第30話
二人は、憂鬱な顔で馬車に揺られていた。
今日は、乗馬に招かれ登城だ。この前言われたので、二人似たような形のドレスで来た。
クラリサは、前回の一件でジュリエに会うのが嫌だった。また何か言われるのではないかと思うと、気が気ではない。なので、どうせ乗馬服に着替えるのだしと、いつもより大人締めのドレスだ。
メルティは、またこの前にみたいにクラリサの機嫌が悪くなれば、馬車で何をされるかわからない。そう思うと、乗馬をする前から気分は優れなかった。
城につくとそのまま着替えさせられ、クラリサとメルティは同じ乗馬服になった。
ふとメルティは気が付く。同じ服など着た事がなかったことに。
どうせなら養女だと知る前に、姉妹お揃いを着て見たかったと思うも、クラリサはそんな事を思った事などないだろう。
「まあお似合いよ、二人共」
ジュリエが二人を見てほほ笑む。その彼女は、馬を連れていた。
「私の愛馬、リーよ。男の子なのだけど相性がいいのよ」
「姉上の気性と似ているからではないですか」
「まあ。誉め言葉として受け取っておくわ」
クラリサが、肘でメルティをつつく。見学すると言えと言っているのだ。
「クラリサ嬢。君は私が教えよう」
「はい!」
「メルティ嬢は、私が教えてあげるわ。私の方が上手いのよ」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます。ルイス殿下。とっても楽しみにしておりましたの。ね、メルティ」
クラリサは、上機嫌だ。さっきまでメルティを見学させようと思っていたが、もうどうでもよくなっていた。
二組に分かれ、乗馬を教わる。
慣れた頃、それぞれ二人で馬に跨りあの池がある林を駆ける。
クラリサは有頂天になっていた。
ルイスに抱きかかえられる格好で、彼の前に跨り一緒に駆けているのだ。この前のお茶会での事は、些細な事。ルイスは気にしていない。
後はメルティに予言をさせ、自分が聖女に収まればルイスと婚約出来ると思うと、気分が高揚する。
「楽しいかい?」
「はい。とても」
「そうそれはよかった。いい思い出になって」
「え……」
それはどういう意味だと思うも、チラッとルイスを見れば微笑まれクラリサも満面の笑みを返す。
その日は、クラリサは上機嫌で過ごした。この日を境に、登城の許可がおりなくなる事も知らずに。
「ねえ、メルティ嬢」
「はい。なんでしょう、ジュリエ殿下」
「ルイスの事をどう思う?」
「ルイス殿下ですか」
突然の質問に困惑するも正直に答える。
「とても親切で優しい方だと思います」
「うーん。親切止まりか」
「えーと」
「ううん。何でもないわ。ところでメルティ嬢には、気になる方っていらっしゃる?」
「はい。憧れている方はいます」
「あら、これは……」
メルティが思い描いたのは、ラボランジュ公爵夫人だ。自分の目標で憧れの人物。ジュリエの質問の意図を理解していなかったメルティは、彼女の事を述べた。ジュリエが聞いたのは、男性の事である。
「これはもう少し頑張らないと、眼中にもないわね」
「ごめんなさい。聞き取れませんでした」
「ううん。独り言よ。そうだ。私が結婚しても仲良くしてね」
「は、はい」
結婚しても一緒に乗馬をしようと誘われたと思ったメルティは驚いた。
こうして、何事もなく帰る事となる。
クラリサは機嫌がよく、メルティは安堵した。
二人の殿下に見送られ、ドレスに着替えた二人は馬車に乗り込んだ。
「うふふ。楽しい? だなんて、ほほ笑んでくれたのよ」
馬車の中では、この前とは打って変わり、上機嫌なクラリサ。
メルティは、ルイスに心の中で感謝する。
お茶会の後のダンスの練習にもルイスが来ており、ラボランジュ公爵夫人に問われ、馬車の中の出来事を話した。
それを聞いたルイスも驚きの表情をし、二人はメルティに謝ったのだ。
クラリサを焚きつけてしまった形になってしまったと。
なので、今回はクラリサを怒らせない様に配慮して下さったのだと、メルティは気が付いた。
ただ、自分もルイスと一緒に馬に乗りたかったと少し残念な気持ちになっている。
「羨ましいみたいね」
「え?」
「顔に書いてあるわよ。いいなぁって」
そう満足そうにクラリサが言った。
(私、羨ましいって思ったの?)
ジュリエとの乗馬も楽しかった。不満はないはずなのにと。
ずるい……久しぶりにそう思う自分が居た。ルイスと一緒に乗馬を楽しんでずるい。クラリサが、機嫌が悪くならないように配慮した結果だとわかっているのにそう思っていた。
そしてこの後、きっとダンスの練習でまた会える。そう思うと、今度は嬉しくなる。クラリサが知らないルイスを知っていると自慢したいと思う自分がいるのだ。クラリサに自慢したいなど思った事がなかったというのに。
「な、何よ」
ついジッとクラリサを見つめてしまい、何でもないとメルティが首を横に振る。
(自慢したいだなんて、どうかしているわ。秘密なのに)
様子が変だと、今度はクラリサがメルティを見つめていた。まさか、メルティに秘め事があるなど夢にも思っていなかった。
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