第25話 心からの癒やし空間。

 私は今、身体を磨かれている。


「色々ボロボロね。これはストレスかしら?」


 それは比喩でもなんでもなく実際に磨かれているのだ。顔を始めとした首筋、胸元、お腹と腰、脚の付け根、太もも、脹ら脛、足先等。

 背中、腰、お尻、太もも等をじっくり丁寧に揉み解されていて色んな意味で幸せだ。


(気持ちいい。詩織様達は定期的にコレを施術して貰っているのね。だから、疲れているように見えて、実際は疲れが感じられないと?)


 目に見えて疲れている時は精神的な物の方が大きいと聞く。床へと四つん這いになっていた耀子ようこはともかく栞里しおりが疲れている時の原因は記者の突撃らしい。

 何かの拍子に記者と目が合った日には睨むそうだ。目ではなく身体全体で威圧するように。


(過去にイヤな事があったらしいものね)


 親の敵とでもいうような反応を受けた記者達はビクッと怯えるも問いかけてくるのだとか。


(私はまだ経験が無いけどそれを聞くとイヤになるわね。有名になるという事は晒されると)


 栞里曰く「マンションを出てくる時に、住人を待つように記者が張り込んでいたよ」と、今朝の事を教えてくれた。それは同じマンションに有名な俳優が一人暮らしをしているからだという。時々女性を連れて帰るから、そこを狙って待っているらしい。下品、極まりないわね。


(そこまでして野次馬根性を示さなくてもいいのに。自分がやられる側に立つ、という想像力が欠けているとしか思えないわね)


 芸能人だから人権はないと言いたげな対応。

 それなら記者達にも人権はないよねって返すと俺達にはあると叫ぶらしいから始末が悪い。

 中には真面な記者も居るようで、詩織の事務所はそういった記者とだけ、やりとりしているという。心情を汲み取れない外道はお断りと。

 そういえば昔新聞記者だった伯父さんが、


『全く、今の記者共は人の皮を被った害獣だ』


 そう、嘆いていたのを覚えている。

 辞めた経緯を聞くと悔しそうに泣いていた。

 真摯な記者が減って、外道が増える不思議。


(生真面目は、お荷物扱いを受けるのね)


 面白可笑しい記事の方が世に受けるから。

 何時だったかはくが言った、


(カメムシ、か。ホント、言い得て妙よね)


 光のある所に群がる様はまさにそれだろう。

 光という名の醜聞に群がる自己中共だから。


(光というと、こちらのひかりは耀子に胸を揉まれているわね。あれも胸への意識が集中した結果なのかしら?)


 そう、私が意識を浮上させて耳を傾けると、


「このぉ。揉まなきゃやってられるかぁ!」

「や、やめてぇ、感じちゃう、からぁ!」

「ねぇ、あきら。デカいのに感じるのって耀子が開発したからじゃない?」

「うん。私もそう思うよ。てる

「毎度の事だけど飽きないね、耀子?」

「光は落ちた! 次は栞里の番だよ!」

「え? ええ? わ、私は、遠慮」

「しないでさ? ほら、おっぱい出して」

「手の動きが、おっさんなんだけど、耀子?」

「私子供だから、おっさんじゃないよ?」

「こういう時だけ子供ってどうなのよ!」


 大変羨ましい状況になっていた。

 栞里のおっぱいなら私も揉みたい!

 おっと、ゆきさんからペシッとお尻を叩かれた。少しだけ身体が動いたみたい。

 ちなみに、この中で彼氏を持つ者は居ない。

 栞里も欲しているように見えるが、ダメ男を吸い寄せる体臭が災いしてか、女子の方が好きなのではないかと最近は思うようになった。

 他の四人も合コンはしているが気持ち的に男子が煩わしいと思っている節がある。そうでなければ女同士で組んず解れつはしないだろう。


「む、胸以外、触ったら、ダメだって!」

「栞里のお腹、それに、お尻も柔らかい」

「「私も! 私も!」」

「こ、こら! 晃も、輝も、何処に手を?!」

「パンツ、脱がしますね〜」

「ひ、光!? やめてぇ!」

「「「「桃尻だ!」」」」


 いいな。私も触れ合いたいよ。


「楽しそうね」

「そ、そうですね」


 雪さんも独り身で。否、彼女が居るらしい。

 この人は女性が大好きな女性なんだよね。

 マンションが女性限定なのもそれである。

 私も意中の異性が居たが、


(まさか彼女持ちだったなんて)


 この数日間の間に本人が男子達と話している最中に聞いてショックを受けたのは言うまでもない。それも年上、学校の先輩で女優という。


(きっかけは初主演の共演だった、か)


 交際歴は十年とあるから、そろそろ数度目の倦怠期に突入すると嘆いていた。

 一応、婚約もしているそうで高三に進級したら婚姻届を提出する予定らしい。無念。

 なお、芸能記者に見つかっているが、それは彼の実姉であり、結婚時に大々的に報じていいとの約束をしているらしい。その経緯から何からをおよそ数十年の間に温めているのだとか。

