第26話 バカな間男にざまぁ。
それは
私はお好み焼き屋で何が起きたか説明した。
「そう。従兄君がそんな事を」
「目的は不明ですけどね。あと、お茶です」
「ふふっ。ありがとう」
実は私が頭を撫でている間、店主の娘さんから事情を聞いていたのだ。その時は酷い兄も居たものだと思っていたが、あとからその兄がゴミだと知って頭痛がした。従妹とはいえ下宿先の金品を強奪する行為は、許せる話ではない。
それに加え、閉店を決断させる状態にもっていったのも、ゴミだったのだから店主もやりきれないだろう。身内だから甘くなりそうだが。
「閉店に繋がる行為は、以前から目立っていたけど、今度はそんな直接的な行動に出たのね」
「ご存知だったんですか?」
「研ちゃんのお好み焼きは私も彼女も贔屓にしていたからね。でも、そうきたかぁ。店主も身内の事だから被害届は出さないでしょうけど」
雪さんも行いが行いだから何かしらの罰は必要だと呟いた。貯金は娘さんがバイト代と小遣いから貯めた、購入費用だと言っていたしね。
(私のグッズというのは少し反応に困るけど)
又聞きだから罰するのはあの家の人達だが。
私達に出来る事はそういった行いに対して何らかの痛い目に遭わせる事だけだ。
校内の窃盗で停学になっている者が身内のお金を盗んで外出しただけでも大問題だからね。
私は思案しつつ契約時を思い出す。
「あっ! 確か、
「そうね。それが?」
「雹ちゃんの契約書に契約解除の条文が有りませんでしたか? もしあるなら事務所に連絡を入れるだけで一発退場させる事が出来ますよ」
「契約解除・・・ああ、有ったわね!」
すると雪さんはスマホを取り出し、
「ああ、雹ちゃん。貴女が所属する事務所の契約書、その控えを
管理人室にて寛いでいそうな座敷童を呼び出していた。言葉や記憶を思い出すよりも直で見た方が良いとの判断だろう。
それからしばらくしてチャイムが鳴ることもなく私の部屋に座敷童が現れた。
「お待たせ」
「ありがとう、雹ちゃんもそこに居てね」
雪さんは普段はかけない眼鏡をかけて契約書の条文を読んでいく。そんな母の様子を見つめる娘はきょとんとしたまま私に問いかける。
「契約書って何かあったの?」
私は雪さんの隣に座り、契約書を覗き込む。
その間に雹ちゃんの問いかけに答えた。
「初恋相手がやらかしたの。今は・・・事務所にとって痛手が回避出来るかどうかの瀬戸際?」
私の言葉を聞いた雹ちゃんは困惑した。
「え? 痛手?」
「奴は停学期間中よ。それは校内の窃盗よね」
「う、うん」
「それだけでも事務所の心証は下がっていると思う。窃盗はともかく停学処分となったから」
「ああ、うん」
「そこに身内とはいえ従妹の貯金、およそ二十万の貯金、その全額を持って逃げたの」
「ふぁ?」
「本人が逃げたと思っていなくても、事実として盗られて泣いた従妹が居たのは住民も知っている事よ。外に向かって大泣きしていたから」
「「あらら」」
これには雪さんも額に右手を当てていた。
良い意味でも悪い意味でも、周囲にマスコミが殺到するだろう。こればかりは学校も退学処分に踏み切るかもしれない。学校も今回の一件で痛くもない腹を探られたくはないだろうし。
そんな雪さんは条文に視線を戻す。
その直後、雪さんが条文を発見した。
「あ、有ったわ。犯罪行為に類する行いをした場合の条文。乙は甲を一方的に契約解除することが出来ますって。それでも乙に関わろうとする場合、甲を相手に訴訟を起こすともあるわ」
ここで言う甲は雹ちゃんだが、ゴミの契約書にも同じ条文が記載されているだろう。
「雹ちゃん、今すぐ事務所に電話して」
「え? 母さん、訴えるの?」
「このままマスコミにバレても大事よ」
「あ、ああ! うん、分かった!」
本来ならこの手段は執りたくない。
私達も明日は我が身だから。
ただ、これで悪影響を受けるのは元天才子役ではなく所属事務所の方になる。
軽犯罪とはいえ犯罪者を匿っている。
それは各企業と契約している事務所にとって痛手である。勿論、雹ちゃんにとってもね。
「今から本人に事実確認するって」
「まさか、事務所に居るの?」
「スタジオで演技のレッスン中だって」
「外出禁止だって言われているのに?」
「マネージャーと周りは止めたらしいよ」
「強引に入ってしまったと?」
自ら心証低下を促進させるか。
(ゴミってここまでバカだったの?)
