第75話『それで……例の者は現れたのか』

「そのデータ、探せると思う?」

 コウの言葉に、ハヤはちょっと考えてから首を振った。


「どの部署かわからないし。何て言うのかな、知り合いも居るってわかったし、キヨリンほど読めてない分ハッタリが利かないから下手に動いて墓穴掘っちゃうのが怖いかも」

「でも……キヨくんに話さないんだったら、尚更そのデータの意味をちゃんと探らないと」

 コウがそう言うと、ハヤは何だか辛そうな顔で考えていた。


 卒業時からずっと集めていた個人データ。ハヤとシマとキヨの分。その意味って何だ?

 元々主席クラスの能力を持ってるから、いつか国に召し上げたいと思っていたのだったら、むしろその後冒険者として働いたデータがあればいい。でも集められていたのはそうじゃなかった。モグリの医者をやってることまで調べてあったんだったら、摘発だって可能だったのに。


 そうだ、モグリで医者をやるのは違法行為だ。そんなプロフィールが知られちゃってるんだったら、国としても仕事を頼む訳にはいかない。

 それなのに「やっと呼ばれた」なんて、違法行為に目をつぶってもハヤたちが必要だったってことなのか? 何のために?


「そのデータ、どこまで集められてるんだろ」

 ハヤは何だか諦めるみたいに天井を仰いでため息をついた。

「たぶん、勇者の冒険に出る前までだと思う。いくら情報屋でも5レクス圏外へは出ないからね。少なくとも僕とシマのは。ただもし本当にチカちゃんが情報を流しているのだとしたら、キヨリンが僕たちの事まで含めどこまで話してるかによる」


 キヨが何の疑いもなく、ただ日々あった事としてハルさんに話した事が、国にはシマとハヤの個人情報として蓄積されていく。

 「今日団長が、投げキッスだけで回復魔法かけたんだ」とか「シマの連れてくるモンスターがどんどんでかくなって、今じゃ全員がベッドにしても余裕の大きさなんだよ」とか。何だかそんなの……

「……やっぱ、ちゃんと話した方がいいと思う」

 それにまだハルさんと決まったわけじゃない。でも俺がそう言うと、ハヤは首を振った。


「キヨリンのデータが少ないって言ってた。キヨリンは勇者の旅に出る前は普通にガンガン仕事に出てたから、いくらでも問題のない情報は集められる。それなのに少ないって事はたぶん、報告してる人がギリギリ必要な事に止めてるんだと思う。だとしたらキヨリンに近しい人で、そういった情報を提出したくない人じゃないかって思うんだ」


 単なる情報屋なら、提出した情報が金になるから多い方が儲けられる。だから出来る限りの情報を提出するだろう。それなのに一人だけ少ない情報。

 もともと問題がないから特筆すべきことがなくて少ないとも考えられるけど、それでも同じように働いていたシマと比べても少ない理由がない。じゃあ、本当にハルさんが?


「……キヨくん、探そっか」

 コウがそう言うと、ハヤは小さく頷いた。それから意を決したように顔を上げる。

「コウちゃん、ごめん。キヨリン探すの任せていい?」

「え!」

「予定外の情報が手に入っちゃったからって、それでまた合流して終わりにしちゃうんじゃせっかくここまで来たのにもったいない。僕もうちょっと探ってくる。今度はここに来た目的の情報を」

 俺とコウは顔を見合わせた。

 でもシェルヴェイみたいにハヤの顔知ってる人がいるのに、それでも大丈夫なのかな?


「まぁ、そん時はそん時で。何とかなるでしょ」

「むしろこっちが何とかならないような気が……」

 するとハヤは面白そうに笑った。

「かくれんぼだと思ってやればいいって。僕とかキヨリンみたいにやろうとしなければ大丈夫」

 そう言って本棚から勢いを付けて離れた。

「見習いもお願いね。キヨリンの事だから図書室で粘ってると思う。図書室は風通しがよくて直射日光の入らないとこにあると思うから」

 そういうとこ探してと言ってハヤは扉の前で振り返った。ええええ、ホントに俺とコウでキヨを探しに行くの? 何かあったらどうすんの?


