第6話 口は禍の元だったね。

 そうして翌日から本格的に授業を受けつつ仕事を熟す事になった私は、仲間達の助けもあって、平穏無事な私生活を送れる事となった。

 そして本日も、昼食時だけは昨日の空き教室に移動して、気楽なお昼ご飯と相成った。

 私の格好はいつも通りの地味子だけど。


「そうそう、これ試験範囲」

「そ、それなりに範囲が広いんだね?」

「授業内容は普通科と同じだからね」

「例外は単位取得に融通があるくらい?」

「空き時間に補習を受ける必要があるけどね」


 四人の弁当はそれこそ多彩であり、見ているだけで涎が出そうになるね。その中でもバランスの良い弁当は明るい茶髪かつ普段の私と似通った髪型のあきらだ。次点ではアッシュブロンドでボブヘアのてるとダークブラウンでハーフアップのひかりの弁当は肉か野菜に偏ってはいるが、それぞれの特色を出していた。


「仕事を終えて勉強して」

「試験に間に合わせるって大変だけどね」

「中学時代から続いている事だし」

「今更ではあるかな」


 それを体型で示すと細身なのに美乳の晃。

 お腹の周りがモチモチな割に筋肉質な輝。

 細身なのに均整の取れた巨乳の光だろうか。

 それと金髪にサイドテールの耀子ようこに至っては小柄で寸胴という少々お子様体型な訳だけど、これはこれで愛らしいので割とクラス内では好まれている、マスコットだ。

 それこそ多様性を示したような四人だよね。


「確かにそうだよね。私なんて通勤時間が減ったから」

「「「勉強に時間が取れると?」」」

「というより仕事を増やされてそうね?」

「耀子、正解。今まで出来なかったレッスンがあったから、そちらに費やす事になったかな」

「「「「レッスン?」」」」

「ボイストレーニングといえば、いいかな。歌唱力が必要なんだって。詳細は不明だけどね」

「それなんてアイドルデビュー?」

「そこまでは考えてないと思うよ。片手間で出来る仕事ではないと思うし」


 今の形でアイドルと言われたら冗談だろうってツッコミが入りそうだけどね。

 仕事時の私を知っているからこそ彼女達は割と本気に捉えてしまうのだ。


「でもそうかぁ、二足のわらじかと思ったら」

「三足、四足を履き替えていたりするもんね」

「そこはマネージャーの手腕に依るものがあるけどね。私も万能ではあるけど、体力は平均的な女子と大差ないから休む時は休みよ?」

「え? た、大差ないって?」

「私達なら三日で倒れるような仕事量で?」

「「化け物だわ」」

「ちょ! 化け物って酷くない?」

「そうでもない。ありのままだし」

「ぐぬぬ」


 そう言われると、そう思う事もあるかもね。

 最近はあちこちに引っ張りだこに成りすぎて少し疲れてきているし。それこそ学校での私生活が唯一の癒やしにもなってきている。

 一応、仕事の量は増えてきても、


(学生の時間だけは空けてくれているもんね)


 天音あまねさんの手腕によって上手く管理されているのが現状だ。私のマネージャーは専属という訳ではなく他のモデルさんのスケジュールも管理しているから、私より忙しい。

 高校に通っている間も一人奔走中だもんね。


「で、中間が終わったら期末までまっしぐら」

「大きなイベントは夏期休暇明けよね」

「その中で参加するのは一般科だけだけど」

「私達が文化祭に出たら大騒ぎだもの」

「それって仮に出たら、ギャラ発生するの?」

「「「「しないと思う」」」」

「ああ、撮られ放題でギャラ無しはきついね」


 少なくとも顔出ししている以上は貰いたいよね。無償のお仕事はイメージアップのように見えて大損しか招かないし。偽善やらなんやらでSNSで叩かれたりするし。無償でやりたがる者は普段から行っている者だけになると思う。

