第81話『俺たちがどうこうする必要なくね?』
「コウちゃん!」
「お、」
宿に戻ると、先に戻っていたと思ったハヤとコウも同じくらいに戻ったようだった。屋根裏部屋で待っていたレツが飛びついてきて、コウは驚きつつ抱きとめていた。
「無事でよかったよー!」
「いやー、ははは。ご迷惑おかけしました」
キヨはその脇を無言で通り過ぎ、そのままベッドに突っ伏した。
「なにキヨリン、それって据え膳?」
「バカ言うな、疲れんだよ回復魔法」
寝転がったままキヨは答えた。据え膳とか言ったけど、ハヤはいつもみたいにキヨにじゃれついたりしなかった。
別にもう帰ってきたんだからこれ以上危険があるわけじゃないし、回復魔法かけちゃってもいいんだろうけど、きっと今日はもう普通にご飯食べて寝ることで回復するつもりなんだろうな。
「状況報告会は?」
「このままじゃキヨが寝ちゃうよ」
「寝かせてくれると助かるんだけど」
キヨはベッドに寝転がったまま言った。
ハヤはちょっと考えてから、
「このままみんな何にもわからないままになっても困るから、ご飯ここで食べるにしよっか。見習い、ご飯取りに行くよ」
と言った。俺は慌てて立ち上がってハヤについて行こうとしたら、シマとレツがそれを引き留めた。
「団長たちは働いたんだから、休んで休んで」
ハヤはちょっと驚いたように見てから優しく笑う。
「じゃあ、お言葉に甘えてキヨリンの添い寝を」
「すんな」
キヨは器用に足下に立つハヤを蹴った。俺とシマとレツは笑って部屋を出た。
「ちゃんと全員無事連れてきたな、よくやった」
シマはそう言って俺の頭を撫でた。あんまり何も出来なかった気がするけどね。全体的にR15ってヤツだったし。
「レツたちは何してたの?」
「その辺うろついて噂集めしたんだよ」
「鍛錬しようにも俺は街の外に出ないとならんし、結構遠いからな」
あれ、でもモンスター牧場があるくらいじゃ、街の中でも訓練出来るんじゃないのかな。きっと獣使いが遠く街から離れなくてもいいように、ああいうのが建てられてるんじゃ。
「ああ、だろうな。でも俺の場合、レベル明かさずにやるんじゃ下手に人目のあるところじゃ困るし」
あ、そっか。キヨがレベル隠させた所為で。
「何か情報集まった?」
「まぁ、それもあとでだ。今は飯」
シマはそう言って酒場に下りていった。
酒場は既に人が入っていて活気があった。店主に言うと山盛りのパンを示したあと、ボウルのようなお皿にシチューを盛ってくれた。
ただシチューかと思ったら、下に厚切り肉が敷いてある。シチューみたいに具だくさんだけど、アレはステーキのソースなんだ。別料金だけあってすごいボリューム。
俺たちはトレイを借りてパンとシチューがけステーキと、あと生野菜のスティックサラダを持って部屋に戻った。
部屋に戻ると、キヨは同じ体勢で寝ていた。コウも既に寝ている。ハヤは俺たちを見ると立ち上がって手伝った。
「あの二人起こさないと食べないね」
ハヤはそう言ってちょっとだけ片手を振った。二人の上に、きらきら回復魔法が降りかかる。それからベッドサイドに皿を置いて、二人を揺さぶった。
キヨがすんなり起きたのは、たぶん睡りが浅かったからなんだろうな。荒れなくてよかった。キヨは寝起きの不機嫌そうな顔のまま皿を受け取った。
「……あれ、酒」
起き抜けにそれかよ!
シマが苦笑して「悪い、忘れた」と言って即部屋を出て行った。
シマもコウも飲むもんだからだろうけど、ご飯取ってきた礼も言わずにそれはないだろ。そんな隣のベッドでコウが「いただきます」と丁寧に目礼してから食べ始めた。
シマが戻ると、俺たちは乾杯して飲み始めた。もちろん俺とレツの分のソフトドリンクもシマは持ってきてくれた。シチューがけのステーキは見た目通りのボリュームだ。野菜の甘さがあるけどスパイスが利いていて、すごく深みのあるコク。
「そんで、結局勇者が集められた理由ってのは占いってのでいいわけ?」
「占い?」
ハヤはきょとんとした顔で見た。ああ、そう言えば知らないんじゃん。
キヨが端的にお姫様とのお茶会の時の事を話した。ハヤはちょっと考える風に天井を見上げた。
「占いか。占い……じゃない気がするけどね」
「他に何か理由になりそうな情報あったの?」
レツは言ってからシチューを頬張った。
「ああ、例の者か」
コウがそう言うのでみんなコウを見た。コウはそのまま俺を見た。俺が言うの!?
