第20話 骨折り損だと教えた。

 昼食中、本当に参った事案が起きた。

 あと数分で昼休憩が終わりというタイミングで事務所から緊急連絡が入ったのだ。

 何事と思ってスマホを開くと、タレコミが起きたと知った。それは校内の生徒の誰かから雑誌記者へと手渡された私の個人情報である。


(幸い、記者は黙る事になるね)


 それは琴子ことこの実家。

 関連企業の新人記者でもあったので、上からのお達しで記事になる事はない。なったらなったで事務所が動きを示すだろうし。

 流石に琴子の情報源は分からないが、


「その琴子さんって何者なの?」

「「「「「商業科の生徒!」」」」」

「は?」


 ケバ子さんが疑問気に問いかける謎人物であるのは確かだ。情報通を通り越しているよね。

 なお、琴子の好みは恋愛沙汰だが、他の情報まで網羅しているから絶対に敵には出来ないお嬢様である。金的君も今では怯える相手だし。

 琴子から情報を得るためには相応の情報を提供する必要があり、下手すると私の情報を何処かに流される恐れがある。

 なので今回は芸能科一年で金的君のあだ名が出回ったと教えておいた。体育の授業で私がドッチボールでボールを強打した事も含めて。


『ドッチボールでフォークボール!?』


 驚かれたけれどね。だが、同じ球を投げろと言われても出来るかどうかは分からない。

 たちまち、タレコミを行った生徒に関しては事務所に動いてもらう事になった。

 情報源を琴子と伝えると納得されたけど。


「敵に出来ない女子高生も居るのね」

「うん。味方としては助かるけどね」

「敵には絶対に出来ないよ。瀬奈せなさんも琴子には頭が上がらないよね?」

「多分ね。私と同じくらい溺愛してるからお尻に敷かれてもいいとか思ってそうだけどね?」


 あの兄なら喜んで琴子のお尻に敷かれるよ。

 但し、現状の琴子の手料理に関しては沈黙しているけれど。教えるのは私くらいだろうね。

 将来的には婿入りする事が決まっているし、兄も琴子のためなら頑張るだろうね、きっと。

 そして昼食後、ロングホームルームまでの待ち時間は私も席を離れて耀子ようこ達と駄弁った。


「しかしまぁ、タレコミ主は何を思って?」

「貧乏学生ってあったから、奨学金で入学している優等生なんじゃない?」

「そ、そんな優等生が、なんでまた?」

「それは分からないよ。ただ、一つ言えるとしたら、購買で出会った彼かもね?」

「「「「「彼?」」」」」


 そう、あの彼はおかしな挙動を示したから。


「で、事前情報としてだけど、ウチの学校って購買とか学食で支払う時は何を使うと思う?」


 問われた耀子はきょとんとしつつ答えた。


「え? それは電子マネーでしょ?」

「えっと、生徒手帳に入ってる、これよね?」


 ひかりが生徒手帳を取り出しながら見せたのは一枚のカードだ。学生達はカードの電子マネーを利用する事が当然となっていた。

 市販の電子マネーも使えるけどね。

 するとてるが光の言葉を引き継いだ。


「誰であれ生徒手帳の電子マネーを使うよね」

「ただ、一回の購入金額が高いから私達は使ってないけどね。初回入金の残高も減らないし」


 あきら達は自炊組だもんね。

 私も本日使っただけでほぼ利用してないし。 

 残高も残り四万弱となっているね。


「私は節約中だけど」

「「「「美樹みきは仕方ない」」」」


 ケバ子さんも最近までは学食組だったから仕方ない。座敷童ことはくちゃんは儲けがあるから学食を利用しているみたいだが。

 私は事前情報を出したあと本題に入る。


「その時にね。その彼は現金支払いだったの」

「「「「「現金支払い?」」」」」

「しかも、英語の教科書を買いに来ていたね」


 詳細は不明だけど買いにきて、現金支払いなら、食事代は何処から捻出するってなるよね。


(食事代欲しさに、新人記者にタレコミしたなら、対応は慎重にならないといけないけどね)


 なお、我が校の奨学金は学費だけに充てられるいて食事代は基本自腹である。そして教材費は進級毎に初回のみが学校負担なので、余程の事が無い限り自己負担が発生する事はない。


「で、今回は自己負担が発生したと仮定して」

「そ、それって?」

「「まさか?」」

「「いじめ?」」

「これがいじめなら、緊急職員会議が開かれている頃だと思うよ。というか、先生遅いね?」


 教室内には防犯カメラがあるからね。

 というか、金的君の件も同じだった。

 耀子達は壁時計を眺め頬を引き攣らせる。


「あ。絶賛、会議中だったりする?」

「その可能性は無きにしも非ずよね」

「芸能科と普通科で教科書紛失事案とか」

「大問題に発展しそうな予感がする」

「下手すると金的君は停学になるのかしら?」


 ケバ子さんの言う通りなら、なりそうだ。


「停学になり時期がロケと重なると?」

「あぁ、私、頑張るね」

「うん。その可能性があるよ」


 代替が本命に変化するだろうね。

 停学中は誰であれ外出禁止だから。

 事務所にも通知が出されるしね。

 おそらく私の件で同じような事が起きていないか調査が入ったのかもしれないね。

 何はともあれ、先生が中々来ないので私達は自主的に自習する事にした。試験も近いしね。

 すると座敷童が廊下から教室に入ってきた。


「座敷童、ちょっと席借りるね」

「だから!」


 今まで一体、何処に行っていたのやら?

