第85話『こういうツケって回ってくるもんだな』
その森に入ると、途端に音が遠くなった気がした。
森自体は何の変哲もない、普段と同じ森に見える。でも同じに見えるだけなのかもしれない。そう思うと、何となく空気も違って感じる。
音が遠くなったのは、森が静かだからだ。人の気配を気にして息をひそめる動物たちは、普段から森の中で騒がしくしてはいない。森が静かじゃないのは、モンスターがいたからだ。
でもここは静かで、それはつまりモンスターがいない事を示している。それでもしんがりを務めるコウは、油断無く周囲の気配を探っていたけど。
「入口に門とかあるわけじゃないんだね」
レツはそう言って森を見回した。
遠く響く鳥の声。俺たちは王都を出てから、馬で進んで三日目に妖精国のある森に着いた。森は緑が濃く、でも無駄に下草が茂っているような手つかずの感じはなかった。
なんというか、全てが自然なのに絶妙なのだ。降り注ぐ光も木々の枝振りも絡まる蔦も、繁る下草も全てがちょうど良く心地よい量。これも魔法の成せる技なんだろうか。
バトルもなく心地いい風の通る森の中の道を進むだけなので、だいぶ森の深くまで進んだ気がする。
「どの位行けば、街か村っぽいところに着くの?」
ハヤの問いかけにキヨは肩をすくめた。
「だいたいの記述には森の中心としかねぇからなぁ……厳密にどの位ってのはわかんねーけど、とりあえずモンスターもいないんだし道を進めばそのうち着くだろ」
「妖精の王都ってどんなかなぁ……」
レツが夢見るような表情で森の梢を見上げた。
「木がおうちになってるんだよね……」
「木と木が渡り廊下で繋がってたりして……」
「みんなシンプルなずるずるを着てて、飾るのはシンプルな宝石……」
「エルフ自身が美しいから余計な飾りはいらないんだよ……」
レツったら何だか幸せそうな表情で口開けてるよ……って思ったら、シマもハヤも似たような顔でほうっとため息をついて妄想していた。
「団長はあの二人と会わないようにしないとだな」
キヨが笑ってそう言うと、ハヤは鋭い目でキヨを睨んだ。表情が一変するのが怖い。
「あれはキヨリンの所為でしょー! エルフの子たちにモテなかったら責任取ってよね!」
でもあの選択したのはハヤだし、まるっきりキヨの所為とも言えないと思うんだけどね。
「でも城門も何もないのに、人間が突然現れたら怪しまれないかな?」
「エルフのイメージって平和的なのに、そんないきなり襲ってきたりしないでしょ」
イメージは確かに平和的な感じだよな。自然を守るために結界を敷いてるくらいなんだし。まぁ、森とか大々的な伐採したくても、モンスターがいる限り人間には無理だと思うんだけどさ。
でも人間は城壁で街を守っていたりするのに、エルフは本当に何もなくていいんだろうか。
森がどう見ても完全に自然のものって気がしないくらいキレイなんだけど、これがエルフの魔法なんだとしたら、ここまでエルフの魔法が効いてるって事だから変な人が来たらすぐわかるのかな。
「エルフは人より古くて原始の種族だし、人が想像もつかないくらいの魔法の力もあるんで、何となく近づきがたいってイメージがあるらしい。
相当悪意があるヤツなら、もしかしたらそんなの気にしないで乗り込むかもしれないけど、そういうのはたぶん森に入って進む事すらできないんじゃねーかな。無事進めてる事自体が許された証拠って気がする」
キヨは少し考えながらそう言った。
ただ、俺たちも進めてるだけで何の標も見えないから、迷っているのかもしれないんだけど。
すると突然、がさっと葉擦れの音がして俺たちの前に男性が現れた。呆然とした顔で俺たちを見上げる。
ぼさぼさの髪に薄汚れた服装に中途半端な量の荷物、エルフじゃない。人間の男性だ。
「お、お前たち、妖精国に行くのか」
男性は唐突にそう言った。馬に乗った俺たちに比べると、随分とみすぼらしい。
キヨは彼の横に馬を止めた。チラッと俺たちを気にする。
「そうだが」
「妖精国なんてどこにもないぞ! この森にあるなんてのは嘘っぱちだ。俺はここの南から逃げてきた。妖精国なら何とかしてくれるんじゃねーかと思ってな! だがどこにもない!」
男性は何だか恨みを吐き出すようにそう言った。俺たちを睨む。
「しかし、この森にあると」
「だからねーんだよ! 俺はもう何日もこの森を彷徨ってるが一向に辿り着かん。もう森中をくまなく彷徨ったがな、どこにもねーんだよ!」
俺たちは顔を見合わせた。
妖精国がどこにもないなんて……それじゃ、どうすればいいんだ? この森にあるってだけの情報でここまで来たし、今までだってキヨのナビで進んできたから、こんなところで全く違うなんて思いもしなかった。
キヨは少し困ったような顔で俺たちを見てから、男性に向き直った。あれ……?
