第22話 三者三様の反応だね。
自宅に帰り、パソコン前に座っていた私のスマホに一通の通知が入った。
それは担任に呼び出されていた
「楽曲? えー! なんで? 私も歌うの?」
私はきょとんとしつつ、スマホを見ると驚くべき一言が書かれてあった。
そのうえ私の趣味までもバレたようである。
私はあまりの事に混乱した。
「私が試しで作った曲が、二期で正式採用?」
それは例の小説を読んで、思い立った吉日で作った曲である。実はドラマ出演が決まる前から歌詞の無い曲を動画配信サイトで公開していたのだ。それがどういう訳か関係者の目に留まり二期のエンディングテーマで採用となった。
「まさか、事務所が教えた?」
いえ、それはないわ。
趣味までは教えていないから。
あくまで私は売れないお荷物だ。
私のマネージャーもお荷物をあてがわれている。揃って退所しろと言わんばかりの対応だ。
そんなお荷物でも業界のコネだけはあるから手放すと事務所が損しそうな気がするけどね。
そうなると、考えられるのは?
「純粋に、個人への、オファーなの?」
個人的にスタジオを借りて撮影したものね。
当然、女優・さきたみきの名を隠し、素顔にマスク、パーカーにジーンズというラフな格好でギターを弾いていた。本名だけを晒してね。
「楽譜が何故? ああ、耳コピ? というか連絡は無かったような? どうだったっけ?」
私は混乱したままメールアプリを開いた。
「あ、迷惑メールに入ってる・・・こんなの気づける訳がないでしょ!」
そこには楽曲を採用したいから返信してほしいと書かれてあった。差出人はドラマのプロデューサーである。
「今更、ダメとは言えないわね。私が出演するドラマでもあるし。でも、なんだろう? この複雑な気持ちは? 女優ではなく作曲家として請われているから、かな?」
流石に見切り発車が過ぎるでしょうに。
なお、メールの送信時期は半月前だった。
そんなに前からオファーが入っていたとは。
「オーディションの前に作曲家としてオファーが入っていたとか。やっぱり複雑だ」
私の本業は女優だ。だが、趣味の作曲が表舞台に上がる日が来るなんて想定出来ないよ。
とはいえ返信が遅すぎると栞里に迷惑をかけるので私は本名のままメールを打つ事にした。
「とりあえず、返信しよ」
今はそれしか出来ないし。
§
そうして私が収録を終えた頃、
「作曲者から返答が貰えたわよ。快諾だって」
そのうえで相手役の歌い手を伝えてきた。
「詩織の相手は
それを聞いた私は車に乗ったあと苦笑した。
「ですよね〜」
「どうかしたの?」
これは誰もが作曲者に気づいていないね。
というか既に知っていそうだけども。
「その作曲者、田咲美姫さんですよ」
「はい?」
「本名で楽曲だけ公開しているそうです」
「そ、それは? え? 女優よね?」
「趣味だって返答がありましたね。一応、広告収入は得ているみたいですが」
私も利益を得ていると思ったが、趣味と知って驚いた。つまり女優業の傍ら、暇潰しで曲を作っている、才能の塊だったってことだろう。
作曲はそれなりの才能が要るもんね。
「それはまた」
「プロデューサーも監督も驚きでしょうね?」
「驚かない人は居ないでしょ?」
「それこそ裏方として引っ張ります?」
「あちらが手放せばね」
「事務所は知らないみたいですが」
「へぇ〜。それは良いことを聞いたかもね」
おや? 天音さんが人の悪い笑みを?
ルームミラー越しに見える笑みは相当だよ。
まぁケバ子さんもあくまで趣味だって言っているもんね。顔出しはせずモノクロ映像だけで公開しているようだ。その姿は私が演じる暗殺者と同じ格好なので本名以外に誰が弾いているか分からないだろう。閲覧数も少ないらしい。
やはり音楽素材と歌詞ありは違うのかもね。
「事務所が関知していないなら、別方面で当たってみましょうか。売れていない期間があるなら、お荷物扱いを受けていそうだし」
「あらら。経験者だから分かると」
「悪い?」
「全然」
何はともあれ、人知れず引き抜き話が巻き起ころうとしているが、これはこれで事務所の利益にも繋がるので、私も黙認しておいた。
(一応、本人には伝えておこうかな。お?)
発狂中のスタンプが届いた件。
そういえば、詩織大好きっ子だったね。
最近は形を潜めているから忘れていたよ。
(帰ったら、小説を改めて読み返そうかな)
そうしないと作詞が出来ないからね。
台本でもいいけど私の捉え方が大事だから。
§
おかしい。何故こうなった?
