ことば

ゆきのともしび

ことば




このせかいに 美しい ということばが存在しなかったら


わたしはこの月のひかりを


なんと表現したらいいのだろうか


冷たい澄んだ大気を


星のきらめきを


なんと表現したらいいのだろうか



美しい ということばが存在しなければ


この世界はもう少し


おだやかであったのだろうか



「美術館に行かなくても


絵画みたいなうつくしい瞬間って、そこらじゅうにあるよね」


ココアを冷ましながら、隣に座って少年はいう



「じゃあなんのために、画家は絵をかいているんだとおもう?」



僕は問う



「みんなと一緒にみたかったんじゃないかな


うつくしい景色を ひとりでみるのがさびしいから」



少年は ロシア人ピアニストが弾く


メンデルスゾーンの無言歌集に  耳を澄ましている



音の粒が 何層にも重なり 流れる



それは いのちの底流




彼とっての孤独は わたしにとっての孤独なのだろうか



音は意志を持ち 


いつかみた クリムトの金魚のように


官能的な笑みを浮かべて たわむれている







世界の成り立ちなんて


ふるくから知っていたかのように







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ことば ゆきのともしび @yukinokodayo

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