 そして昼食後、トイレに向かった晃達を待ちつつ耀子と語り合う。私達は先に出たけども。


「ウチの文化祭は学校主導だけど回せる費用は模擬店に回すらしいしね。主に体育館でのイベントは有志によるバンド演奏と演劇部だけね」

「それって生徒が参加する機会ってあるの?」

「各クラスの模擬店だけだと思う」

「時間が空いたらこの形で行ってみようかな? 食べ過ぎると怒られるから程々に楽しむけど」

「ああ、そうか。その擬態って結構有用だね」

「擬態言うな」

「擬態そのものでしょうに」

「あ、そういえばそうだね」


 そう、語り合っているとケバ子さんと遭遇した。ケバ子さんは三人と共にトイレから出て来て、早速嫌味を言ってきた。


「あらあら、荷物持ちですか?」

「ええ。トイレ待ちですが、何か?」

「否定なさらないのね?」

「否定するもなにも本当の事ですし」

「微妙に会話が嚙み合ってないよ?」


 晃からのツッコミにきょとんとなるケバ子さん。


「本当に待っていただけ?」

「ええ。彼女達を待っていただけですよ」

「いつの間に、そんな仲良く?」

「意気投合しただけですが、何か?」

「接点が無いのに?」


 ああ、それでか。

 ここで接点があると語ると仕事がバレるね。

 すると晃達が私の支援に回ってくれた。


「ん〜? 無いわけではないかな?」

「そうそう。昨日の現場で一緒になったし」

「一緒に? モデル業もしていると?」

「眼鏡外すとすっごい美人なんだよね〜」

「更衣室で見たけど、胸もおっきいし。羨ましいくらいにおっきいから、見惚れたよ」

「ああ、グラビア系でしたか」


 耀子は若干、私怨入ってるよね。

 支援と言いつつ私怨をぶつけているし。


「そうとも言い難い?」

「でも昨日の現場がグラビアだったから」

「当たらずといえども遠からず、かな?」

「一応、体型だけは維持しているけど」

「羨ましいよね。このお肉は」

「ちょ、揉まないでよ!」


 もう! 耀子が背後からガッシリ掴んできたし。ブラがズレてしまったじゃないの。

 私は大慌てでブラの位置を戻す。


「両手に重量を感じた」

「バカ!」

「光と同じくらいあった」

「そういう事を言わないでよ。男子に聞かれたらネタにされるんだからね?」


 そんなやりとりを見ていたケバ子さん、


「貴女達が出ている雑誌を買ってみましょうか。どのように化けているか気になりますし」


 意味深な呟きを残して颯爽と歩きだした。

 それを聞いた四人は集まって呟きだした。


「これって現場に詩織が居たってバレない?」

「それよりもハブられましたねって言われると思うけど。地味だから掲載されていないって」

「ああ、その線もあるかぁ」

「詩織様に失礼な事はしていませんよねって言いそうではある。御本人相手にずけずけと」

「言う言う。美樹みきなら絶対に言う」


 一方の私は後ろ姿を眺めながら四人とは別の違いに気づいていた。


(昨日の今日だけど・・・薄化粧になった?)


 やはりメイクさんの言葉に心が動いたのかもしれないね。教室では物理的に距離があるから気づけなかったけども。

 そうして四人と教室に戻ると、


「じゃあ、あとでね?」

「「「「ほーい」」」」


 隣席の幼馴染君が何故かぶーたれていた。


「・・・」


 私は席に座りつつ授業の準備を始める。

 その際に軽くだが彼に問いかけた。


「機嫌が悪そうね」

「案内役なのに案内が出来ていないから」

「ああ、自分の役を果たそうとしたと」

「悪いか」

「全然」


 何気に生真面目なのね。

 与えられた役職・役柄を演じられない苦痛とでもいうのかな? それなら少し可哀想かも。

 とはいえ既に案内されたも同然なので申し訳ないが解放してあげる事にした。


「それなら気にする必要はないですよ」

「どういう事だよ」

「彼女達に案内してもらいましたから」


 私がそう、視線だけで示すと、


「・・・」


 きょとんとなりつつ私に視線を戻す。


「いつの間に、仲良くなったんだ?」

「仕事場で仲良くなりましたよ。昨日、同じ現場でしたから」

「ああ、そういう? お前、モデルなのか?」

「それが何か?」


 不躾過ぎる問いかけだけど、仕方ないかな。

 隠しているのは私の正体だけだから。


「いや、主演とか言っていたから」

「ああ、それもありますが」


 すると彼は嘲笑しつつ私を貶す。


「ふん。そんな二足のわらじなんて、お前みたいな地味子に出来るのかよ? 演技舐めんな」


 それは俳優としてのプライドなのだろう。

 いつの間にか刺激してしまったらしい。

 私は小さく溜息を吐き、喧嘩を買った。


「確かに容姿も大事でしょうけど、そんなの化粧でどうとでもなります。不細工な男性が化粧だけで奇麗な女性になる事だって出来ますし」

「そ、それは、そうだが、演技は別だろ?」

「台詞を覚えるだけなら待ち時間でも出来ますよ。演技の練習も帰宅して行えますし。私の行う事は暇そうな貴方と大差ないと思いますよ」

「暇そうって言うな。俺だってレッスンくらいは受けている!」

「レッスンを受けているなら、そんな言葉遊びで他人を貶すよりも演技で示して下さい。名が売れている方の言葉なら私も響きますが、貴方は聞かない名ですから、全然、響きませんね」

「ぐっ」


 あ、これは少々、言い過ぎたかな?

 周囲で聞いていた女子達が睨んできたし。

 何気に教室内では人気があるのね。

 あとで困惑顔の四人に聞いてみよう。


「お、俺だって、やってやらぁ!」

「そうですか。楽しみにしておきます」




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