第9話『なんで! なんでそんな思わせぶりな入り口なんだよ!』
「いいいいやあ!!」
かけ声と共に剣を振り下ろすと、一瞬留まるように見えたモンスターは耐えきれず四散した。
荒い息を整えながら現れたゴールドを手のひらで受ける。急いで確認するように左手の甲を見ると、ふわりと魔法陣が光ってポイント加算されたのがわかった。
「やった……」
「よしよし、何とか様になってきたなー」
振り返るとみんなが笑っていた。隣のレツもちょっと照れくさそうに笑っている。
旅も何日目かになると、俺やレツもちゃんとバトルに参加できるようになった。
この辺りまで来ると出現するモンスターもキヨの最低限の魔法一撃で倒されるレベルじゃなくなってきている。だからコウやキヨ、シマが一通り叩いた後のモンスターを倒すのだ。
まだ一人で最初からモンスターに向かってはいけない。それだとダメージを受ける方が大きくなってしまう。だからまだ一人前とはいえないかもだけど、それでも最終的に倒した人間に一番多くポイントは貯まる。
モンスター狩りのレベルではあるけれど、それでもバトルはバトルだ。
まぁ、勇者と勇者見習いの俺が同じレベルでやってるって事が、いまいち不安ではあるのだけど。
レツはそんな俺と同じ扱いでモンスターと戦う場に引っ張り出された。全く未経験の俺がやるのに、勇者のレツが怖いと言って逃げてばかりはいられない。
そうは言ってもきちんと修練を受けてるし剣もそれなりの物だから、俺より敵に与えるダメージは高い。
今までの感じ見てるとなんだかちょっとズルい気がするけど、一応勉強してきた人だし勇者なんだから認めてやるか。
「えへへ、がんばっちゃったね」
レツはそう言って俺に笑いかけた。
……レツのこういうとこが、調子狂うんだよなー……こっちはライバルだと思ってんのに。
俺は自分のゴールドを袋にしまった。だんだん溜まってくな、これだったら次に街に着いた時にちゃんとした剣を買えるかも。そう思ったら何となく嬉しくて顔がにやけた。
「そしたらシマ」
「ほーい」
「ちょっと上がって、こんな感じの大木があるか見てもらってくんねー? こっちの方角だと思うんだけど」
近づいていくと、キヨは地面に簡単な絵を描いて見せていた。
太い幹が短く、枝が大きく広がった木の絵だった。この時期ほとんど葉に覆われてるだろうなと言いながら、使っていた枝を捨てる。
シマはそれを見てふんふん頷いた。
「おっけー」
軽くそう言うと、曲げた人差し指を口に当て甲高い音を出した。澄んだ音が森に響いて、近くの鳥が飛び立った。
するとその向こうから、明らかに普通の鳥とは違う生き物が近づいてきた。
違うのは色だ。見た目は猛禽類だけど鮮やかな濃い青色をしていて、普通の鳥類とは違うのがわかる。シマのモンスターだ。
「よーしよしよしよし」
厚い革手袋をしたシマの片手に止まったそのモンスターは、考えるように少し首を傾げている。
色が違うだけのかっこいい鳥だと思ったら、広げた翼が薄い金属のようなもので、強いものになると体当たりだけで確実に相手を死に至らしめる恐ろしいモンスターだと教えてくれた。何十枚という剣で一度に切られるようなもんだから、たまったもんじゃない。
でもシマの手に留まっている姿は、単に大人しいかっこいい鳥にしか見えなかった。無理矢理感とか不自然さがない。それってシマがきちんと使役出来てるって事なんだろうな。
「じゃあ頼んだよ」
シマは小さくそう言って手を高らかに挙げた。そのタイミングでモンスターは飛び立つ。
「すぐ戻ってくるよ」
「サンキュ」
普通、獣使いはバトルの時にそれこそ飼い慣らした動物を使うだけだと思っていた。
でもシマは何となく違う。どっちかっていうとかわいいペットみたいに扱っていて、ハヤに言わせると「バトル以外で使役出来るのは特別」なんだそうだ。
バトルは捕食の一形態だからモンスターをけしかけるのはたやすい。
もともとモンスターは捕食のためや本能的に戦うものだから、バトル中に味方を襲わないように出来れば獣使いの第一ステップはクリアなんだという。
実際にはモンスターを味方にする事ができないとならないから、それ以外にも獣使いに必要な術は多いのだけど、餌で操ってバトルをしかけるだけの獣使いが大半だと教えてくれた。
そこへいくと、シマはバトル以外でもモンスターと仲良くしている。しかもバトル以外のお使いを頼む事もできる。さっきのもそうだ。それって結構特殊らしい。
「その大木が何かあんの?」
ハヤはキヨが片足で消した絵を覗きながら言った。
「その木が目印なんだ」
キヨの言葉にレツがやたら反応した。勢いよく振り返って、何かピコーンってセンサーでも反応したみたいだった。
「木が目印って、森の王国の入り口とか!?」
「え、可愛い妖精とかがいっぱい居るって!」
「羽根生えてるね! 透き通ったヤツ!」
「緑のワンピ希望!」
レツとシマとハヤは猛烈に盛り上がりだした。コウはなんだか見守っている。キヨはほとんどスルーしていた。
「ホントに、そんな森の王国に行くの?」
俺がキヨを見ると、キヨはちょっとだけ肩をすくめた。
「いや、普通の村だよ」
「ええええええええええ!!」
俺じゃなくて、三人が一斉に抗議の声を上げた。
「なんで! なんでそんな思わせぶりな入り口なんだよ!」
「誰も入り口なんて言ってないだろうが」
……ああ、そう言えば。何か三人の妄想力が激しくて一瞬騙されかけた。
「行ったことあんの?」
未だブーブー文句を言う三人をスルーしてコウが聞くと、キヨは小さく一度だけと答えた。
あれ、そしたらまだ5レクス圏内ってことなのかな。キヨが行った事があるってことは、勇者の冒険じゃなくてモンスター狩りの仕事の時にって事だし。
「何でそこってわかったの?」
俺が聞くと、コウが少し冷たい感じのする目で俺を見た。
たぶんコウは、あの夜に話した事を覚えてる。キヨはチラッと俺を見て、それから空中に絵を描くみたいにして話した。
「レツのお告げは聞いただろ。街をサフラエルと認識できたのは、何か知ってるものが見えたからだ。
見えたのは公園の噴水。サフラエルの公園は街の西北に位置する。その辺りから外へ向かったとして、あの辺の外にある街道は西に向かう。
西に向かう街道が下に見えたって事は、途中から北方向へ向かっている。その先に緑の家があるっつったんで、まぁ、あの村かなと」
キヨは端的に説明した。すごい、あれだけの話の中からそこまで考えたなんて。
ぼんやりしてたらコウが何だか自慢げに見てるのがわかった。
「そしたらホントにそこに緑の家があんの?」
ハヤは言いながらレツを見ると、レツは「緑の家だった」と力強く頷いた。
そこへ戻ってきたモンスターを離したシマが帰ってきた。
「キヨの言うとおり、あっちの方角にあったってよー。でもまだ結構距離はあるみたいだけど」
「うん、それは想定内。ありがとう」
「そしたら出発!」
レツがそう言って、みんなは歩き出した。
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