「えと、キヨのとこに行く前に俺とコウが会議みたいのを立ち聞きしちゃったっつったじゃん? あの時に話してたことが、勇者はお告げを受けさせるために集めたってのと、もう一個、『例の者』ってのを探すためだったっぽいんだ」
あの会議に参加していた人たちは、例の者って人をずっと知っているっぽかった。それでも見た目なんかは知らないみたいな。一体どういう事なんだろう。
「でもそれだって占いに出たとかじゃないの? 占いに出たのは国を救う勇者なんだから、『例の者』が国を救う勇者って事なら同じじゃないのかな」
レツが言ってグラスを傾ける。確かにそれなら説明が付く。やっぱ占いに出たからなんだ。
でもキヨはちょっと首を傾げていた。何か考えてるなら言ってくれればいいのに。
「そう言えば例の者が現れたから、コウちゃん捕まっちゃったんだっけ?」
ハヤがそう言うとコウはうんうんと頷いた。
そう言えば、あの男性もそうだったけど、城への侵入者であるコウが捕まったってのに城内はやたら平穏だったな。普通、もうちょっとわあわあしそうなのに。
「……それはたぶん、大っぴらにしてなかったからじゃねー?」
不法侵入なのに!? しかも相手はお城なのに!
「コウちゃん、どうだったの?」
レツに聞かれてコウは黙って咀嚼すると、きちんと口の中のものがなくなってから顔を上げた。
「俺が捕まったのは、窓から飛ぼうとしてたからだ。最初はテキトーにまいて普通に城門から出るつもりだったんだけど、奴ら俺が黒い服だってので認識してたんで厄介になって」
窓から飛び降りて、どこから出るつもりだったんだろう……
「でも声高に侵入者がって騒いではいなかったよ。まぁ、侵入ルートが結界抜けだと思われてたから言えなかったんだろうけど」
そうだよな、結界抜けて侵入者が現れたっつったら、お城の魔導師の信用問題だ。それで捕まえたコウの留置にも、そんなに大げさな監視がついてなかったのかも。あんまり大ごとにしたら、ものすごい犯罪犯したみたいで噂がたつ。
それでハルさんみたいに飛べないような結界だけは敷いてあったんだ。コウは武闘家なのに。
そう言えば、あの店で呼び出しかかった衛兵も意外と緊張感なかったし、警備を増員するためだけだったみたいだもんな。
「増員されたのに例の者ってのは捕まってはいなかったよね」
「例の者は国を救うのに、なんで捕まえるんだよ」
あ、そっか。捕まえる必要はなかったんだ。でもじゃあなんで衛兵が増やされたんだ?
「いや、それ自体は隠れてた時に俺を追ってるヤツらが話してるのを聞いただけだよ。衛兵じゃなくて魔導師っぽいヤツ。例の者が現れたっつー知らせを受けてそっちにいっちゃって、こりゃ衛兵が二分されて減るかなって思ったけど淡い期待だったっつー」
じゃあ衛兵が増えたかどうかはわからないのか。そうだよな、コウだって衛兵の全ての人数把握してるんじゃないんだし、だいたいもともと五十人が城内を警備してるんだった。
「じゃあ、例の者って今お城にいるのかな」
「それは例の者が誰か知らないからわかんないね」
国を救う勇者。きっとお城で王様に謁見したりしてんのかな。
「……国を救う勇者が現れたんだったら、俺たちがどうこうする必要なくね?」
シマはそう言ってキヨを見た。キヨはさっきから何も話してない。きっとまた何か考えてる。
「とりあえず、妖精国には行かねーと」
「だから勇者現れたのに、」
キヨはシマの言葉を遮って胸元から手紙を取り出した。あ、お姫様の。
「信書を預かってんだ、行かないわけにいかないだろ」
シマは難しい顔をした。
あの時の話の流れで妖精国に行くって言っちゃったし、その上でお姫様から手紙を預かっちゃったんだから、俺たちには行く必要がなくなったとしてもこれだけはきちんと届けないと。
「それ……」
ハヤがぼんやりと言うので、みんなハヤを見た。
「中見たら、この一連の原因とか、わかんないかな」
人間の王家の、第一王位継承者が妖精王に宛てた手紙。
俺たちはキヨの持つ手紙を見た。
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