第29話 予想の斜め上の回答。

 そうして幼馴染君退学騒動から三ヶ月が経った。これまでの三ヶ月間はイヤというほど騒がしかった。私の立場露見と美樹みきの電撃移籍等で騒動は一時的に消え失せてしまったが、


『以上で本日の授業は終わりです。課題提出は今週末にメールで送信して下さい』

「「「わかりました」」」


 お陰でマスコミ各社が学校のある地域に大規模出没してしまい、各種授業と中間考査・期末考査が全てリモートで行われる羽目になった。

 当時は、学校からも表向きの苦情が届けられるも『芸能科がある時点で分かっていた事』と母からの一喝で沈黙したのは言うまでもない。

 伯父も母には弱いが、これらの苦情は敵対派閥が行ったので、伯父曰く『ガス抜きも兼ねている』との事前情報を得ていたようである。

 それもあって、母の名義で寄付金が納められリモート授業が可能になったのだから、伯父の学校での地位も、盤石なものとなっただろう。


「次は英語だけど、どうする?」

「単位が欲しいから私は受けるわ」

「私は寝る」

「一応、熟さないとダメだと思うよ?」

「ぐぬぬ」


 なお、体育だけは免除という扱いになり単位が全生徒に自動で割り当てられる事となった。

 一応、部活関係者だけは送迎バス、各自の送迎によって裏門からの出入りが可能となり表門こと正門は無期限で閉じられていた。

 黒山の人だかり、ゴミ置き場となったから。

 そんな騒ぎも住民達の呆れによって視聴率及び購買率低下を招き各社は大きな痛手を食う羽目となったが。常識を重んじなかった罰だね。


(マンションの特定までは至っていない事が救いかな? 早く沈静化して欲しいものだねぇ)


 ともあれ、あれから美樹も父を説得し、一人暮らしから私の家・下宿先に引っ越してきた。

 リモート授業の際にははくちゃんも最上階に上がってきて、受けているけどね。

 私は次の授業が行われる前に新しい茶を淹れた。そして床に寝そべる座敷童に問いかけた。


「ところで今日の仕事はいいの?」

「んあ? 当面はお休みだって」

「まさか退学騒動の続きが残ってる?」

「それもある」

「「それも?」」

「実はあの騒動以外にも、ゴミの置き土産が各所で発覚して昔子役だった子達が一斉に訴えているんだって。本人は既に国内には居ないのにね。お陰で今の事務所は大騒動って訳。だから私も移籍準備で契約関係の見直し中なんだよ」

「「あらら」」


 雹ちゃんの事務所は無関係を貫いたにも関わらず、別件が背後で蠢いていて、そんな騒動になっていたとはね。あのゴミは一体どんな置き土産を残しているのやら? これも結局、天才子役と煽てるだけ煽てた後始末が、遅れてやってきただけなのかもね、きっと。


「明日は我が身か」

「「ホントそう思う」」

「それで何処に移籍するの?」

かおりおばさんの事務所だよ」

「大手じゃないの!」

「それで契約関係の見直しと?」

「うん。今は企業に確認中」


 おそらく引き続き、移籍先でも契約を続けて良いかの判断をお願いしているのだろう。

 雹ちゃんも女子高生だけど、子供服のCMに出演しているから、その辺を再確認中と。

 今は各所で大騒ぎだから、私達の所属事務所ではなく母の所属事務所を選んだと。

 すると私のスマホに一通の連絡が入る。


耀子ようこてるから?」


 それは授業がリモートになったお陰か、自由度が増した四人の内の二人からの連絡だった。


「どうしたの? 耀子と輝って。今は確か、四人揃って海外ロケでしょ?」


 実はあの四人は騒ぎの間に耀子の事務所に移籍して四人グループで活動を始めたのだ。

 モデル兼任は耀子だけだったが、今では三人も同じように仕事を熟すまでになっている。


「うん。お土産何がいいって聞いてきたよ」


 私がそう言うとタレ座敷童が頭を持ち上げて私に問うてきた。胸が潰れてそうだね、それ?


「今何処?」

「えっとね。今はフィリピンだって」

「なら乾燥マンゴーで」

「そんなのでいいの?」

「本場産が美味しいの」


 他にも、もっと良いお土産があると思うがタレ座敷童からの要望なので返信した私だった。


「分かったって。それと、タレ座敷童の写真を撮って欲しいって、言ってるけどどうする?」

「タレ座敷童?」

「ノーブラの薄着で、お子様パンツを晒した垂れに垂れた座敷童が、そこに居るじゃない?」

「どこ?」

「私の部屋から姿見を持って来ましょうか?」

「それって私?」

「「雹以外に居ないでしょ!」」

「ムカッ!」

「落ち着いて落ち着いて。でね? それを耀子が欲しているから、いいかなって?」

「耀子に百万請求していいならって返して」

「「百万って」」

「私のオフショットは安くない」


 一応でも売れているからって認識だね。

 プロ根性が逞しいというかなんというか。


「それなら、お土産は無しって言ってるけど」

「ぐぬぬ」

「オフショットの一枚と乾燥マンゴーの十袋。どっちがいい? だって」

「ぐぬぬ」

「それなら、オマケで二十袋、追加するって」

「ぐぬぬ」

「箱買いするってさ」


 これは食欲とのせめぎ合いだろうか?