 とんでも記事が三年後に出てきそうだよね。

 そんなこんなで初めてのエステは終わった。


「奇麗になったわよ」

「あ、ありがとうございます」


 エステが終わったあと身体を隅々まで見ると見違えるようだった。肌がプルンとなって疲れも同時に解消したかのように思える。

 私は起き上がりつつバスタオルを巻く。

 雪さんは身支度を終えると、


「それじゃあね」

「はい。ありがとうございました」

「代金はいつも通り振り込んでおきますね」

「ええ、お願いね」


 耀子と晃のお見送りで玄関から出ていった。

 私は自室とした部屋を出てリビングを覗く。

 そこでは光と栞里が見るも無惨な有様で、輝が後始末・・・絡んだ身体を引き剥がしていた。


「「しくしく」」


 フローリングに突っ伏して素足を晒した栞里。色白の大きなお尻が丸見えなんですが?

 光は胸が晒されていて栞里と絡まっていた。

 どのようにすればあの体勢になるのやら?


「はいはい。お風呂行こうね」

「「うん」」


 いつの間にか光までも揉まれたらしい。

 輝に連れられてお風呂に向かったから。

 栞里も途中からカラコンを外していたようで完全な素の状態で乱れていた。それを聞いた私も耳を塞ぎたくなった。気づいたら雪さんに拭われていたけれど。何処とは言わないわよ?

 私はパンツを穿いてからジーンズも穿く。


(ブラは? 無い? ノーブラでいいか)


 ブラが無かったのでブラウスを上から着た。

 その際に玄関から耀子達が戻ってきた。


「やっぱり、女の子の方がいいね」

「耀子さ、雪さんに毒されてない?」

「どうだろう? 男子達が子供っぽいから、今は興味が持てないっていうか?」

「容姿はこの中で一番の子供なのに?」

「うっさい! 私の心は女性なの!」

「まぁ言わんとする気持ちは私も分かる」

「だよね。以前の合コンでもしっくりこなかったしね。男子達の視線が光のおっぱいに集中していたからだろうけど」

「耀子のお気に入りは光だもんね?」

「お気にっていうか、私の彼女だし。そういう晃は輝とどうなの?」

「私? あー、ここだけの話。お付き合いしてる、かな」

「してるの?」

「う、うん」


 やたらと乱れる理由は交際中だから?


(それか、男子達に見切りを付けたのかもしれない。いえ、交際しようものなら、追いかけ回す者達が居るから、近場で済ませたのかも?)


 雪さんも時々『同性がいいわよ』と言っていたしね。私自身はノーマルと思っていたけど、


美樹みきちゃんは詩織ちゃんが好きでしょう? それなら十分、素質があるわよ?』


 そう言われていたりする。

 確かに詩織・・・栞里相手になら、身も心も委ねたいとする気持ちが何処かにあったりする。


(近くに居て遠い存在。だからこそ・・・)


 切ないよね。今は皆の詩織だから。

 世の中、同性同士は健全ではないと言う者も居るけど、不思議と同性の方が惹かれるのだから仕方ないと思う。私も棟潟むなかた君が好きだったように思えるけど、詩織と比較すると詩織の方に意識が傾くのよね。

 すると栞里が一糸まとわぬ姿でリビングに出てきた。


「さっぱりした!」


 一応、ハンドタオルを胸の前に垂らしてはいるが、鼻血が出そうなほど奇麗な裸体だった。

 うしろから追ってくるのは紫のブラとパンツを持った光だった。


「栞里! ブラ着けて、パンツ穿いて!」


 光も赤い下着姿だけどね。

 駆けてきたから胸が大きく揺れているわね。

 あそこまで大きくするにはどうすれば?

 耀子に揉んで貰う? それはちょっと。


「自宅なんだから素っ裸でもいいじゃん」

「ブラインドが開いているのよ!?」

「あー、裸族とすっぱ抜かれても仕方ないか」


 その返答は豪胆というか、諦めというか。


(でも・・・ここより高いビルはないような?)


 危惧するのは上空を飛ぶ報道ヘリくらい?

 邸宅を覗き見する記者とか居るのかしら?


「大丈夫だよ。光」

「耀子?」

「ここの窓は反対側からは中が見えないから」

「「ふぇ?」」


 私も光と共にきょとんとなったよ。

 つまり、栞里は知ってて裸を晒したのね。

 エステを行ったのは各自の部屋だったから気にも留めていなかったけど、よく考えると組んず解れつがあったのはリビングだものね。


「着替えたら下着を買いに行こうか。美樹もノーブラだし、擦れて痛いでしょ?」

「え? 気づいていたの?」

「気づけないと思った?」

「あっ・・・お見苦しいものを」

「気にしない気にしない」




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