 私はその際に気になった事を耀子に問うた。


「というかクラス委員って誰?」

「ん? そこの座敷童とピン芸人」

「あらら」


 それで? 率先して確認に行ったと。

 ピン芸人はやる気なさげに手をあげるだけだったが。


「座敷童言うな。っと、自習してって」

「「「「もうしてるよ」」」」

「今はそれしかないからね」

「遊ぶよりも試験に備えた方がいいし」

「そこの六人以外も自習だって」

「「へ〜い!」」

「「「り!」」」


 それでも行えるのは本日の教科だけだけど。

 その直後、


『芸能科一年、家嶋やじま研壱けんいち君。普通科一年、家城やしろ研己くみさんは至急、職員室に来るように』


 校内放送でお呼び出しがかかった。


「い、今のって?」

「窃盗犯を特定した?」

「というか普通科って女子じゃん!」

「同質の変態が普通科にも居たと」

「学校の本気度がパない」

「「分かる」」


 マジで防犯カメラ様々だね。

 そうなると私は間接的にその女子から嫌がらせを受けたってことになるのかな。今回ばかりは誰が犯人かなんて、全然分からないけれど。

 するとその直後、私のスマホが震えた。


「あ、琴子から。本当に何処から情報を仕入れているのよ? あー、ゴミの従妹ときたか?」


 それも母方の・・・両者の動きが似ているのは血縁者だからと。それが巡り巡って、私のタレコミに繋がるのだから、害悪でしかないね。


「おいおい、従妹って?」

「同類の犯行だったかぁ」

「類友?」

「それは違うぞ、座敷童」

棟潟むなかた!」


 クラス内でも呆れかえる者が多数だった。

 最終的に昇降口に結果が張り出された。

 一ヶ月強の停学、中間考査は無効だった。

 それも従兄妹揃って同じ処分が下った。


「事実上の夏休み補習コースだね。これ」

「事実上の引退しろ宣告にも見える」

「稼ぎ時を奪われたも同然だから?」

「うん」

「「「「南無!」」」」


 一ヶ月以上も授業が受けられないからね。

 夏休みは無いに等しい罰となったようだ。


(補習問題を用意する専科の先生の気苦労よ)


 ちなみに、これは明日からなので当人達は学食で口喧嘩しながらやけ食いしているという。

 これは琴子談ね。情報通が恐ろしいよ。

 それだけにケバ子さんにとっては忙しくなる結果となったけど。


「撮影時期に丸かぶりだから終わったね」

「本格的に練習しないといけないかぁ」

「時間が許す限り手伝うから安心していいよ」

「お願いします」



 §



 その後、私は何故か職員室に呼び出された。


「先生。仕事があるので、あまり拘束されたくないのですが?」

「ごめんなさいね。直ぐに終わらせるから」


 担任は私を応接室に通す。

 そこには昼間会った男子生徒が座っていた。

 私は視線をそらす男子生徒を見つめ、


(もしかして、それが狙いなのかな?)


 近づきながら思案した。

 私は隣へ座りながら笑顔で語りかけた。


「やあ、ご飯代は稼げた?」

「・・・」

「別に皮肉を言った訳ではないよ?」

「・・・」

「単純に私が雑誌記者に追い回されて、中間考査どころではなくなるだけだしね。有名税で受け流すしかないから」

「・・・」

「大変だよね。奨学生というものは」

「・・・」


 どれだけ問いかけようとも沈黙は続く。

 悪いという認識すら欠けているのかも。

 顔を見た瞬間に目をそらしただけでね。


「学年首席を維持しないといけないから」

「くっ」

「私を蹴落とす必要があったんでしょ?」

「・・・」


 私が校内で噂されるほど、天才だなんだと持ち上げられているから。片手間で首席になられたら最後、奨学生では居られなくなるからね。


「残念ながら、貴方のタレコミは徒労でしかないよ。芸能科の成績は非公開、貴方の学年首席は不動なまま。この意味、分かるよね」

「!?」


 やっと振り向いた。

 私は畳みかけるように語る。


「それと、私は学年首席なんて興味ないの。私が目指すのは更なる高みだから通過点でしかない試験の成績なんて重要視すらしていないよ」




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