎手だからと言って、ウオッカと競う必要性は感じられないもの」


「アンタになくとも、アタイにはあるんだよ! だからレース勝負をしようぜ!」


「嫌よ。何度も言わせないで。あたしは暇じゃないの」


「今日がダメなら、明日は?」


「無理ね」


「明後日は?」


「予定が埋まっているわ」


「なら!1ヶ月後!」


「その日も予定が入るかもしれないから無理ね」


 どうにかしてダイワスカーレットと競いたいようだ。魚華ウオッカは日にちを変えつつも、どうにかして時間を取れないのかと交渉を持ちかけるも、大和鮮赤ダイワスカーレットは予定があると言い続ける。


「100年後なら空いているわよ」


「その時はお婆ちゃんになっているじゃないか! それに生きていると言う保証もない! こうなったら、奥の手だ!」


 業を煮やしたと思われる魚華ウオッカは、ポケットからタブレットを取り出す。そして何かを操作すると、大和鮮赤ダイワスカーレットがポケットから自分のタブレットを取り出した。


「こうなったら、直接タブレットに申し込みだ!」


 声を上げ、タブレットを経由して勝負を申し込んだことを魚華ウオッカは告げる。しかし、対戦を申し込まれた大和鮮赤ダイワスカーレットは、拒否のコマンドを押した。


『レース勝負を拒否されました』


「何でえええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 タブレットから無機質な音声が流れた瞬間、魚華ウオッカは驚愕の声を上げた。


「何をしてこようが、あたしはあなたのレースを受けないから」


「くそう。こうなったら、何が何でもレースを受けてもらうからな!」


 何度も拒否され続けたのにも関わらず、彼女の目には希望の光が残り続けた。


 その努力は正直にすごいと思うが、よくめげないな。


 そんなことを思っていると、魚華ウオッカは両手を横に広げる。まるでここから先は通さないと言いたげな仁王立ちだった。


「ダイワスカーレットの騎手、どうせ真名も名馬と同じ名前なのだろう? アンタが受け入れると言うまで、アタイはアンタたちを通さないからな」


 強い意志を感じさせる視線を送りながら、彼女は通行止めをすると言ってきた。


 さすがにそれはやばい。このままでは、俺まで巻き込まれて寮に帰ることができない。


 どうしたものかと悩んでいると、大和鮮赤ダイワスカーレットが小さく息を吐く。


「はぁ、さすがにここまでされたら良い迷惑だわ。他の人の邪魔にもなるし、もう折れるしかないわね」


「なら!」


 根負けしたと言う事実を知った瞬間、魚華ウオッカは顔を綻ばせる。


 これで寮までの道が解放された。ようやく部屋に戻って休むことができる。


「隣にいるハルウララの騎手である、奇跡の名馬を倒すことができたら、レースを引き受けてあげるわ」


 って、俺かよ!


 思わず心の中で叫んでしまった。まさかここで俺にまで火の粉が飛んで来るとは思わなかった。


「言質取ったからな! 今更やっぱりなしなんて言うなよ!」


 人差し指を大和鮮赤ダイワスカーレットに向け、魚華ウォッカは声を上げると今度は俺の方へと向ける。


「奇跡の名馬! アタイと勝負だ!」

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