「わかった」

 え……俺は背後から俺を追い抜いていくコウを見送った。

 うそ、コウが承諾した……

「ほら、行くぞ」


 コウに促されて、俺も扉に近づいた。

 コウは薄く扉を開いて廊下の様子を伺ってから、小さく頷いた。ハヤが何事もなかったように普通に扉を開いて、俺たちもその後に続いて廊下に出た。それからコウとハヤは目で合図すると、ハヤはそのまま廊下を歩いていってしまった。

 あああ、ホントに行っちゃった……


「何情けない顔してんだ」

 コウは俺の頭を叩いて、それから歩き出した。だって……

 でもしょうがないよな、ついて行くって言ったのは自分なんだし。足手まといになっちゃダメだ。

 俺は顔を上げてコウに追いついた。

「でも図書室ってどの辺かな?」

 俺たちはテキトーに廊下を歩いて目に付いた階段を上ってみたりしたけど、お城は迷路みたいに広くてわからない。


 ただひたすら部屋が並んでいて廊下が真っ直ぐだったらいいのに、お城は細かく階段になったり部屋に阻まれて廊下が途切れていたりする。防御の意味があるのかな。

 それでも俺たちが歩き回っているのは外郭の建物だけで、内郭のあの王様たちが住んでいるところはまた別なのだ。図書室だからたぶん広そうな部屋だと思うから、扉と扉の幅とかを考えてみるたけど、あんまり広い部屋はないみたいだった。


「聞いてみるか?」

「え!」

 コウは俺の肩を掴んでクルッと体を回すと、近くにいた役人っぽい人の方へ押し出した。うわあ!

「ん、何だ?」


 俺はあわあわしながらチラッとコウを見ると、コウはすたすた歩いてちょっと先で立ち止まり、いつの間に持ってきたのかノートらしきものを開いて、まるで席を立っても仕事してる人みたいな顔でいた。


「あ、あの……図書室で資料を取ってくるように言われたんですけど……俺まだここ来て日が浅くて……図書室、どこですか」

「何だ、しょうがないな。この廊下の突き当たりを左に曲がってすぐだよ。日が浅いって事は、ありがちな図書室だと思って探したんだろ」


 そう言って笑った。え、ありがちな図書室って、どういう意味?

 俺が首を傾げていると、彼は「行ってみればわかるぞ」と言って何だか自慢げに笑った。俺は彼に礼を言って、廊下の先へと進んだ。

「突き当たりを左」

 コウとすれ違いざまそう言うと、コウは数歩遅れてノートから顔を上げずに歩き出した。


 俺は教えられた通りに廊下を歩いて、左に曲がったところでその先に居る人を見て思わず回れ右した。

「わ」

 真後ろに居たコウが小さく声を上げて俺を睨む。

 俺は無言で背後の男性を指さした。あの地下道を出たところで遭遇した男性が、廊下の先に居るのだ。このまま進んだらバレちゃう!


「どうしよ」

 息だけでそう言うと、コウはスッと俺の背後に回って男性を気にしながら手前の扉に手をかけると、薄く開いて中をうかがい、それから頷いて俺を体で隠しながら部屋へと入れた。コウもすぐ後から部屋に入る。

 俺たちはしばらく扉の脇で気配を伺っていたが、人が集まってくる物音があったので周りを見回して壁に掛けられたカーテンの後ろに隠れた。十分なドレープがあるから、二人が隠れても不自然じゃなかった。

 俺たちが隠れた瞬間、扉が開いて人が入ってきた物音がした。俺とコウは顔を見合わせた。マジ、ヤバくないですかこれ。


 集まってくる人の声と同時に何だか美味しそうな匂いがしてきた。

 もしかしてここで食事しながら会議とか……それでさっきの男性が居たのかな。全然出て行ける感じないんですけど。


 何人かの人が時間差で集まってきて席に着き、給仕がカトラリーを並べる音が止んでどうやら一段落したようだった。給仕たちが出て行って扉が閉まる音がした。同時に鍵も閉まったような音だった。


