第9話

 話が違う。

 届いたドレスを前に、唖然としてメルティは佇んでいた。


 メルティのドレスは、聖女の祝賀会の前日の今、届いて受け取った。

 母親のファニタと姉のクラリサのドレスは、一度手直しで合わせる為に仕立て屋が持って来ている。それを見たメルティは、自分のドレスも早く見てみたいとワクワクしていた。


 クラリサのドレスは、メルティが選んだベビーピンクに雪の結晶の模様だった。結局、白ではなくそれが選ばれていた。

 だからファニタがお揃いにしようと言ったのだと、納得する。

 銀のレースがスカートに広がっていた。スカートの裾に何やら刺繍が施されている。これもまだ全部終わってないらしく、祝賀会までには完成させるとの事。


 ファニタのドレスは、エレガントだ。濃い青紫色にラメが入っていて、夜のきらめきの様だ。こちらは、レース生地を重ねてはいない。

 だが、小さな宝石がちりばめられていた。それが夜空を連想させる。


 メルティは、自分は何色なのだろうと待ち遠しかった。

 昨日届いた完成したファニタのドレスにも刺繍が施され、さらにグレードアップしていて驚いた。

 そんな中、届いたメルティのドレスは、豪華さは皆無だったのだ。


 ファニタが手に取って見せたあの、黄土色の生地で形もファニタと違う。

 金のレースが重ねてあり、まだそれがあるのでくすんで見えないだけまし。極めつけは、腰の後ろの大きなリボン。

 これが、あのベビーピンクのドレスなら可愛いに違いない。


 「お母様! 話が違うわ。全然お揃いではないじゃない!」


 ファニタの部屋に駆け込み、メルディは泣き叫ぶ。


 「びっくりした。もうそんなに泣いて、明日の祝賀会に目を腫らして行くつもり?」

 「祝賀会になんて行かないわよ!!」

 「何を言うのよ。行くと約束したでしょう」

 「だって! 約束と違うじゃない」

 「同じ生地の色違いよ。約束通りでしょう」

 「デザインが全然違うし、あの色嫌っていったわ」

 「子供と大人が同じデザインなわけないでしょう。かわいいじゃない。あまりわがままいわないの」


 もう疲れると言わんばかりにファニタは、大きなため息をついた。


 「もういい!」


 泣きながら部屋へと戻る。

 クラリサの我が儘は聞くのに、自分のは聞いてもらえない。何も変わっていなかった。あの時、やり過ごしただけだったのだと、気づく。


 「いいもん」


 アールに渡された首飾りをつけて行く事にした。

 きっとドレスには似合わないだろうけど、あの首飾りは目立つ。

 メルティは何か、主張したかった。というか、反発したかった。


 今日まで、毎朝朝食時に見た予言の内容を話し伝えたが、三人共段々またかという雰囲気になっていった。

 いつも、使用人の予言ばかりだからだ。

 それでもメルディは、見た予言を頼りに使用人に教えて回った。その度に、クラリサにありがとうと伝えてと言われ、その度に憂鬱になる。

 それなのに、またぁっとクラリサが言うのだ。

 今日の朝食時も――。




 「結局、陛下にご報告する予言が一回もなかったじゃない。私の立場がないわ」

 「立場? 立場って何?」

 「聖女としての立場よ。あの一度きりだと疑われるでしょう」

 「疑われるも何も、お姉様は聖女ではないじゃない」

 「やめないか二人共! いいか。明日は、聖女の祝賀会だ。絶対に会場で、喧嘩などするではないぞ!」


 喧嘩をする二人に、イヒニオは怒鳴る。


 「いちいち、突っかかって来るメルティが悪いのよ」

 「聖女の役目と言うのなら、使用人に聖女としてお姉様が伝えるべきでは?」

 「やめなさいと言っているだろう! いいか。聖女はクラリサだ。メルティ、お前はサポート役だ。わかったな」

 「サポート?」

 「そう思えば、気が楽だろう」

 「………」


 メルティは、愕然とする。

 本当の聖女は自分なのに、聖女なのは姉であるクラリサだとイヒニオが言ったのだ。つまり、予言を姉に教えるのがサポートと言う事だろう。


 「助けたのに……そんな風に言うなんて! 助かったのは誰のおかげ?」

 「なんだと? もう一度言ってみろ! 予言がそんなに偉いのか? 私が伝えたから未然に防げたのではないか! 生意気な事ばかり言っているのではない! ドレスだって今日届くのだろう!」


 そう言われ、泣きながらメルティは部屋に戻った。

 心の支えだったドレスも散々で、もう何だかどうでもよくなりディナーは食べずに、その日は泣きながら寝た。


 次の日、目を腫らしたメルティは目を覚ます。

 今日も今日とて、セーラが洗面器を持ってきた。

 もう予言なんて見たくも知りたくもない。

 そう思っても洗面器を覗き込む。


 「え……」


 パッと顔を上げると、引き出しに目線が行く。

 予言は、ファニタが凄い形相で手を振り上げているところだった。ただ手を振り上げているのではない。何かを持っていた。それが、アールから貰った首飾りだ。

 映像では、それをファニタが手に持って、今にも叩きつけそうに見える。


 (どうして? 勝手な装飾をしたから? それともサプライズが関係しているの?)


 この予言を避けるには、着けない事が一番だ。それに、見つかってもいけない。

 メルティは、ファニタのあの形相が忘れられなかった。怒り、いや憎しみが表面に出ていたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る