4 偉い人②

「…………うん?」


 静かな生徒会室の中、書類を片付けている生徒会長「月島颯太」がスマホをいじっていた。


 ???「颯太くん〜。何してるの〜? 会いた〜い!」

 月島颯太「昨日はちょっと忙しくて、ごめんね」

 ???「うん……。じゃあ、今日は? 今日もダメ?」

 月島颯太「どうかな。あ、そうだ。今からやるべきことがあるから後で連絡する。ごめんね」

 ???「えええ〜。分かった」


「か、会長……?」

「うん? どうした? 伊藤」


 ちょうど生徒会室に入ってくる綾、颯太は彼女の足音に気づいていた。

 そして、笑みを浮かべる。


「ふ、二人の時は……。し、下の名前で……呼んでください」

「ふーん。分かった。それにちょっと確認したいことがあるから、こっちきてくれない?」

「…………は、はい」


 目の前で照れている綾を見て、笑いを我慢する颯太。

 彼は優しく綾の頬を触りながら、人差し指で胸のところを押す。ビクッとする綾の反応に颯太がくすくすと笑ったけど、彼女は何も言わずそのままじっとしていた。息をする音すら大きく感じられる生徒会室の中で、綾が颯太の手を握る。


「…………」


 真っ赤になった顔で颯太を見つめる綾、そして二人の雰囲気がガラッと変わる。

 颯太が、先にキスをしたのだ。


「か、会長……?」

「いい匂いがする。綾ちゃん……」

「そ、そうですか? こ、これは……この前に買った香水です!」

「そうか。ねえ……、あれが見たくなった。シャツ、脱いでくれない?」

「えっ? こ、ここで……!?」

「うん。どうせ、誰も来ない。昨日、楽しい思い出をたくさん作ったから……。見たくなったよ」

「…………」


 ちらっとドアの方を見る綾が、震える手でシャツのボタンを外す。


「恥ずかしいなら、俺がやってあげる」

「えっ?」


 後ろから綾のシャツを脱がして、そのまま抱きしめる颯太。

 男の前でいきなり半裸になっても、綾は一言も言えなかった。むしろ、気持ちよさそうな顔をして振り向く。彼女は颯太に胸を揉まれても、首にキスをされても、抵抗せず全部受け入れていた。


「…………」


 両袖机に座って、綾を気持ち良くさせる颯太。その行為がどんどん激しくなる。

 そして生徒会室の床には、綾のシャツとスカートが散らばっていた。


「うっ———♡」

「可愛い声、もっと出してみて……」

「会長……♡ 好きぃ……です」

「ふふっ。いい子だね。綾ちゃんは…………」

「い、いきなり……脱がすのは良くない……と思います……」

「綾ちゃんはこの格好が一番可愛いから」

「意地悪い…………」

「ふふっ」


 人差し指で綾の胸を触る颯太。

 白い肌に残された真っ赤なキスマークを見て、彼は微笑んでいた。


「…………こ、困りますよ。こんなにたくさん……」

「そう? 嫌だったんだ」

「で、でも……! つけてくれるのは気持ちいいから……、また……」

「うん。分かった。そして、俺がプレゼントしたそのネックレスも似合うよ。綾ちゃん」

「は、はい……。ありがとうございます! でも、高かったはずなのに……」

「いやいや、九万円で可愛い綾ちゃんに好きになってもらうなら安いもんだよ。それに、昨日すっごく気持ちよかったからさ。むしろ、俺の方から感謝の言葉を言わないと……」

「…………ううぅ」


 じっと下着姿の綾を見つめる颯太。

 そして、さりげなくキスをする。

 二人は誰にもバレないところで、楽しい一時を過ごしていた。


 ……


 イチャイチャするいずみと吉岡から逃げたけど、特にいく場所はなかった。

 今頃、綾とあの先輩は生徒会室で何をしてるんだろう。学校だから何もしないと思うけど、それでも気になるな……。そして、朝比奈先輩にどうやって返事をすればいいのかずっと悩んでいた。いろいろ複雑だな、俺の状況……。


 無視するのもできないし、浮気は本当だから……俺は。

 いや、ため息しか出ない。


「ため息をつくのは良くない癖だよ。柳くん」

「あ、あ、朝比奈先輩……?」

「よっ! 君が奏美ちゃんが言った柳くんかぁ! よろ〜」

「えっと……」


 いきなり先輩たちに声をかけられて慌てていた。


「あっ! 自己紹介まだだよね! 私は秋穂あきほりら。奏美ちゃんと同じクラスだよ。そして柳くんの事情も知ってるから、いつでも相談に乗ってあげる! いい先輩でしょ? ふふふっ」

「は、はい。ありがとうございます。柳連夜です。よろしくお願いします」

「可愛い後輩だね〜」


 秋穂先輩はすごく積極的で、優しそうなイメージだった。

 それに、ギャル……。


「秋穂、うるさいよ……」

「ええ……」

「柳くん、これ」

「えっ?」

「この前にジュース買ってきてくれたから、あの時のお礼だよ」


 先輩が俺にアップルジュースを……? 慣れていないこの状況に、俺はすごく緊張していた。

 

「奏美、冷た〜い。私みたいに優しく言ってみて! 柳くん〜♡」

「秋穂、気持ち悪い…………」


 ええ……、朝比奈先輩怖っ。


「ひん……。可愛くない女の子はモテないからね! と言いたいけど……、なんで奏美ちゃんが私よりモテるんだよぉ!」

「知らないよ……。あんな人たちに興味ないから…………」

「……あ、あの喧嘩は良くないと思います!」

「ぷっ! 喧嘩なんかしてないよ〜。奏美ちゃんはいつもこんな感じだからね! ふふっ」

「そ、そうですか?」

「そうだよ! 私は奏美ちゃんの親友だからね! ふむ!」

「は、はい……」


 で、この先輩たちはここで何をしてたんだろう。

 俺は特にいく場所がなかったからここにきちゃったけど、普段は誰も来ない場所だからな。


「柳くん」

「は、はい!」

「返事はまだかな……? まだ、悩んでるの?」

「あ……。ちょっと……だけ! 時間を…………」

「そう? 分かった。いきなり声をかけてごめんね」

「い、いいえ! あの、ジュースありがとうございます!」

「うん。授業頑張って」

「はい!」

「バイバイ〜。柳くん」

「はい!」


 やっぱり、朝比奈先輩の前にいるとすぐ緊張してしまう。

 それにわざわざジュースを……、優しすぎる。

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