「さて、今日はお集まりいただき厚く御礼申し上げる。それもこのような城の片隅での非公式な会合だ」

「前置きはよい。ここに集まった者はみな、同じく思っておる」


 何だか言葉づかいとかからも、ちょっとエライ人たちって感じ。しかも年配の。何か秘密の会合に紛れ込んじゃったのかな。


「では軽い食事をしながら話そう。むしろそれが目的ということになっておるからな」

 その言葉で、その場に居た人たちはカトラリーを手に取ったようだった。かちゃかちゃと食事をする物音が聞こえる。俺は自分のお腹をさすった。朝、結局パン一個食べなかったんだよな……


「期日は今日までだったが、勇者たちは問題なく集まったのだな」

 聞こえてきた言葉に、俺とコウはまだ顔を見合わせた。

「ああ、だが既に旅に戻った者もいる。勇者を理由もなく引き留めておく事はできん」

「それは想定内だ。お告げを受けた勇者は、お告げにだけ忠実だ。むしろそんな者にしか勇者のお告げは現れん」


 理由もなくって、理由だったらあったんじゃなかったのか? 資格試験受けるのが理由だったハズなのに。これじゃ資格試験なんてウソだったみたいじゃないか。


「それで……例の者は現れたのか」


 例の……? 俺はまたコウを見た。

 コウは真剣な顔で前を見ていた。カーテンを越して彼らの会合を見ているみたいだった。


「ああ」


 その答えに、場がどよめいた。誰が現れたんだろう。

「では次はどうするのだ、漫然と待っていても何とかなるわけではあるまい」

「そのために試験として勇者たちを集めたのだ。今後ペナルティが待っているとなれば勇者一行は王都へ集まる。それ以前にお告げを受けているのなら仕方あるまいが、ここでお告げを受けるのなら」

「この異変を見る、か。なるほどな、そこまで上手くいけばよいが」


 一体どういう意味だ? 異変を見るって?


「お告げを受けていない者だけを集めるわけにはいかなかったのか」

「それでは例の者を取りこぼす可能性がある。5レクス圏外へ出られる勇者一行では、いくら情報屋を雇っても見つけ出す事はできん」

「しかし同時に二人の勇者が同じお告げを受ける事はないと、報告を受けておるが」

「つまりここに現れた勇者の誰かがそのお告げを受けたら、他の者は見ることはない。しかし形が違えばどうだ?」

「そんな事がありえるものか?」


 何だか彼らの話は、ハッキリと勇者とお告げについての事のはずなのに、やたら抽象的に聞こえる。一体何を話し合っているんだろう。


「無いとは言い切れん。この異変は一つ事だけでは収まらない」

「では例の者が現れたとしても、解決はできないと」

 誰かがカトラリーを置く音と、ため息が聞こえた。


「……いや、それはそれで糸口となる。この国の存亡を賭けるのならな」


 何か、そんな言い方すると、この国って滅亡の危機にあるみたいな気がしちゃうんだけど……でも、勇者を集める時だって試験とか言ってて、そんな深刻な事誰も言ってなかったのに。

 もしかして国民は何も知らないまま、とんでもない事になっちゃってるのか?


「例の者を、呼び出すことはできんのか」

 すると深い深いため息が聞こえた。

「呼びつけたところでどうするのだ。全てを話して……まず今の状況を打破できるのだとしても、その者が受け止めきれるかわからん。我々は犯した罪を償うべく、見守るしかなかった者だ。安全と平和をひたすらにな」


 何だかこの人たちは、その例の者って人を昔から知ってたみたいだ。知ってたのに、今初めてその存在を王都で確認してる。

「そうだ、それにこの事は漏らすわけにはいかない。他愛もない噂ならばよい、だが本当の事はこの城の中だけに止めるべきだ」

 彼の言葉に、しばらくみんな黙していた。こんな話聞いちゃったけど、でも何のことかわかってないのが歯がゆい。これを聞いたのがキヨやハヤだったら、もっといろいろわかるのかもしれないのに。


