第2話 シスコンを辞めるべきか否か

 渚が俺の教室に行くと言った翌日。俺は1人で登校している。これは特別ではなく日常なんだが、そうするには理由が2つある。


1つ目は、渚が朝に弱い事だ。寝起きが良くないタイプなので、起きてから時間が経たないと準備を始めようとしない。


それだけなら『待って一緒に登校すれば良いじゃん』となるかもしれない。しかし、事は単純じゃないのだ。


そう、2つ目の理由の“俺のトラウマ”が関係している。トラウマは大袈裟かもしれないが、今も気にしているのは事実だ。


中学の時、俺と渚は一緒に登校していた。俺が中2で渚が中1の時だな。その登校の様子を見ていた俺のクラスメートが、教室に入ってきた俺に対し「お前シスコンだな~」と言ってきたのだ。


そいつがどういう気持ちで話したかはわからないが、未だに頭をよぎる。渚の事は今も好きだが、周りがどう見てるか気になるから関係を続けて良いか悩む。


だから昨日「シスコンを辞めたい」と伝えた。水寺さんの事は本当に気になるし、辞めるきっかけになるからな。


だが渚は「多様性」と言って反論した。いろんな人がいるのは間違いないが、人の目を気にする人もいるもんだ。


俺に他人の目を気にしない強さがあれば良いんだが…。そんな事を考えながら高校を目指す。



 教室に着き、自分の席に着く俺。隣を観ると水寺さんがスマホをいじっている。なるべく音を出さないようにしよう。そう思っていたが…。


「荒波君、おはよう」

彼女は笑顔で俺のほうを観て挨拶してくれた。


「お…おはよう」

咄嗟の事なので、スムーズに返せなかったぞ。


たまたまキリが良かっただけかもしれないが、俺の挨拶に時間を割いてくれた事が嬉しい。こういうちょっとした優しさが心にしみるな~。


水寺さんはスマホをしまうと好口よしぐちさんのほうに向かって行く。あの2人は仲が良いのか、一緒にいる事が多いな。


…って、つい彼女を目で追ってしまった。本人はもちろんだが、周りがどう見てるかわからない。これからは自重しないと。



 スマホをいじろうにも、渚がいつどのように俺の教室に来るかが気になって集中できない。できれば穏便というか静かに来て欲しいものだ。


…集中できなくても、スマホをいじって気を紛らわせたほうが良いな。俺はホームルームが始めるまで、適当に時間を潰すのだった。

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