第5話 無色透明だからこそ

 陛下の反応は本当に私には新鮮なモノだった。

 利用価値もない私を妃にすると言い出すなんて。


「先ほども言ったが、俺は妃に力など求めてはいない」

「陛下ほどの力がおありになる方でしたら、確かにそうでしょう。ですが、家臣はそうではないのではないですか?」


 私はリオンを見た。

 陛下は良くても、周りがそんなことを認めるわけがない。

 例え私に力があったとしても、没落寸前貴族だし。

 そんな者が妃になったなんて話は今まで聞いたことがなかった。


「お世継ぎや、他の貴族などの兼ね合いもございましょう」

「オレもそれが言いたかったんです。力のない娘が妃になれば、荒れることは目に見えています。それにあいつらは確実に標的として狙ってくるでしょう。そうなったらどうするんです」


 リオンの言葉はいつもの人たちと少し違う気がした。

 言い方は確かに武骨ではあるけど、私への気遣いが今はそこはかとなく感じられる。


「そこはおまえたちが上手くやればいいことだ」

「目が行き届くのには限界があるというのです……」

「それは痛いほどわかっているさ。だが、次はない」


 二人の会話の中身までは分からないけど、目が行き届かず誰かが亡くなったか何かだということは分かる。

 王宮は伏魔殿といわれるほど、争いが絶えないと言うし。

 私では確かに妃は荷が重すぎる。


 せめて自分を守る力がないと、ココでは生き残れないかもしれないのね。

 そこまで考えて、私はなぜか自分の考えに笑いがこみ上げてきた。


「ふふふ」

「急にどうした?」

「押し付けるから、おかしくなってしまったんじゃないですか?」

「いえ……こちらの話なだけです」


 そう。こちらの話。

 だってそう。巻き込まれるとか、生き残るとか。

 何も決まってないし、何も知らないのに勝手にそんな未来を想像していた自分が可笑しくなってしまっただけ。

 未来なんて今まで考えたコトもなかったのに。


 だって人間なんて所詮、成るようにしか成らないワケで、考えるだけ無駄だって思っていた。

 でもだからこそ私は無敵で、どんなことも臆することなく出来ていたのだけど。


 ただ行き先が……住む場所や環境が変わっただけで、考え方がこんなにも変わるだなんて。


「私は力はありませんが、まぁ成るように成りましょう」

「そうは言っても!」

「私も気にしません。ただ、やられたらやり返します」

「命を落としたらどーするんです」

「その時はその時。そこまでの命だったのでしょう」

「そこまでって」


「人はいつ死ぬかなど、分かりません。それなら私は自分の思うように生きていきたい」

「それは……そうですが」

「心配して下さるのは嬉しいです。そしてその時はその時と言っても、簡単に死ぬつもりもありません」


 まだ手放すつもりはない。

 私は私の生きたいように生きたいだけ、だから。

 私は微笑みならが、真っ直ぐに二人を見た。


「まだ生きてはいたいので、手を貸して下さい。それに陛下は思うところがあって、私を妃にとおっしゃったのでしょう?」


 そこだけは気になる。

 陛下は何を思って、私を妃にと言い出したのか。


「なにを……か。先ほどから二人ともそればかり気にしているようだが、何色にも染まっていないそなたが欲しいと純粋に思ったから選んだつもりなのだが?」

「な、ななな」

「他の令嬢たちに囲まれても、動じていなかったしな。無色透明ならば、いくらでも俺色に染めることが出来るだろう?」

「も、もうそれぐらいにして下さい!」


 私は立ち上がり、陛下の口を覆わず両手で軽くふさいだ。

 こんな風に誰かに言われたことなんてないし。

 こんなストレートな言葉は、逆に私には強すぎる。


 うううう。こんな時はどうしたらいいの? 喜ぶべきなのだろうけど。

 あああ、顔が顔が熱いよぅ。

 影武者にされた方がマシだって思えるくらい、違う意味でダメージを受けてる自分がいた。


「顔が真っ赤だぞ」

「誰のせいだと思っておられるのですか!」

「俺は見たまま、思ったままのことしか言わん」

「そ、それは! ううう。もう少し何かに包んでください」

「そういう周りくどい言い方は好きではないからな」


 私に微笑む姿を見ていると、どこまでが本気でどこまでが嘘なのか分からなくなってくる。


「他にもあるが、それは追々な。俺にとっては特に重要なことではない」

「うー」

「まぁ、護衛はリオンたちがすればいい。護り通せばいいだけだ」

「簡単に言いますけど……」

「俺と妃に従わない者は皆、排除する。そして側妃になりたいという者は冷宮でも良いと思う者だけにするようにと言っておいてくれ」

「かしこまりました」


 思った以上に責任は重大で、きっとやることは山のようにある気がする。

 でもシュアの言いかけた言葉も気になるし、それ以上に私は――


「共に生きてくれリンファ」

「……はい」


 今までただ何もない日々だった。

 使命や運命や人の期待も。

 だから一度くらい、誰かの何かのために生きてみるのも悪くない。


 むしろこの先の騒動を思い浮かべ、楽しみになってきた自分がいた。

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金色を纏う血塗られ皇帝は、無色透明な蓮花の令嬢を染めあげたい。 美杉。節約令嬢、書籍化進行中 @yy_misugi

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