第9話 クギを刺したほうが良いかも?

 放課後になり、俺は渚と一緒に下校する。そうだ、今の内に連絡先と昼休みのやり取りについて話しておこう。


なるべく早く話さないと、その後が怖いからな。


「渚。実は今日、水寺さんの連絡先が書かれたメモが机の中に入ってたんだ」

俺は彼女にそのメモを見せた。


「…あたしに話してないだけで、お兄ちゃんから連絡先訊いてないよね?」


「訊いてない。誓っても良いぞ」


やはり“シスコン辞める”の尾を引いているな。原因は俺にあるので、これから時間をかけて信頼を取り戻すしかない。


「わかった。お兄ちゃんを信じるね」


「ありがとな」

俺は何があろうと渚を信じないと!


「水寺さんが連絡先を一方的に教えただけ? 他にはなんかある?」


「昼休みに連絡してきたんだよ。……これがそのやり取りだ」

言葉より直接見せた方が早いな。俺はスマホを渚に渡す。


すぐに彼女の表情が曇る。原因は言うまでもない。


「何で水寺さんが、お兄ちゃんの好きな人を訊いてくるの?」


「俺も本当にビックリしたよ。自分の席でゲームしてる時にそれだからな」


「好きな人を訊くって事は、他の男子とは違った見方をしてる証拠。これはグレーだよ」


渚は警戒心をあらわにしてるが…。


「俺もそう思ったけど、水寺さんの友達が多分トイレから戻ってきたら連絡を止めたんだ。別に深い意味はなくて、ただの暇つぶしかもしれないよな?」


「暇つぶしで好きな人訊くの? あたしには理解できないけど…」


この言葉の後、渚は考え込む仕草を見せる。彼女の気が済むまで見守ろう。



 「……もう1回クギ刺そうかな?」

渚がそうつぶやいた。


「えっ?」


「わざわざ『私の気になる人を訊かないんだ?』なんて書くんだもん。絶対狙ってるよ!」


絶対とは思えないが、俺が渚の言葉を疑う資格はない。


「今度は教室に行く必要ないね。大勢の前だと、あたしもやりづらいし」


「そうだな。なるべくコッソリ済ませたいよ」

人の目を克服する努力中とはいえ、避けられるなら避けたい。


「…話し合いといえば喫茶店だよね。ファーストフード店はうるさくて向かないし」


それは俺も同意だ。この際だから、水寺さんの真意が知りたい。


「じゃあ、そういう方向で良いよね? お兄ちゃん?」


「良いぞ」


「こういうのはさっさとやらないと。早速水寺さんの予定を訊こうよ」


「ずいぶん急だな…」

そんなに急ぐ事ないのに。


「だってこうしないと、お兄ちゃんがまた水寺さんを気にしちゃうかもしれないでしょ…」


渚は泣きそうな顔をしている。


「あの時の“シスコン辞める”に、あたしがどれだけ傷付いたかわかる? 泣き顔を見られたくないから、頑張って振舞ったのに…」


「……」

そんな風に思っていたのか。俺は自分の事しか考えてなかった…。


「これ以上あたしを不安にさせないでよ、お兄ちゃん…」

渚は俺に抱き着いて、胸に顔をうずめる。



 あの件は、俺の予想以上に渚を傷付けたようだ。やっぱり人とのコミュニケーションは難しいな。それが妹かつ異性なら尚更か。


…前言撤回だ。水寺さんの件は俺の最優先事項にしないと!1日も早く白黒つける!


「渚。今すぐ水寺さんと連絡を取るよ。だから…」


彼女は俺から離れてくれた。そのままだと操作しにくいからな。


そして…、水寺さんから『明日空いてるよ』と返信が来た。それに渚も納得してくれたので、準備は整った。


渚の本当の笑顔を観るために、俺の全てを水寺さんにぶつけるんだ!

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