俺は何故か謹慎・・・停学を言い渡された。
そのうえドラマの出演も降板扱いになった。
「一体、何がどうして?」
「兄さん、それはいいから、手伝ってよ」
「うるさい!」
「うるさいって酷いよ!」
俺が混乱しているのに、従妹はフライ返し片手にお好み焼きを焼いていた。というかこいつも停学処分になっていたな。何をしたのやら?
「今日は開いてるかい?」
「「らっしゃい!」」
「兄さん、だいぶ板についてきたね?」
「うっせぇ!」
「今日は・・・豚玉、餅チーズ入りで」
「「あいよ!」」
「やっぱり、こちらの方が性に合ってそう」
「うるせぇよ!」
俺の実家は離婚を機に売り払い、母は蒸発した。父は中学に上がる頃より海外勤務となり定期的に戻ってくるが、ほぼ放任状態となった。
高校進学と同時に俺はそのまま母方の親戚に預けられ、休日は鉄板の前にて、お好み焼きを焼いているのだ。生地を焼くより役が欲しい!
「このまま役者辞めたら?」
「何を言う。俺は天才だから辞めないぞ」
「天才ね。いつかは理解してくれるといいな」
「おうよ! おっちゃんにはサービスで豚肉を多めに入れてやるよ!」
「お? それは嬉しいサービスだ」
「兄さん。煽てられて木に登る猿みたい」
「なんか言ったか?」
「なんでも」
これはこれで楽しいから、熱くても取り組めるけどな。バイト代も入るから昼食も困らないし。今日は意味不明な出費もあったがこれで盛り返す事も出来るだろう。教科書は賜った物なのになんで買わせられたのか理解出来ないが。
すると従妹が、
「まさか兄さんと同じ事をしていたなんて、私も阿呆になったのかな? 恋は恐いよねぇ」
俺を阿呆と言いたいのか遠い目をしていた。
俺は阿呆ではないぞ? 成績は良い方だし。
「阿呆って普通科のお前に言われたくないぞ」
「普通科って。私は別に商業科でも良かったけど大学に行きたいから入っただけだよ?」
「そうなのか?」
「そうなのよ。兄さんだって今の立場じゃないなら普通科でしょうに。授業は同じだよ?」
「芸能科は選ばれた者が入る学科だしな!」
「はぁ〜」
ん? 従妹が頭を抱えている。
だってそうだろう? 芸能人が多いからな。
「選ばれたも同然じゃないか」
「そうそう。
「毎度! 理解あるおっちゃんには豚肉多めでサービスだ! 代金も一枚だけでいいぞ!」
「嬉しいねぇ」
「兄さん、お店潰す気?」
「俺が店番しているんだ。客はこれから沢山入るぞ! 俺は天才だからな!」
「そうそう。美味い! 研壱君の焼くお好み焼きは絶品だな!」
「兄さん。煽てられて木に登る豚みたい」
「何か言ったか?」
「はぁ〜」
そうして常連客が帰り、静かになった店内にて、奥に引っ込んだ従妹の声が響く。
「父さん! 兄さんが豚肉浪費してる!」
それは外出していた叔父への告げ口だった。
「なぁにぃ!? 給金から引いておくからな」
「なっ!?」
出費で辛い時にバイト代が減るなんて。
そんなのあんまりだ!
「あと停学になったらしいな。学校に呼ばれてみれば頭痛のする行いだ。二人共、停学期間中は小遣い抜きだ! 黙って店番をするように」
「「そんなぁ!?」」
バイト代だけでなく小遣いまで無くなったら俺はどうすればいいんだよ。停学の所為でレッスンにも行けなくなったし。何故こうなった?
俺が考えたところで原因不明なままだった。
店番を終えて二階に上がった俺は意気消沈なまま先々を憂いた。
すると従妹が、
「仕方ない。詩織グッズの購入は貯金箱から捻出しようかな。ファンクラブの会費もあるし」
女神様ファンの従妹が、ベッドの下から大きな大きな貯金箱を取り出していた。
あんなところに隠し財宝があったなんて!
「お? 俺にも」
「兄さんはダメだよ。浪費してしまうから」
「そ、そんなことはないぞ?」
「どうだか。夕方のやけ食いで全部使っていたじゃん。私でも少しだけだったのに」
「そ、それはだな」
腹が立ったのと昼飯を食べていなかったからで。あれはなんで食べてなかったんだっけか?
「これはグッズ購入のために私が蓄えたお金なの。バイト代と小遣いから食事代を抜いた残りで出来ているの。それを兄さんの道楽で使われたくないよ。私の貯金は詩織のためにあるの」
「ど、道楽とか言うな! 俺は本気で」
「鳴かず飛ばずじゃない」
「ぐっ」
この一言にぐうの音も出ない状態になった。
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