第7話 言葉の中に潜む地雷。
俺の隣に座った地味子。
名前は確か、
(地味過ぎるから違和感がとてつもないよな)
何せ、隣から見たら分かるが、切れ長の目元と灰色に近い碧瞳が、彼女の隠しきれていない存在感をありありと示しているからな。
それこそ何処かで見た顔立ちにも思える。
そのうえ想像以上に頭も切れる。
(二足のわらじで貶してやったが、俺が想定したよりも、キツい言葉を浴びせてきやがった)
売り言葉に買い言葉であったとしても俺の痛い所を的確に突いてきた。子役時代はそこそこ売れていたが、今は暇過ぎるからな。
それでもナレーションの仕事が入るから助かってはいるが。声が良くて助かったともいう。
俺もモデルと女優を兼ねているなんてふざけていると思ったがこの業界は売れてなんぼだ。
無名がどれだけ騒ごうとも響かないからな。
とはいえ、
(名前が売れていないのは、お前だって同じだろうに、なんでそんな上から目線なんだよ?)
俺と同じで売れない俳優業でしかないのに何故その言葉が吐けるのか。売れないからモデル兼任でやっているとしか思えない。そんなヤツから演技で示せと語られて腹が立った。
(今は平然と・・・板書中か。字も奇麗と)
昨日の体育には驚いた。
英語もペラペラで何処で覚えたと聞きたくなったほどだ。地味な割にスペックが高い女子。
それはまるで、
(詩織みたいだよな。あの子もやり手だから)
俺が憧れる女神様に等しかった。
だが、隣は地味を素でいく地味子である。
彼女とは雲泥の差がありすぎだよな。
(あの言葉も、詩織の言葉なら響くが・・・)
どういう訳か響かない。
こいつの言葉だけはな。
§
そして翌日。
私が登校すると予想外の代物があった。
「ここで、そうくるか」
それは机に花瓶という、いじめである。
主に教室から死人が出た時に行うアレね。
これを行ったのはクラスメイトの誰かだ。
男子達も不気味な笑みを浮かべているし。
(主犯は誰かな・・・ああ、あの子達か)
クスクスと笑いを堪える、少々派手な女子達だと分かる。無名過ぎて名は覚えてないけど。
私は花瓶を片付ける事が面倒なので、
(花には罪はないし、何気に奇麗だし、目の保養にもなるから、選んだ子はセンスがあるね)
机の端に置いたまま準備を始めた。
ただね、これだけの美的センスがあるなら本業でも活かしてほしいと思う私であった。
すると
「おはよ・・・う?」
そして花瓶を見た瞬間にきょとんに変わる。
これにはケバ子さんも動揺していた。
「どうしたの? それ」
「登校したら飾ってあった」
「あ、悪趣味ね」
「でも花の趣味は良い方だと思う」
「そ、そうなのね」
「片付けるのも悪いし飾っておこうかなって」
「何気に根性があるのね」
根性? この手のいじめは既に通ったし。
幼馴染君との一件で起きた過去のいじめの方が酷かったし。
すると呆れ顔の耀子達がクスクスと笑みを浮かべる女子達を一瞥して大きな溜息を吐いた。
「命知らずも居るのね」
「は? い、命知らずって」
「喧嘩を売る相手を間違えてる」
「喧嘩? 誰に売ってるんだよ」
「ああ、こちらの話よ」
「どういう意味だ?」
「知らぬは無知なファンを持つ本人だけと」
「は?」
四人の言葉にきょとんとなるのは幼馴染君とケバ子さんだけね。耀子が発した命知らずとは私の母さんが知ったら干される事を意味する。
耀子達は私の母さんを知っているからね。
(私って、実力ではないと言われてしまうから、親の七光りが大嫌いなんだよね。だから素性も母さんと出くわして「娘と仲良くしてね」と言われた耀子達以外には明かしていないしね)
しかし、気に入らないからと弱い者いじめを行う女子達か。私からすれば名を売って仕事で見返してみろって言いたい輩だよね、ホント。
「「どういう意味?」」
「世の中には、知らなくてもいい真実があるんだよ」
「そ、それって台本の台詞じゃ?」
おっと、彼女の前で呟いた台詞が出てきたよ。暗殺者のドラマだから仕方ないけどさ。
一応、言い訳だけしておこうかな、これは。
「実写化する小説の好きな言葉だよ」
「そ、そうなのね」
今回のドラマには原作があるからね。
実写化の予告はされているから私が興味を持って読み込んでいても不思議ではないでしょ。
表では高飛車、裏では冷酷なキャラだし。
今のように表裏で動いている事と同じだね。
ともあれ、ホームルーム開始と同時に担任に気づかれてしまい、花瓶は取っ払われた。
そのまま連絡事項を終えると、
「最後に、山手さん、清水さん、小鳥遊さん。この三人は生徒指導室に来るように」
「「「え?」」」
誰もが驚く真実を担任が語った。
「我が校には至る所に防犯カメラがあります」
「え?」
「ですので、隠せると思ったら大間違いです」
なんですと? だとするなら私の素顔も?