「……ところで勇者の一行だが、試験で集めたデータはどんな感じなんだ」

「それについては特に。どの者も格段にレベルアップしてはいるが、特筆すべき者は無かったように思う」

「どの一行も、か」

 彼は強調するようにゆっくり言った。

「ああ、レベルは確かに高い。やはり5レクスを越える旅を続けて生き残っているだけの事はある。だが国の防御となれば、このレベルだけでは到底追いつきはしないだろう」

 会議の場に、考えるような沈黙が降りた。


 勇者一行の試験って、やっぱ違う事のために受けさせられてたんだ。国の防御とかって、5レクス越えて冒険してたって結局はみんなで戦うから倒せるってのに、レベルが高いだけで国の防御なんて出来るのかな? それとも、レベルの高い戦士になると統率力も高いとか?

 俺はちょっとみんなの顔を思い浮かべてみた。


 ……ないな。あの人たちはレベル以上の力を持ってるけど、兵隊統率して戦うとかそんなキャラじゃないや。大体、国を救うとか思ってないって公言してたし。

 俺は何となくちょっと笑ってしまって、我慢するように両手で口を押さえて壁に寄りかかった。

 ら、唐突に壁が動いてきしむような音を上げた。え!?


「誰だ!」


 慌ててコウと壁を見比べる。カーテンの裏に隠れて隣の部屋への扉があったのだ。ちょっと開いていたから俺が寄りかかった拍子に開いちゃったらしい。どうしよう!


 コウはサッと開いたすき間に俺を押し込み、自分もそれ以上は開けないようにして隣の部屋へと移動した。それから俺の服を掴んで手近の机の下に押し込み、自分も物陰に隠れた。

 音もなく隠れた後に、扉を開けて男性が顔を出した。

 見つかりませんように……俺が体を縮めていると、どうやら正午を伝える鐘が鳴った。男性はしばらく辺りを伺っていたが、物音は鐘の音で紛れてしまったようだった。


「どうした」

「いや、誰もいない。扉が開いていただけのようだ」


 彼はそう室内に声をかけると、部屋へ戻ってきちんと扉を閉め鍵をかけた。

 よかった、バレなかった……俺は机の下から出ようと思ったけど、一応コウがヨシと言うまで待っていた。しばらくして机を小さくノックする音が聞こえたので、俺は机の下からはい出した。


「ここ……」

 周りを見回すと、背の高い本棚が並んでいた。

 俺が潜り込んだのは閲覧用の机だったらしい。壁にも一面本棚が並んでいたけど、明らかにただの図書室じゃない。見上げると、天井が遙か高くにあるのだ。

 アーチ型のトラスが支える天井は数階建ての高さがある。目の前は本棚で見通しが利かないけど、その壁際には二階の高さに廊下があって、つまり本棚も二階建てだ。所々に二階部分へ上る可動式の梯子が設置されている。


 普通の図書室じゃないって意味がわかった気がする。ここって、もともと城の礼拝堂だったんじゃないのかな。これじゃ、図書室的な部屋を廊下から探してたって見つかるはずがない。


 ぼんやりと見回している俺の腕をちょっと突いて、コウが頭で促した。そうだ、キヨが居るはず。俺たちは本棚に隠れつつキヨを探した。

 正午の鐘を聞いて図書室を出て行く人も多い。


「あ……」

 俺はコウの袖を引っ張った。ステンドグラスが填っていれば教会にありそうなトレサリーの窓の前に立つキヨが居たのだ。


 でも彼は一人じゃなかった。キヨの傍らに、彼より背の高い男性が立っていた。俺とコウは、彼らと本棚を挟んで隣になるように回り込んだ。

 そっと本を外してちょっとだけ覗けるようにして、俺たちは本を探しているフリをしていた。キヨは左手の爪先を噛んでいた。キヨが右手で手首のブレスレットをいじりながら軽く弾くと、光の加減なのかブレスレットが光ったように見えた。


