第28話 母娘で同類と知った。

 そうして勉強会を終えた日。

 私は昼食を食べる仲間達に対して、ちょっとした提案をしてみた。


「実はさ、皆に提案があるんだけど・・・」

「「「「「提案?」」」」」

「これは今朝も話した事に繋がるんだけど」

「というと、栞里しおり天音あまねさんの家を出てここで暮らす話だっけ?」

「うん。耀子ようこの言う通り、その話の続きでね。この広い家に一人って正直寂しい過ぎるんだよね。だから、ルームシェアしない?」


 ルームシェア。

 つまりは一緒に住もうとの提案だ。


「勿論、家賃は不要だよ。ここは私の持ち家だからね。但し、食費だけは折半になるから、融通してもらうかもしれないけど。どうかな?」


 正直、ここに一人で住めは、辛い。

 元々がファミリー向けの住居だからだ。

 ゲストを呼ぶために用意したとはいえ、いざ住むとなれば話は別である。

 一応、それぞれの手続きやら何やらが必要にもなるから急ぎはしないが。

 すると耀子が思案しながら手をあげる。


「う〜ん。申し出は大変有り難いけど、私は無理かな? 実家から通わないといけない契約になっているから。たまに遊びにきて、泊まるくらいは許されるけどね?」

「それは私もかな? 耀子と同じく契約があるから、未成年の内はダメかも」


 ああ、耀子とひかりは事務所が影響するのね。今はまだ未成年だから、保護者の元に居ないといけない、決まりがあるのだろう。

 それはあきらてるも同じだった。難しそうな顔で首を横に振ったから。


「私達も右に同じかな」

「成人してからでいいなら、喜んでお願いするかもだけど、今はまだ、ね? 父さんが手放してくれないだろうし」


 家族に愛されているんだね。

 それを言うと、私が愛されていない風になるから言葉に出さない。一応、母さんからは一緒に住もうとも言われているが、親の七光り対策で一緒に住めないと、固辞しているからね。

 一方、私と交際することになった美樹みきは逡巡しながら呟いた。


「私は一人暮らしだから、大丈夫だと、思う。ただ、家の契約は父だから、確認を取ってからになるかな? 父がダメって言ったらどうあっても無理だけどね。未成年同士で住むのはどういう事だって、怒りそうな気もするし」


 自活しているとはいえ不安定な職業だから。

 それが応援している者達にとって、いつ消えるか分からないタレントの元に、置きたいとは思えないだろう。交際も秘するつもりだしね。


「そっか。まぁそうだよね。無理強いするのも悪いし成人してからでもいいよ。その時に気が変わったら、声をかけてくれると嬉しいかな」

「「「「ごめんね」」」」

「気にしなくていいよ。さ、ご飯が冷めるよ」

「・・・」


 こういう時、未成年が恨めしくなるよ。

 一応、私が購入した時の保証人は母さんだから、私も母さんの確認が必要になるけれど。

 普通に「いいんじゃない」って返されそうなので、食事をしながらメールで確認すると、


(うぇ!? 邸宅を売り払った! 兄さんはどうするつもり? 琴子ことこの家に転がり込むのね。婚約がここで生きると。モデルは専属契約で続けて、母さんはここに来るぅ!)