それとも間女に色々吹き込まれて精神異常をきたしていたとか? 数日前の目の焦点が合っていない表情も・・・もしかすると?
すると電話越しに、
『天才子役の俺がそんな事をする訳がないだろうが。だいいち、従妹が俺のために差し出した金だから大事に使ってやろうとしただけじゃないか。それを盗っただ? ふざけんな!』
怒鳴り声が響いてきた。
「あの年で癇癪を起こしているよ?」
「ああ、今から下宿先にも確認すると」
その後、下宿先の奥さんと娘さんからアウト宣告を受けた。店主は甘かったが二人から言い寄られて渋々無関係を貫き通したという。
「あらら、契約解除が確定か」
「一般人にジョブチェンジ!」
『なんで俺が追い出されなければならない!』
「まだ騒いでる。代役事案から成長してない」
「懲りないわね。あの子も」
そして近日中に海外で働く父親の元に送ると言っていた。パスポートはあるし一方通行で。
§
その日の夕方。
私達は買い出しをするため街を巡った。
「本当に奇麗になったよね。胸はともかく」
「まぁまぁ
「
「そ、そう? 髪型も似合ってる? 以前よりも短くなったから、少し違和感が」
一応、買い出しの前に下着屋と美容院に寄って
胸は予想通り育ってて耀子が唸ったけど。
「自信を持っていいよ。店長もご贔屓にって」
「それに時々でいいからカットモデルになって欲しいって言ってたくらいだし。一応、女優だから撮影になったら無理だって返したけどね」
お陰で私以外の五人が歩くだけで男達の視線を独り占めである。私は長くなりすぎた髪だけ梳いてもらい撮影に影響しない範囲で短くしてもらっただけである。ウィッグもカットしてもらったので地毛と大差ない長さになったけど。
「というか、栞里ってさ? 色が違うだけで、なんでこんなに違いが、出るんだろうね?」
「それを私に問われても知らないよ?」
「派手から地味になっただけなのにね」
「うんうん。元の顔立ちからバレるものと思っていたけど意外と気づかれないものだよね?」
「声だけでもバレそうなものなのにね?」
「「「「「不思議だ」」」」」
そう、カットしてもらって銀髪碧瞳から黒髪黒瞳になっただけなのに、振り向かれないの。
周囲の視線はギャルの四人と薄化粧に加えてダークブラウンに染めた美樹にも向いているからね。美樹の髪も私と同じ長さにしてもらったので比較対象が居るってことで余計に地味に見えているようである。声ですらバレないって。
なお、長かった美樹の髪は専用のウィッグとするために、美容院の店長に預けてある。
撮影が始まったら長髪が必要になるからね。
そんな中、定番のナンパ君達が登場した。
「君たち可愛いね? 俺達と遊ばない?」
残念ながら、ここに居る美樹と私以外は交際中だから相手にされないと思うよ。
「そこの金髪の子とか、すっげぇタイプ」
「俺はそこの地味そうな子がいいわ。地味な割に顔が整っているし」
「そうか? 俺はまぁ・・・巨乳が」
男に幻滅したというか、しっくりこないとの理由で同性に逃げた子達だし。というか私も異性に幻想を抱けなくなりつつあるんだよねぇ。
(父が父だったし、兄は・・・うん、兄だけど)
最後は幼馴染の愚行の所為で、異性と結ばれなくても良いかなって、思えるようになった。
同性同士でも夜の方は楽しめるしね。
「どうせなら、そこのホテルでも行こうか?」
ナンパ君が非常に下品な一言を吐くと、私と耀子以外はゴミを見る目でナンパ君達を睨む。
「「「「・・・」」」」
ホテルと発した時点で、何が目当てか分かるもんね。ホント、男って奴らは、これだから。
私と耀子は大きな溜息を吐いた。
「「はぁ〜」」
これも目的のスーパーマーケットに到着する前に遭遇したからだけど。休日はゴミが湧く。
私達は顔を見合わせ互いに手を繋ぎ、
「「「「うん!」」」」
「美樹は私と!」
「え? あ、うん」
私の一言を合図に一斉に散ったのだった。
「散開!」
「あっ、待てよ!」
「待てと言われて待つ者な〜し!」
あとは勝手知ったる者が勝つ。
ここら辺は耀子達の地元だからだ。
私も時々だが案内してもらっていたので土地勘はある。私はスマホを取り出して、いつ頃合流するか決め、それまでは逃げ回る事にした。
「美樹、鼻血!?」
「今、凄く、幸せかも」
「おいおい」
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