診察マイノリティ

トモユキ

第1話 診察マイノリティ

「次の百合の方、どうぞ」

「……よろしくお願いします」


 消え入りそうな声と共に入ってきたのは、まだ小さい女の子だった。男性である私を見ると、恥ずかしそうに顔を伏せてしまう。

 私はにこやかな笑顔を作り、彼女の警戒心を解こうとする。


「安心して下さい。私は数々の百合を診てきた専門医です。君くらいの年齢で百合に目覚めたとしても、全然恥ずかしい事じゃないよ。むしろ早く目覚めてくれて良かったとする論文もあるくらいだ」

「……本当、ですか?」

「もしよかったら、君が百合好きになったきっかけを、先生に教えてくれるかな?」


 少女は頬を真っ赤に染めつつも、静かに話し始めた。


「この前……知らない女の人二人に、声をかけられたんです。裏道に連れていかれて気付いたら、もう男の人が絡んでくるだけで鳥肌立っちゃって……女の子同士じゃないと受け付けない身体になっちゃったんです」

「なるほど、百合ップル調教モノでしたか」

「女の子同士なんて、今まで考えた事もなかった。でもそういう価値観もあるんだって知ったら、もっと興味が出てきて……」

「それで百合になってしまった、と」


 少女はこくんと頷いた。

 私はカルテに要点を書き残すと、小さな患者に向き直る。


「その女の人は、二人ともすごく綺麗なお姉さんだったんじゃないのかい?」

「えっ、どうしてそれを?」

「それはね……その二人が、オセロ星人だからだ。彼らは擬態が得意で、地球人に化ける時はいつも美男美女になる習性がある。元はタツノオトシゴそっくりな異星人だというのに」

「そんな! あんなに優しく……」

「君が百合になってしまったのは、オセロ星人のお姉さんに挟まれたからだ。わかるかい?」

「……もしかして、私っ……!」

「そう、君はショタだったんだ! それがオセロ星人のお姉さんに挟まれて、百合女子になってしまったんだ!」

「そんな……どうしてこんな事に」

「古来より、百合の間に挟まれる男は許されないとされている。オセロ星でもそれは同じだ。だが安心してほしい。私は百合科の専門医で、オセロ星人の生態にも詳しい。君のような患者を治療した経験も多数ある」

「先生、私、治るんですか!?」

「安心しなさい。早速治療を始めよう」


 私は診察室のカーテンをめくると、奥で控えていたイケメン看護師二人を手招きで呼び寄せた。

 彼らは診察室に入ってくると、丸椅子に座る女の子の左右に立つ。


「先生、もしかしてこの人達……」

「紹介しよう。彼らは男性に擬態したオセロ星人。治療は既に、始まっている」

「アーッ!」


* * *


「気分はどうかな?」

「はい! なんか俺、すっかり元通りになったみたいです! ありがとうございました!」

「それは良かった、お大事に」

「お礼に今度、先生の家に遊びに行ってもいいですか? 得意の一人チャンバラ、お見せします!」

「ああ、それなら紹介状を書いておこう」

「パーティのですか!? 素敵です!」

「知り合いに、良い薔薇科の専門医がいてね」

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診察マイノリティ トモユキ @tomoyuki2019

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