異界のマンガ拳~転生先で、前世は漫画でしかできなかった謎武術を駆使して無双する~

@slamaam

第1話

 そこは見渡す限り一面の緑だった。

多い茂る木々が行く手をふさぎ、人を拒む。

そんな人を拒絶する環境に、怒号が響き渡る。

「おらおらあ、どうせ逃げたって捕まるんだ!」

「ひひひっ、捕まえたら何しよっかなあ~、まずは脚を一本切り落としてみるのも楽しそうだなあ!」

顔は、全身を覆う鎧と鉄仮面に覆われて直接は見えない。しかしおそらくゆるんだ下卑た表情をしているのだろう。

人の腕ほどの長さのマシェットを振りまわし、行く手を阻む蔦や枝をなで斬りにしながら進んでいく。

「おい、獲物の痕跡がわからなくなる。枝を切るのもほどほどにしろ」

「あ、兄貴、すいやせん。」

兄貴と呼ばれた一番ガタイの良い男に、マシェットを持った痩せた男が謝る。

「それよりも、先に斥候に行かせた奴が帰ってこないな。」

「も、もしかして、先に獲物を捕まえて抜け駆けを・・・!」

そんな愚鈍な愚弟を後目に、兄貴と呼ばれた男は思案する。抜け駆けで楽しんでいるにしては、静かすぎるのだ。獲物の女の悲鳴一つ聞こえてこない。

そんな時、手前の茂みからガサガサと音が鳴り、こちらえ人影が出てきた。

それは斥候に行かせた末弟だった。だがヨロヨロと今にも斃れそうな歩き方をしていてどうにもおかしい。

「おい、どうした、何があった!」

「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ・・・」

「なんだこいつ、様子が・・・」

ふらふらと歩きながらひたすらごめんなさいとだけ何度も何度も言い続ける。

その時だった。

「ぎえぇぇぇぇぇい、かゆい、かゆいかゆいかゆいかゆいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなざいいいいいいいいい」

兜を脱ぎ捨て、首を凄まじい勢いで掻き毟りだした。血が吹き出ようか、肉がちぎれようがお構いなしだ。

「おい、やめろばか!」

近くにいた仲間が手を抑えて制止に入るが、物凄い力でそれをはねのける。

「ごべ・・・がざ・・・」

そのまま首を掻き毟り、頸動脈まで引きちぎり絶命してしまった。

二人はその様子を呆然と見ている。

普通に考えるなら、これは人の仕業ではない。では魔獣か、悪魔か。非力な獲物を可愛がることに夢中になっていた、男たちの滾った血が徐々に静まっていく。

「…こいつはその場で殺されず、ここに帰ってきてから死んだ。どういうことかわかるな?」

「捕食が目的ではない・・・警告か、もしくは・・・」

「泳がせて、俺たちごとまとめて始末するつもり・・・」

「正解だ」

突如横から仲間ではない男の声で返事が返ってくる。

「誰だ!」

言うが早いかマシェットで弟が横を薙ぐ。が、途中で刃が止まり一寸たりとも動かなくなる。木に刃が当たり食い込んでしまったのだろうか…いや、木ではない。人だ。

 信じがたいことに、自分同じくらいの背丈の、それも痩身の男がマシェットの刃を指2本でつまんで止めている。一体どんな反射神経、膂力があればこんな芸当が可能なのだろうか…と、おそらく弟は驚嘆していたのだろう。その硬直をかき消すようにさらなる追撃が放たれる。兄もマシェットを抜き放ち、右手で男の脳天めがけて降り下ろしたのだ。

 男は空いているもう片手で兄の振りかぶるマシェットもつまみ、白刃取りをした。

「馬鹿め!」

両手がふさがった男はこれ以上の白刃取りはできない。そこで兄が左手で短剣を抜き男の首筋目掛けてつき出したのだ。

 こうして両手のふさがった男は兄弟の反撃によって返り討ちにされる。と、なるはずだったが男の技はその一歩先を行っていた。

繰り出された短剣を蹴りで横へ反らし、空かさず頭へ蹴りを入れたのだ。よほど強烈だったのだろう、蹴りで兄と呼ばれる男の動きが一瞬止まった瞬間、さらに腹を蹴って蹴り飛ばし、距離を取ることに成功した。さらに、マシェットをつかんだままの弟の方続けざまに蹴り飛ばし、2人から距離を取った。

「上手く仕切り直しにしたようだが、2対1。せっかく奇襲をかけたのに無駄になっちまったようだな。もう逃がさねえぞ。」

「いや、お前たちはもう、死んでいる。」

兄と呼ばれる男の挑発を、男は軽く流した。

「ははっ!そりゃお前の方だろう!不意打ちがパーになって2対1で不利な状況ってのがわかんねえの・・・か・・・かぱぱぱ・・」

「あ、兄貴?一体どうしたんで・・・でぽぽ・・・」

見ると二人の頭は無数のこぶのようなものが次々とでき、顔は大きく変形しだし今にも爆ぜそうなくらい膨れている。

「がぎ・・・ぎざま、なにぼじだ・・・」

「それを教えたところで、既に死んでいる者には必要ないことだ」

兄弟は揃って嬌声をあげながら顔が爆ぜ、噴水のように血を噴き出して倒れた。それを見届けることなく男は背を向けて立ち去って行った。


「もう大丈夫だ。」

少し歩いてから、木の根元の洞にむかって男は話しかけた。

そこには獲物として追われていた少女が身を隠していた。しかし、少女の顔はひどく青ざめていた。彼女は見てしまったのだ。

(もしかして、あの男たちよりもっと危険な人を私は頼ってしまったのではないでしょうか・・・)

だが向けられる顔には優しい笑顔が浮かんでいた。顔は返り血に濡れていたが、さっきの男たちの下卑た笑みとは違う、優しい笑顔だ。

密林に差す陽光が木漏れ日となって薄暗い周囲を照らしている。

丁度、安堵する少女と男の周囲に。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異界のマンガ拳~転生先で、前世は漫画でしかできなかった謎武術を駆使して無双する~ @slamaam

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る