「我々も妖精国の厳密な位置は知らない。地図を残す事を嫌うとの事で、」
「だからな! 嫌らしいエルフの奴らは、俺たちを助ける気なんかねーんだよ。結界を壊してモンスター使って俺たちを襲うつもりなんだ。このままじゃ腹の虫が収まらねぇから乗り込んでやろうとしたのによ」
男性はそう言って唾を吐いた。
さっきは助けてもらおうとしたみたいに言ったのに、本当は危害を加えようと思ってたのか?
キヨは同情するような、少し辛そうな顔をしていた。
「……この道を戻ると森を抜けられる。街道までは幾日かかかるだろうが、運が良ければ同じく王都へ向かう者たちに合流できるかもしれない」
キヨの言葉に、男性は気を落ち着けるように小さく息をついた。
「……あんたたちはどうするんだ」
「我々は……来たばかりで諦めるわけにはいかない。もうしばらく探してみるつもりだ。情報をありがとう」
男性は面倒そうにキヨを見上げ、それからブツブツと何か恨み言を呟きながら俺たちに「エルフに騙されてるぞ」と言って去っていった。
俺たちは馬上から彼の後ろ姿を見えなくなるまで見送った。
「キヨ、妖精国が無いって……」
「どうすんの? 場所知らないんでしょ?」
レツも不安そうにキヨに振り返った。
その時には、もうキヨはいつもの面倒くさそうな表情だった。あれ、さっきまでの……
「……いや、むしろもう着いてるな」
「え?」
俺は呟いたコウに振り返った。周囲に視線を走らせている。どういう事?
「キヨリン、芝居してまであの人遠ざける意味って?」
キヨはチラッとハヤを見た。
うん、さっきの応対、絶対にキヨの素じゃないし。我々なんて言葉づかいを迷った森の中でしてたら、あんまり現場に慣れてない役人っぽい。馬から下りない上から目線だしな。
キヨは小さくため息をついた。
「あんなのが近くに居たからなのか、俺たちも簡単に入れなかったのは」
「申し訳ありません」
キヨが呟いた言葉に、透き通るようなキレイな声が応えた。
俺たちが顔を上げると、道の奥に色素の薄い長い金髪の女性が立っていた。
キヨがすぐに馬を下りたので、俺たちもキヨにならって馬を下りた。女性はちょっとだけ苦笑混じりに微笑みながら俺たちに近づいた。
「悪意のある者には妖精国は開かれないんですね」
「エルフは争いを好みません。悪意は悪い流れを生みますから、察知することができるので」
それであの人は森を彷徨い続けたのに妖精国を見つけられなかったの?!