 母さんが、かなり前から動いていた事が判明した。マネージャーもとい、天音さんの御主人が帰れなかった理由ってそれがあるのかもね。

 撮影の合間に業務外の仕事まで行わせるって半端ないと思うけど。もしかすると、社長と同じく前職が特殊な人なのかもしれない。

 だからだろうか、私が驚いた顔をしたからか全員の視線が私に集中した。

 隣の美樹を始め、全員が心配そうだった。


「どうしたの? スマホ見て驚いて?」

「何か気になるニュースでも出てた?」

家嶋やじま引退の続報じゃない?」

「あー、それもあったね。正確に言うと強制引退だったけど。まだ芸能界に居たのかってネットでは騒がれていたよね?」

「あったあった。過去に熱出して倒れたときに代役を立てられて、癇癪起こして、干されていたって初めて知ったけどね。あれが売れない真実だったんだね〜」


 話は途中から、晃と輝と光のゴミ事案に置き換わったが、それとは別口なんだよねぇ。

 というか売れない理由には驚いたけど。

 先日、はくちゃんやゆきさんが呆れていた理由はそれだったのかもしれない。

 学校側も緊急ではあったが、ノーコメントを貫いていて、ゴミの学籍は判明した時点で抹消されたらしい。事実上の強制退学である。

 私はゴミの話で盛り上がる三人を一瞥しつつ困り顔のまま事情を打ち明けた。


「本日中に母さんが引っ越してくる」

「「「「「・・・」」」」」

「今は窓口に居て私の住民票を区役所で手続き中だって。私達は休みでも世間は平日だから」

「「「「「はい?」」」」」

「つまり、私の保護者が共に住む事になるの」


 それも芸歴が半端なく安定している私の母が娘と住みたいがために豪邸を売り払ってここに来るのだ。普段は仕事で忙しいから家に帰る事はないと思うけどね。

 結果、誰もが目が点となりBGMで流れているテレビの報道番組も耳に入っていなかった。


「えっと、大女優がこのマンションに?」


 美樹は別の意味で驚いていた。

 耀子は混乱から兄の事を心配した。


「お兄さんはどうなるのよ? 男子禁制よ?」

「兄さんは琴子の家に転がり込むって。あちらの御両親とも仲が良いからって」

「「「そ、そうなのね」」」


 晃達三人も圧倒されっぱなしだよね。

 私は苦笑しつつどうしたものかと困惑した。


「ルームシェアから一変・・・保護者付きの下宿先に早変わりだね。過保護な家主さんだけど」

「家主は栞里でしょうに」

「そうともいう? 私からすれば早すぎる親孝行になるのかな?」


 というか今の時点で、刻々と母の脅威が迫っているんだよね。私の荷物も午前中の内に天音さんの家から持ち出しているらしいから。

 決めてから動く速度が半端ないよ、あの母。

 なお、報道番組では、


『大女優の歌織かをり、豪邸を売却! その真相は如何に?』


 とか、


『長女宅に引っ越す?』


 とか、


『ここで続報です。所属事務所が共同会見? 何故ここで?』


 母が大きく動けばマスコミも共に動く。


『歌織の娘さんが詩織!?』


 とんでも大移動が既に始まっていた件。

 しかも父の悪行が表沙汰になり社長が暴言を吐いた記者と局に苦情を入れると発していた。

 その流れで、琴子の家がスポンサー契約打ち切りを放送中に発表して・・・大事に発展した。

 私の兄も、あの父の息子だからね。入り婿を悪く言われて放置する経営者はいないだろう。


(何処までも絡んでくるね。あのクズ親父!)


 それには美樹達も呆然であった。

 すると光が心配気に問いかけてきた。


「どうするの詩織さん?」

「どうするも何も、身を委ねるしかないよぉ。良くも悪くも、大暴露されたも同然だしぃ」


 ホント、頭を抱えたくなるよ。お昼のニュースだから衆目に晒されるのは決まっているし。

 そんな私を見た耀子は揶揄ってきた。


「平穏が遠ざかったね?」

「うぐぅ」


 晃は私を慰めてくれた。


「まぁ事務所も聞かされていない真実だったから、七光りやらは言われなさそうだけどね?」

「それは、まぁ、対策が勝ったかな?」


 輝も同じく励ましてくれた。


「実力で勝ち取った! それだけは言えるね」

「う、うん。そうだよね」


 ここまでバレると兄も逆玉とか言われそうな気がする。当人は気にせず「だから?」と返しそうだけどね。そういう所は母さん似である。

 すると美樹が隣から私を抱き寄せ、


「幸い、事務所としては色んな意味で起爆剤になったんじゃない? 後に続く例の件とか?」

「あー、そうだね。そう思うしかないかぁ」


 表沙汰には出来ない事案を呟いた。


「「「「例の件?」」」」


 四人からきょとんをいただいたが、今はまだ言えないんだよね。守秘義務が発生するから。

 代役とか公開済みの案件ならいいけどさ。


「それはまぁ・・・」

「お楽しみってことで」

「「「「どういうこと?」」」」


 なお、交際の件は今朝方教えているので、四人も気にしていないようである。この四人もそれぞれに付き合っているから、今更だもんね。

 それからしばらくしてチャイムが鳴り、


「しお〜りちゃん!」

「うわぁ!?」


 我が母が勢いよく玄関から入ってきた。

 確か、玄関の鍵を閉めていたはずだが、管理人の雪さんが開けたらしい。後ろに居るから。

 美樹は抱きつかれた私と母を見て驚いた。


「ほ、本当に歌織だわ」


 そのまま母の自己紹介が始まった。


「あら、お一人は初めてかしら? 栞里の母の白石しらいしかおりです」

「ど、どうも。初めまして・・・私はクラスメイトの咲田さきた美樹みきです。いつも仲良くしていただいています」


 そんな何気ないやりとりの中、


「仲良く、ね?」


 母さんの雰囲気が少しだけ変わった。

 何かに気づいているっぽい妖艶な表情だ。

 美樹は母さんの雰囲気に飲まれている。


「え、えっと」


 これが本物の風格なのだろうか?


「か、母さん?」


 母さんは私の困惑で、雰囲気を和らげた。

 そしていつの間にか、隣に雪さんも居た。


「気にしなくてもいいわ。私もクズと別れてからは栞里と同じだもの」

「共に仲良くしましょうね?」

「「は? はい」」


 えっと、雪さんの彼女って母さんなの?




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