『好き嫌いをしてはいけません』(969字)
「ご飯よ」とママが僕を呼ぶ声がして、僕は「はーい」と返事をしてテーブルにつく。
ママやパパと一緒にテーブルを囲んでご飯を食べる。僕はこの時間が好きだ。
でも、テーブルに並んだ料理を見て、僕は思わず「あれ」と言ってしまったんだ。
「どうしたの?」
不思議そうなママの顔を顔をじっと見て、僕は聞いてみる。
「ねえ、これって昨日と同じ料理?」
「え、違うわよ?」
ママは首を振ったけれど、僕には同じ料理にしか見えなかった。
最近、ずっとこうなんだ。
ママの作る料理はほっぺたが落ちてしまいそうなくらいおいしい。
なのに、最近ずっと同じ味の料理が出ている気がするんだ。
こういう味がママは好きなのかな。
でも少し、飽きちゃってる。
どう言ったら、ママが傷つかないか、最近ずっと考えているんだよね。
僕は早速、昨日友達と考えた言葉をママに言ってみることにした。
「友達が言ってたよ。たくさん取りすぎると、ゼツメツしちゃうんだって。こんなに食べちゃったら、いなくなっちゃうよ」
でも、僕の説得はママには届かなかったみたい。
僕の言葉に、ママがにっこりと笑う。
「大丈夫よ。まだまだたくさんいるから」
ママの言葉を聞いて、パパも「そうだぞー」なんて言っている。
「それに、昨日は炒め物だったけど、今日は煮つけにしたんだから」
ママはそう言うけれど、目の前にある料理は、何度見ても僕には昨日食べたものにしか見えなかった。
ママの説得を諦めて、僕は目の前の料理をじっと見つめる。
ママが言っていた。
何かに秀でているのは、凄いし褒められることだ。
でも、秀ですぎているのはダメなんだって。
そういう人は、いつかルールも平等も、全部壊しちゃうからって。
いただきます、と僕は料理を口に入れる。
口の中に入れた「だいまどうしのうまれかわり」は、やっぱり昨日食べた料理と同じような味がした。
昨日の材料は「ぜんぜにせかいをすくったさいきょうゆうしゃ」だから違うはずなのに、僕が思っていたとおり同じような味だった。
きっと種類が似ているのだ。
そうじゃなきゃこんなに味が似ているわけがないのだ。
「これでまた一つ世界が平等になったなあ」なんてのんびりした口調でパパが口を拭いている。
明日はもっと別の味を食べたいなと思いながら、僕は手を合わせる。
「ご馳走さまでした」
だって「好き嫌いをしてはいけません」って、ママがよく言うからね。
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