「これらは主に貴方方の醜聞を回避するための措置と思って下さい。一つでも間違えて人生を台無しにするのは我が校としても避けたい事実ですからね。ですので洗い浚い吐いて下さい」
「「「はい」」」
避けたい事実というか、内々に処理したい事実だろうね。大っぴらになったら大事だから。
醜聞だと私が毛嫌いしている外道記者とか。
プライバシーは無いぞと言い放つ外道とか。
毎回思うけど外道記者のプライバシーだけが守られているのが不思議でならないよね。やられる側に立ってから言うなら別にいいけど。
立ってもいないのに野次馬根性で宣うから始末が悪い。だからマスゴミと呼ばれるんだよ。
§
本当に困ったわ。
私のクラスからいじめに繋がる行いが出るなんて。生徒指導室で洗い浚い吐かせてみると、
(
実に感情的で無知な動きだけど、これは発端となった彼女も呼ぶ必要があるようね。
そうしないと一方だけ叱った事になるしね。
あの子達は全員が全員、進学する訳ではないから内申書は気にしていないと思う。
でも、事が公になれば別の意味で叩かれるから校内に居る間だけでも正さないといけない。
後ろ暗い過去ほど雑誌記者の餌になるから。
私は報告書を書いたのち、お昼の休憩時間に白石さんを呼び出した。
「失礼します」
「どうぞ」
今は昼休憩だから、食事の時間くらいは取っておかないとね。私もお腹が空いているし。
「山手さん達から事情を聞いたけど、原因は貴女の暴言にあったそうね?」
「暴言ですか?」
「それが許せなかったって。家嶋君も子役以降は苦労していたのに知りもしないパッと出が好き放題言うなって、怒っていたわ」
だが、彼女の反応は淡々としたものだった。
「そうですか。それは悪い事をしましたね」
「本当に彼女達に悪いと思っているの?」
ファンである彼女達という意味を込めて。
私は怪訝になりながら白石さんを問うたが表情の変化は起きなかった。
「私が悪いと感じているのは家嶋君だけです」
「は?」
これはどういう意味だろうか?
彼女の表情からは汲み取れないから言葉から推察するしか出来ないけれど。
「家嶋君だけ?」
「発端は私と彼の言い合いです。私の仕事の仕方に彼が嘲笑ったので、喧嘩を買いました」
「あ、嘲笑った?」
これはどういうことだろうか?
「二足のわらじですよ。俳優業一本で仕事している彼には許せなかったのでしょう。モデルと女優を兼任する。演技を舐めているのかと言っていましたからね」
「そ、そんな事があったのね」
ということは、それで言い合いになったと。
「地味だから出来るのかとも言ってましたし」
「え?」
「ですので化粧で誤魔化せると返しました」
確かに特殊メイクなら誤魔化せるわね。
どんな地味な子でも派手になりそうで。
「演技は別と言い訳したので同じ苦労を私もしていると返しました。限られた時間での苦労ですから。暇そうという言葉で怒りましたけど」
「そ、それはまた」
それが怒りの原因かもしれないわね。
苦労している者に暇そうだと返すとね。
彼女は彼女なりに時間確保で苦労しているから、立場が違えば見方も変わるということか。
「最後は他人を貶す前に演技で示せと言い返しました。それが彼女達の耳に入って暴言となったのでしょう。お前が言うなってことですね」
「貴女も反省はしているのね」
「反省しないと成長しません。私としてはそういう人種が存在すると知って演技の糧にさせてもらいましたが。悪役はとても難しいですし」
「そ、そう」
タダでは転ばない子なのね、白石さんって。
結局、喧嘩の発端は家嶋君の思いやり無き言動が原因なのね。そこに第三者の女子達が絡んできて余計にややこしくなったと。
「もう帰ってもいいわ。ありがとう」
「いえ、私もスッキリしました。失礼します」
今回はいじめには・・・なってないよね?
行われた方はけろっとしているものね。
むしろ、彼女の胆力が半端ないわ。
「本当にパッと出、なのかしら? 風格が全然違うのだけど。地味の中に獣が隠れて居そう」
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