「それで……」

「いや、その事自体は俺がどうこう出来るものじゃない。それに情報を違う事に使おうとか思ったんじゃなくて、」

「でも盗んだ」

「いや、盗んだわけじゃ……」


 何だかキヨはイライラと怒ってるみたいだった。パッと見は普段の取っつきにくい顔だけど、ほんの少しだけ、ずっと一緒に居た俺たちだからわかる程度に。何に怒ってるんだろう。

 それにあの人は誰なんだろう。すらりと背の高い、きちんとした制服の男性。ここに勤めてる人かな。


「じゃあ、なんで俺のデータだけ持ってたんだ?」

「それは……」

 男性は少しだけキヨから視線を外した。キヨはちょっとだけ考えるように首を傾げてから一瞬何かに気付いたような表情を見せ、それから大きく息を吸って吐いた。


「……怒らないから、言ってみろよ」


 そう言って顔を上げたキヨの表情は一変していた。まるでずっと知り合いだった人と話しているような。もしかしてこの人、キヨの知り合いなのかな。ハヤがシェルヴェイと知り合いだったみたいに。

 男性は少しだけキヨを眩しそうに見て、それから小さく口を開いた。


「君たちの情報をまとめていて……こんな言い方はおかしいけど、君たちをずっと身近に感じていたんだ。俺は直接知り合ってもいないし、情報だけでこの場に居ないのに、ずっと……友達、のような」

 男性はちょっとだけ遠い目をした。

「……ずっと?」

 キヨがちょっとだけ伺うように聞くと、男性は頷いた。

「それで……君の情報だけが少なかった」

 この人、あのデータを扱ってた人なんだ! それじゃキヨは……いや、でもまだハルさんについては知らないのかもしれない。キヨはちょっとだけ髪をいじった。


「その他の奴らに比べて格段に少ない。いや、必要最低限はあるんだ。でも……なんて言うのかな、君の情報は上手く隠されていて、その……ミステリアスなんだ」


 キヨは黙ってじっと彼を見ていた。彼はちょっと笑ってみせようとして、何だか上手くいかなかったみたいだった。冗談にしようとして失敗したみたいな。

「君の姿、想像、してた通り……かな。きっとそんな風に俺を見て」

「俺の事、知りたいのか」

 キヨは彼を見つめたまま、囁くように言った。彼は固まってしまってキヨを見つめるばかりだった。

「……俺を見て、そう言ってくれるんじゃないかと、ずっと……」

 キヨはそんな彼の胸元に手を伸ばして、そっと触れた。


「知らない方がいいかもしれない。知らずにいた方が、いいことだってある」


 ちょっとだけかすれたような低い声は、彼にだけ言ってるようには聞こえなかった。まるで、キヨが自分に向かって言ってるみたいだ。

「それでも、知りたい。君の事が」

 男性は少し乱暴にキヨの手を取った。

 え、っつか、それってどうすんの!? これはキヨの狙い? 俺は慌てて傍らのコウを見た。コウは何となく考えてるみたいな顔で、全然違う方を見ていた。


 キヨは少しだけ笑って彼の胸元に近づくと、

「でも……ここじゃ誰に見られるかわからないから、また連絡する」

 そう囁いて彼をそっと押し出した。

 彼はぼんやりとキヨを見つめたままちょっとだけ頷くと、周りを気にしながら踵を返して窓辺から離れていった。俺とコウは彼の足音が十分遠くなってから本棚を回り込んだ。


「キヨ!」

 押し殺した声で声をかけると、キヨは何となく怒ったような顔で両腕を組んで一点を見つめていた。

 俺たちが現れても何の反応もない。もしかして居るのわかってたのかな?

 それでも全く俺たちを見ようとしないので、俺は彼の見ている先を見た。

「あ……」


 人気のない本棚の間、背の高い窓から落ちる光の中にふわりと青い光が舞う。

 そこに、ハルさんが現れた。

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