じゃあ、ずっと妖精国に居ながらそれを見ることは出来なかったんだ。
なんだか不憫……でも南を追われたのをエルフの所為にして、悪いことしようとしてたんだからしょうがないのかな。
「察知と言っても、初めから排除するためのものじゃないでしょう。むしろ感じてしまうエルフの方が辛いんじゃないですか」
ハヤがそう言うと彼女は少し驚いたようにハヤを見て、それから優しげに微笑んだ。
シンプルなチュニックにスリムなパンツ。薄いミント色のショールを肩からかけて、革のサンダル。もちろん、彼女も例に漏れずすごい美人だ。
「どうぞ、ご案内します」
彼女はそう言って俺たちを促すように道の奥へと歩き出した。俺たちは馬を引いて彼女のあとに続いた。
「悪意がバレちゃうんだったら、こないだの合コンはヤバかったんじゃね?」
シマがキヨに近づいて言うと、キヨは不機嫌そうな顔で見た。
「人聞きの悪い事言うなよ。悪意なんかなかったっつの」
「でも団長がー……」
レツが言ってハヤを見る。
「僕は何もしてないし。ちょっと、酔ったキヨリンに迫っただけだよ」
ハヤはしれっとそう言った。だからそれやった意図が問題なんじゃないのか。
そしたら俺たちの前を行く彼女がくすくす笑っていた。あれ、聞かれちゃったのかな。
「もしかして、ファンミとメリダのお知り合いかしら?」
笑いを含んだ顔で振り返って俺たちを見た。
うわ……キヨとハヤをチラッと見てみたら、二人とも複雑そうな顔をしていた。っていうか、今の会話でわかっちゃうなんてどんな話を聞いたんだろう。
「知り合い、なの?」
レツがおずおずと聞くと、彼女は面白そうに頷いた。あああ、残念でした。
「マルフルーメンですっごいイケメンと知り合ったんだけどーって聞いてたの。ごめんなさい、私名前も名乗ってなかったわ。私はジョルディ、よろしくね」
にっこり笑って名乗られてしまったので俺たちも一人ずつ名乗った。
あの合コンから数日しか経ってないんだよな。色々あったからすごい前の事みたいだ。妖精国で二人と会わないといいけど。せっかくソッコーで翌日マルフルーメンを出た意味がなくなっちゃう。
「……こういうツケって回ってくるもんだな」
コウはジョルディに聞こえないくらい小さな声で言った。あーそれ言ったらキヨなんか、あのお城での男性の事もあるしね、確実に回ってきてるね。
「別に妖精国で騙し入れるわけじゃねーんだし、いいんじゃん」
キヨは簡単にそう言った。でもそれだと……
「そしたら、キヨと団長がデキてないといけないんじゃない?」
レツがそう言って二人の顔を見比べた。
「僕的には大歓迎だけど?」
「そんなカミングアウトする必要ねーだろ」
まぁ、たぶんキヨのが正しいよな。ローラン姫の手紙を妖精王に渡しに行くのに、確かにそんな必要はない。
俺たちはジョルディに連れられるままに馬屋へ行き、言われるままに馬を預けた。
でも受け取ったエルフの人は馬小屋に入れるより前に、手綱を丸ごと外してしまった。鞍も外してしまったから、馬は自由になってそのまま森の中へと去っていった。
俺とレツは驚いてみんなを見回したけど、みんなはちょっと面食らったくらいでスルーしていた。え、エルフだから大丈夫って事、なのかな……?
それから俺たちはジョルディについて、街の中へ入った。木々が自然とそうなったみたいなアーチの門があって、そこをくぐるとエルフの街だった。
「これは……」
「すごい……」
レツたちの想像通りの、木々を繋ぐ廊下や螺旋階段、木の上に作られた家々。その全てが、無理して作ったんじゃなくて自然と木々がそう育ったように見える。
しかも木々は俺たちがよく知る普通の木じゃなくて、まるで石のような質感の美しいブルーグレーの木だった。
でも魔法でそんな風に偽の木を作ったってワケじゃないように見えた。そうだ、枝から新芽が出てるからだ。やっぱりこの木ちゃんと生きてる。
これが、エルフの街……俺だけじゃなくて、みんな圧倒されて周囲を見ていた。
俺たちに気付いたエルフたちが、にこやかに手を振る。レツは嬉しそうに手を振り返した。ジョルディは何だか嬉しそうに俺たちを見ていた。
「ここまで来る客人は多くはありません」
「誰でもウェルカムってワケじゃないんだ?」
