第4話 選ばれた理由
「陛下、どういうことなのですか⁉」
陛下に通された部屋、ひと際大きな側近の声で私は現実に引き戻される。
あああ、現実逃避してたかったのに。
テーブルを挟んで反対側に立っていた銀色の短い髪の側近は、その薄紫の瞳で私を睨みつけたあと、指さした。
慣れてるとはいえ、さすがに人に指さすとかどうなの。
失礼すぎない?
だって別に私が何かしたわけではないし。
むしろ文句は私の隣で、ソファーにドカっと腰かけている陛下に言ってよね。
「俺は彼女にお茶と菓子を用意するように言ったはずだが、おまえは何を叫んでいるんだ? リオン」
「叫びたくもなりますよ。どうしてその娘なのですか! それにお茶と菓子ならさっき侍女に頼みました」
リオンっていうのね、この側近さん。
怒っているわりには、きちんと仕事はこなしてる。
お茶なんて出さなくていいって、言うかと思ってたのに。
でも丁度良かった。帝都に来てから何も食べてないのよね。
「そうか。リンファ、すぐに温かいお茶とお菓子が来るからな。ああ、リンファの部屋も用意しておけ。もちろん、妃が使う部屋だ」
「本気なのですか? その娘を妃になど」
「本気でなければなんだと言うのだ。俺が今までそんな冗談など言ったことがあったか?」
「ないから聞いているんです。むしろ冗談であって欲しいのですが」
リオンは頭をガシガシとかきむしったあと、再び私を睨みつけた。
だから私のせいではないってば。
でもそうね。理由は気になる。
「陛下、私からもお聞きしてよろしいですか?」
「なんだ? ああ、俺のことは名前で呼んでくれ。俺はシュアだ、リンファ」
「えっと……シュア様」
「ああ、そうだ。それがいい」
シュアは私の隣で、満足そうに眼を細めた。
これだけ見ると、この方がご自身の身内まで殺した血塗られ皇帝なんて呼ばれていることが嘘みたいね。
だって今まで会ったどれだけの人よりも、優しいのだもの。
「それで聞きたいこととは?」
「なぜ私をお選びになったのですか? リオン様が懸念される通り、私はなんの力もございません。シュア様のお役に立てることなど何もないでしょう」
「そうです! 何も力のない娘など、わざわざ選ばなくてもいいではないですか。もし仮に、リンファ様に一目ぼれなさったと言うのなら、せめて側妃にして下さい!」
ん-。なんというか、側妃ならいいんだ。
もっとこう、この城に入れるのも嫌なのかと思ったけど、なんだかそうではないみたい。
普通、正妃だって側妃だって力がある方は良さげなのに。
だた単にリオンは、私が正妃になるってことが嫌なのね。
「リンファ様が正妃になれな、大臣たちからの反発があることなど分かりきっているではないですか」
「そうか……」
「そうです!」
「ならば反対する奴はおまえも含めて皆、処分するとしよう」
そっかぁ。陛下の言葉は絶対だもんねー。
二つ名はただの噂じゃなかったんだー。って、そうじゃない。
「シュア様、私のためにそのようなことはおやめください」
「どうしてだ? 俺の決定に不服がある者など、この国には必要ないだろう」
「皆、シュア様のことを思って言って下さっているのかもしれませんし」
「そんな奴らばかりではないさ。城の中は、人の皮を被った悪魔のような者たちばかりだ。良い顔をしていても、その下では自分たちのことしか考えてなどおらぬわ」
それは本当にそう。
あんな小さな田舎ですらそうなんだもの。こんな中では、それは余計にでしょうね。
しかもシュアは先帝を倒して即位された身。
反発する者たちは排除したとはいえ、まだ残っていないとも限らない。
「私はどの貴族たちにも属さないから選んだのですか?」
そう考える方がしっくりくる。
「いや? そなたが無色透明だからだ」
「へ?」
「なんだ。不服か?」
「いえ、そうではないですが。それはむしろマイナスなのではないですか?」
無色であったから良かったことなんて、生まれて一度だってないのに。
だけど驚いて覗き込んだシュアの瞳はどこまでも真っすぐで、嘘の欠片も見つけることは出来なかった。
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