第13話
「あ……池に飛び込もうとして、騒ぎを起こしてごめんなさい。メルティが聖女だと言い出して、信じて貰いたくて……」
クラリサが、目を潤ませそう訴えた。
「わかった。話は後で聞こう。風邪をひく。そなたも湯を浴びるといいだろう」
「ありがとうございます」
クラリサは、陛下に頭を下げ礼を言う。
侍女に連れられ、各々湯を浴びる。
「陛下、聖女の発表はせめて延期にした方が宜しいかと」
ボソッと、アーセンが耳打ちすると、チラッとそちらの方を見て頷いた。
「ルイスからも婚約の件を考えたいと言って来た。どうやら彼女は淑女として問題がありそうだ」
「そうですか」
軽く礼をすると、アーセンは部屋へと戻っていく。
イヒニオとファニタも控室に戻った。
「全く、あれほど大人しくしていろと言ったのに」
「本当に。一体何が起こったのかしら……」
イライラといら立つイヒニオは、部屋をうろうろとするのだった。
◇
「きつくはありませんか」
「はい。ありがとうございます」
湯を浴び終わったメルティは、空色のドレスを着せてもらう。シンプルだがお上品なデザインで、姿見を嬉しくなって見つめていた。
(ルイス殿下との婚約どうなったかしら)
自分が聖女だと言う前に突き転ばされたが、クラリサが自分が聖女だと主張した事で、メルティが言わんとしていた事が逆に伝わった。
だが、ルイス達がそれをどう捉えたかはわからない。
聖女だと自分の主張を認めてもらうために池に身を投げる事を阻止する事は出来たが、クラリサが聖女だという主張を妨げられたかは疑問だった。
ルイスが婚約を一旦白紙に戻すと言った事を知らないメルティは、せめて婚約の発表だけでも思いとどまって欲しいと願う。
(まずいわ。また熱が出たかも)
湯を浴びて温まったはずなのに、寒気がするのだ。
「失礼します」
侍女に連れられ、湯を浴び終わったメルティは、ある部屋へと通された。
入るとすでに湯を浴び終わり一足先に着いていたマクシムが、こちらに背を向け椅子に座っている。
部屋の中には、ドアのわきに兵士が一人ずつ立っていた。
「あ、大丈夫だった」
「はい。お気遣いありがとうございます」
マクシムが座っている椅子の隣には、あと二つ椅子があった。メルティとクラリサの分だとわかる。
三人の向かい側には、こちらを向いた椅子が二つ。
陛下とルイスが座る椅子だ。幾分三人が座る椅子より華美だ。
「どうぞ」
隣に座れとマクシムが仕草で示すので、頷いたメルティは隣に座った。
「あの、これは……」
「審問だよ。ここで起きた事は、ここで審議する。陛下自らそれぞれの主張を聞いて判断するんだ。ここで述べた事は、すべて記録される」
「それって、聖女の事をですか?」
「うん? さあ、それを審議するか否かは、陛下が決める事なのでわかりませんが、何が起きてこうなったか聞くのでしょう」
子供相手でも審問するのだと、メルティは驚く。
両親の席はない。これなら自分の話を聞いてもらえるかもしれないと期待する。
疑問を抱かせるだけでいい。
30分ほど経った頃、クラリサも到着する。
「何、ここ……」
両親がいる貴賓室に戻ると思っていたクラリサは、驚きの声をあげた。
部屋に入れば兵士が立っているし、マクシムとメルティが並んで座っている。
「座ったら?」
マクシムに促され、クラリサが開いているメルティの隣の椅子に腰を下ろす。
「遅かったね」
「………」
マクシムに言われるもクラリサはムッとして黙り込んだ。
このまま聖女の祝賀会が行われると思い、白いドレスにしてもらって髪も編み込みをしてもらうなどして、おしゃれをしていて時間がかかっていた。それを見てわかったマクシムが、嫌味でいったのだ。
「陛下のご入場です」
クラリサが到着後すぐに、陛下とルイスが部屋に訪れた。
陛下とルイスが、三人の前に腰を下ろす。その脇には、兵士が立った。三人の脇とそれぞれの後ろにも兵士が立ち、重々しい雰囲気だ。
ぱたんとドアが閉まり、クラリサは初めて恐怖を感じた。
味方となる両親がいないのだ。
「さて、私が訪ねるので、問われた者が答える様に」
「「はい」」
マクシムとメルティが返事を返すが、クラリサは上手く声がでなかった。
「では、マクシム。今回の事について事のあらましを聞きたい」
「はい。僕……私が、父に言われ彼女達を雑木林に案内しました。そこで、メルティ嬢が私に話しかけたところ、突然クラリサ嬢が彼女を突き飛ばしたのです」
「そ、それは……」
「クラリサ嬢、私が発言を許す時だけ述べなさい」
口を挟もうとしたクラリサに、強い口調で陛下が言うと彼女は俯く。
「続きを」
「はい。倒れ込んだところにルイス殿下が現れ状況を問われたのですが、クラリサ嬢が聖女は自分だと言って池に飛び込もうとしたのをメルティ嬢が止めようとして、彼女が池に落ちてしまいました。この場合、私が止めるべきでしたのに咄嗟の事で阻止できず、この様な事態になり申し訳ありません」
座ったままだが、マクシムが頭を下げた。
マクシムは何も悪くないのにと、メルティは申し訳なくなる。彼が言う通り、マクシムが止めに入っていれば、誰も池に落ちずに済んだだろう。
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