ハヤの言葉にジョルディは小さく頷いた。入ってくる前に、悪意があったら森の中を彷徨い続けちゃうんだし、それなら誰でもじゃないよな。
でも普通に旅人とかも来ないのかな、来たい人は多いと思うけど。
「そうですね、この森は太古からの私たちの力が宿っています。だから私たちの力も、人の街にいる時よりも研ぎ澄まされるところはあると思います。だから余計に人は近寄りがたいようで」
「来たくても、来れないの?」
俺が言うとジョルディはちょっとだけ首を振った。
「客人が全く居ないわけじゃないの。もちろん、よく立ち寄る旅人も居るわ。でもそれ以外の人たちからは、私たちの方が避けられてるの」
そうなのかな……人が想像もつかないくらいの魔法の力を持っていて、みんな透き通るような金髪で美しい容姿。争いを嫌い自然を愛する穏やかな種族。
……そうか、何かわかった。そりゃ興味はあるけど、めちゃくちゃ近寄りがたいや、余りにも自分たちと違いすぎて。
ちょっと見たいとは思うけど、じっくり付き合うとなったら、きっと自分の嫌らしい部分が目に付きそうで怖い。
「エルフにも色々いるんですけどね、でもやっぱり大まかなイメージが先行してるみたいで」
「太古から比べたら、だいぶ人間に近いですよね。悪い意味じゃなくて」
ハヤがそう言うと、ジョルディはちょっと笑って頷いた。
「ここへ来た客人には、宿も提供されます。もてなす事は喜びですから。こちらへどうぞ」
ジョルディはそう言って俺たちを促した。街には同じようなミント色の服を着たエルフが、静かに暮らしていた。
何というか、騒いだり騒がしくしたりしている人がいない。美しい音楽がどこからか流れていて、それに重なる鳥たちの声が自然の歌のようだ。みんな静かに落ち着いていて、焦って走るとかしないみたいだった。
子ども以外は。
しばらく俺たちを遠巻きに見ていた子どもたちが、じわじわ近づいてきたと思ったら、シマが突然振り返って驚かせたのをきっかけに、嬌声を上げて俺たちにまとわりついてきた。
全く興味なさそうというか、むしろ近寄るなってオーラが明らかに出ているキヨには誰も行かなかったけど、果敢な子どもはコウにもじゃれついていた。俺だって慣れるまで数日かかったのに、すごいな子ども。
「子どもは苦手?」
ちょっと面白そうにジョルディに聞かれ、キヨは小さくため息をついた。
「大人のが好きですよ」
その返答、すっごい語弊がありそうですけど。もしかしてキヨが俺に乱暴なのは、子ども嫌いだから……とは思わないでおこう。俺は子どもじゃないんだし。
俺たちはジョルディについて、待望の木の螺旋階段を上って行った。
高いところから見ても、やっぱり何だか不思議な光景だった。ブルーグレーの木々が、エルフたちが住むために自然に太く塔のように育ったみたいだ。その幹は空洞になっていて、いくつかのフロアに分かれている。
だいたい一部屋ずつみたいだったけど、俺たちはそんな木々が林立していて三階くらいの高さに、廊下みたいな架け橋が渡されて繋げられた部屋に案内された。木の上の部屋。
「一部屋一部屋は狭いの。だから二人ずつだけどいいかしら?」
「全然! すごいすごい!」
レツは木の上の部屋にはしゃいでいる。木の上の渡り廊下は、街中の木々を繋いでいて、地上に降りなくても遠くまで行けそうだった。木漏れ日が射していて、それだけで美しい。
「人と違ってエルフはあまり肉を食べないけど、それでよければ食事の出来るところがあるから、食事はそこでしてね。お金は共通だから大丈夫」
「何から何までありがとう。っていうか……」
レツは言いながらキヨを見た。
「俺たちがここへ来たのはただ観光じゃないんだ。妖精王に書簡を届けるのが目的で」
キヨはあっさり目的を告げた。
キヨがそう言っちゃうって事は、ホントにただ手紙を届けるだけのつもりなのかな。それとも、エルフ相手に騙しは通用しないんだろうか。ジョルディは少し首を傾げた。
「王に会うには城へ行かないとならないわ。今日これからすぐに行くのは難しいかもしれないけど、でもそうね、明日なら連れて行けると思う」
え、そんなに簡単に? っつか、俺たちを迎えに来たジョルディが妖精王のところまで連れて行けるって、どういう事?
