『ただ今巷で婚約破棄ブーム!』(1247字)


 ここ数年前から、巷で流行っている信仰がある。


 一般家庭ではそこまで浸透していないが、ある程度の地位がある家庭では、幼い頃から親の決めた同等の位の相手との婚約が決まっていることが多いので、この信仰が特に浸透していた。



 ――それが、通称「婚約破棄至上主義」と呼ばれる信仰だった。



 その内容は、親が決めた婚約者ではなく、とする信仰で、地位や立場を抜きにして自分の選んだ相手が最上だとするものだった。


 基本的に婚約者という存在は、自分の家の地位を保つためであったり、周りの目を意識するためであったりで__とにかく、最初から当人が愛し合った結果の相手であることの方が少ない。


 親に決められた婚約者がいるものの、この先愛していけるか不安な気持ちや、すでに相手を決められていることへの不満が、この信仰が広がった理由の一つなのだろう。

 

 別に、誰が何を信仰しようが個人の自由だ。

 家族や婚約者が相手だったとしても文句は言えない。


 しかしこの信仰の厄介なところは、自分が婚約相手を糾弾して別れる場合と、婚約相手が自分が糾弾して別れる場合でそれぞれ理想の方法が違う、ということにあった。


 例えば前者であれば、婚約者の浮気症を自分が糾弾するなど、相手が全面的に悪い場合が理想として挙げられている。こちらに関しては婚約者がいるのに浮気する相手の落ち度なのでしょうがないと思う。別に文句はない。


 しかし後者の、婚約者から糾弾されて別れる場合だと話が変わってくる。

 相手が自分を糾弾する際、相手の勘違いや周りの印象操作など、といわれているのだ。


 自分が相手を糾弾する場合も、相手が自分を糾弾する場合も、どちらも相手側が悪くなければならない。

 それは、この至上主義を信仰しているのは女性が多いため、女性に都合のいいように作られているのだろう。

 

 つまりこの信仰のためには、


 つまり彼女たちは自分の信仰のもと、相手が自分に濡れ衣を着せて糾弾してくれるよう日々画策しているようだった。



――もしかしたら、婚約者が浮気をしているのかもしれない。



 つい先日、友人からそう言って婚約者の浮気を相談された時、思い当たることがあって色々調べ、この至上主義へとたどり着くことになった。ある程度の地位があり一部では悪評のある彼女たちのことを、どうやら「悪役令嬢」と呼ぶこともあるらしい。


 確かに婚約者を貶めようと画策する彼女たちは、まさに「悪役令嬢」だなと、友人の婚約者を糾弾する証拠をまとめながら考える。


 別に、誰が何を信仰しようが個人の自由だ。

 家族や婚約者が相手だったとしても文句は言えない。

 しかし、他の誰かの人生に迷惑をかけるなら話は別だ。


 友人が婚約者に糾弾する前でよかったと思う。


 大切な友人の人生が「悪役令嬢」に壊されないように、と冤罪をでっち上げようとした最後の証拠をまとめ終えて部屋を出て行った。

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シュレーディンガーの物語 そばあきな @sobaakina

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