 最終的に雹ちゃんは折れたのであった。


「仕方ない。好きなだけ撮っていい」

「そこで食欲が勝るとはね」

「やっぱり子供ねぇ」

「子供じゃないよ!」


 本場の味を味わいたいがため、女優のプライドをかなぐり捨てるって、早々出来ないよ?

 まぁ『若いから出来る事でもある』と母は言いそうだけども。そんな母も今は耀子達と一緒に居たりする。同じ番組らしいから。

 そこではゆきさんも同行しているので、この写真は耀子よりも母親の要望だろう。

 私と美樹は授業が始まる前にあらゆる方向から雹ちゃんを撮っていった。真後ろからは流石に控えたけどね。雹ちゃんのお尻が写るから。

 そうして耀子宛に送信した私だった。


「写真を貰った雪さんが喜んでいるって」

「か、母さんからの要望だったのぉ!?」

「留守中も育ったか知りたかったみたいだね。追加でお尻も撮って送ってとあるから写すね」

「お、大人パンツに履き替えてきていい?」

「「ダメ!」」


 そんな撮影後。もとい英語の授業が終わった直後、別行動中のひかりあきらから別の写真が送られてきた。


「あ? あ、これは・・・」

「どうしたの? 栞里しおり?」

「何かあったの?」


 その写真には母が見たらげっそりする光景が映し出されていた。

 多分、雹ちゃんが見ても同じだと思う。

 私は仕方なく二人にも写真を見せる。


「「あっ!」」


 そこに写っていたのはクズ父とゴミ。

 二人は何故か意気投合したように大道芸をしていたのだ。それでも日銭を稼ぐほどではないのか揃ってガリガリに痩せ細っていたけれど。

 私は不意に過去の記憶を呼び覚ます。


「ああ、そうか。ゴミの父親って商社に勤めていたから・・・だからフィリピンと?」


 しかし、なら何故、帰国していないのか?

 すると雹ちゃんがきょとんとしつつ呟いた。


「先日会ったよ? 研ちゃんで」


 それを聞いた美樹もきょとんとしていた。


「そうなの?」

「先日、研己くみから紹介してもらってね。なんでもフィリピン支社から本社に戻ってきたって言ってた。その時のお土産が」

「まさか、乾燥マンゴー?」

「うん。美味しかったからまた欲しい!」

「「それでかぁ」」


 それでお土産を欲したのね。

 何袋でもいいから食べたいと。

 そういえば美容効果が高いって聞いた事があるね。おそらくそれは研ちゃんの店主の奥さんに買ってきたお土産でもあるのだろう。


「そうなると、置いてけぼりを喰らったか?」

「あのクズ父が余計な事を吹き込んで、凱旋するつもりでいたりするかもね? 大道芸人になっているのは、下積みのつもり、なのかもね」

「下積みが通用するほど芸能界は甘くないよ」


 そうだよね。一度でも干されると早々復帰が叶う世界では無いし。どんなに海外で下積みしても、過去の最低評価だけは覆せないからね。

 一先ずの私は送られてきた謎写真の処遇を決めかねていた。


「それならどうする、これ?」


 一応、クズ父はモザイク加工したけどね。

 私と母にまたしても迷惑が及ぶから。

 すると雹ちゃんが私に写真を求めてきた。


「それ貸して。事務所に送りつける。あとは弁護士の仕事だから放置一択で」

「それしかないか」

「騒動の責任は本人に取らせるべき」

「未成年だけど?」

「それでも置き土産は置き土産」

「まぁ何があったか聞かないよ」

「聞いたら栞里も怒るから言えないよ」

「それほどの置き土産なんだ」

 

 私はメディアに移して雹ちゃんに手渡した。

 雹ちゃんはスマホに移してマネージャーに送りつけた。その後、マネージャーから感謝のスタンプが届いて、事態が動いたようである。


「職員達が渡航準備してるって。チケットを取って写真にあった位置情報から場所を把握中」

「強制帰国確定と」

「帰国前に被害届も出すって」

「そういう案件?」

「そういう案件」

「この分だとゴミの父親に被害が及びそう」

「それは問題ない」

「「はい?」」


 こういう時、雹ちゃんの無表情は考えが読めなくて困惑するよね。


「親権を母親に移した。失踪した母親の旦那が写真に写っていた男性。今は義理の親子だね」

「は?」


 あのクズ父と浪費母が再婚?




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