でもキヨはジョルディに礼を言ってそのまま彼女を帰してしまった。
「……謎多し」
ハヤはそう言ってベッドに腰掛けた。狭い部屋は二人部屋だけど、とりあえず俺たちは今居る部屋のベッドや椅子に腰掛けた。コウは壁に凭れて立ったままだ。
「なぜって聞けば答えてくれそうだけどな。悪意のない来訪者なら宿まで用意してウェルカムとは。あんまり不審に思うのも、ここだと伝わりそうで怖い」
やっぱり、エルフって魔法の力すごいんだし、悪意振りまいてたらこの広い森の中にいるだけで気付かれちゃうんだから、キヨも警戒してたんだ。
「心が読めるの?」
レツは枕を抱いて恐る恐る聞いた。キヨは首を振る。
「そうじゃねーな、むしろ……シマに近いんじゃね?」
シマは唐突にそう言われて「俺?」と自分を指さした。
それから何となくわかったような表情をした。
「相手の心の気配を感じる力が強いんだ。シマの場合、むき出しの獣の心だから出来るってところあるだろ? それが対人でも出来るんじゃねーかな」
モンスターを操るには、本当は飴と鞭で慣らす事が多い。
でもシマはちょっと違う。もともと心を通わせる事が出来たから、そこから獣使いになったんだ。モンスターや動物たちは理性が発達していない分、心がむき出しになってる。だからシマはそんな生き物の心に添うことが出来るんだと前にハヤが話してくれた。
でも人は違う。人は理性で色々隠す。それでも、エルフは感じられるんだ。
「操る事は出来ないし、しないだろうな。そんな必要がない。ただ余りにも心を隠したりするのも不審に思われるだろうし……何だかやっかいだよ」
「隠したがりのキヨリンには難しいミッションになっちゃったねぇ」
ハヤは他人事のように笑った。キヨは面白く無さそうにハヤを睨んだ。
「……ま、別にいいけどな。今回俺は何もしねーし。っつか、王に謁見すんだったら、うちの勇者が行けばいいだろ」
「ええええええ!!」
レツはビックリして枕を千切れるくらい抱きしめた。
「ちょ、だって、どどどどどうして俺が!」
「勇者だし? 代表者だよな、一応」
キヨがそうコウに振ると、コウも苦笑しながら「一応」と答えた。
いや、そりゃレツが勇者なんだから代表と言えば代表だけど、レツだけでどうにかなるとは思えないんだけど……
「あ、あとコイツが質問あるんだし、見習いも行けばいいよな」
えええええええええ!! 俺こそそこに居るのは場違いかと! 大体このパーティーのおまけなのに!
「まぁ、王に謁見すんのに代表とおまけだけ投げるってワケにもいかんだろ」
俺とレツがあわあわしているので、シマが苦笑して助け船を出してくれた。神様……ハヤが笑って「冗談だよー」と言いながら半泣きのレツの頭を撫でていた。
いやキヨのは冗談だと思わなかったけどね、絶対冗談じゃなかったと思うけどね。
俺たちはとりあえず荷物を置いて、妖精たちの王都を見て回る事にした。どっちにしろ王に謁見するのは明日なのだ。身軽になった俺たちはとりあえず食事のできるところを探した。
木で出来た街は静かに賑わっていた。騒いではしゃぐ人がいないだけで、みんな俺たちににこやかな笑顔を向けてくれる。ホントにここまで来てればウェルカムな感じ。
でもエストフェルモーセンのようにすごい王都って感じじゃなくて、どちらかというと小さな街だった。
俺たちは軽食のスタンドで、ちょっと堅めのパンケーキみたいなものに挟まれた、香草とチーズのサンドイッチを食べた。パンケーキとクッキーの間くらいの不思議なパンはスパイスが利いてて美味しかった。
ハムが入ってたら最高……と思ったけど、エルフが豚を飼育してるのもあんまりイメージ出来ないからしょうがないか。
すると通りの向こうからジョルディが手を振ってこちらに走ってくるのが見えた。何かあったのかな。レツが彼女に手を振る。
ジョルディは俺たちに追いつくと少し息を落ち着けてからにっこり笑った。
「よかった、近くにいて。王がお会いになるわ」
俺たちは驚いて顔を見合わせた。
え、っていうか、もう!?
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