第4話 校長先生からの呼び出し

 香澄ちゃんと出会ってこれからここで頑張っていこうと決意した矢先の事だった。

 先生の来る前のまだ生徒たちの喧騒で賑わう教室の中、本当に入学式が終わったばかりで何でみんなそんなに十年来の友達の様に雑談しあえるのか謎だが、いきなり放送で呼び出されて私はびっくりしてしまった。


『一年生の桜坂園音さん。至急校長室までお越しください』

「ええっ! 何で私が? 入学の初日に!?」

「桜坂さん、あなた何かやったの?」

「いや、何もしてないよ」


 こんな事で悪目立ちして一言も口を利いていない人達から悪印象を持たれたくない。

 私が戸惑っていると香澄ちゃんが不思議そうに言ってきた。


「いったい何だろうね?」

「それは私にも分からないけど……うーん、とりあえず行ってくるよ」

「頑張ってね。あたし応援するから!」

「ありがとう、行ってきます」


 香澄ちゃんが応援してくれるなら頑張れる気がする。

 こうして私は人生で初めての呼び出しを食らう事になったのであった。




「前の学校では平穏に暮らしていた私、この学校に入学してからいきなり先生に呼び出しを食らう」


 退屈な日常に飽きて魔法学校を志望した私だったが、こんな日常を望んでいたのだろうか。

 今となっては分からないが応援してくれる人がいるんだもの、頑張れるよね。

 私は緊張しながら廊下を歩いて校長室の前までやって来た。

 場所は香澄ちゃんが教えてくれたのですぐに分かった。

 立派な扉がここはお前なんかが来るところじゃないと威圧しているように感じる。


「前の学校では何事もなく平穏に暮らしてきたというのに何で初日からこんな事を」


 平穏だった頃を懐かしんでももう遅い。刺激を求めて魔法と言う物を学べるというこの学校に来ることを選んだのは自分なのだ。

 香澄ちゃんのいるところに負けて逃げかえるわけにはいかない。呼ばれたのだから行くしかないのだ。


「よーし、行くぞ」


 私は覚悟を決めてノックをしようとすると、扉の向こうから先に声を掛けられてしまった。


「桜坂園音さんだね、入り給え」

「は、はい。失礼します」


 覚悟に時間を掛けすぎたようだ。バレているのなら仕方がない。私はせいぜい堂々としている風を装って中へと入る。

 そこは校長室らしい立派な風格の漂う部屋だった。魔法らしいアンティークな雰囲気も感じられる。そこでは入学式でも見た校長先生が執務机に座って作業していた。


「掛けなさい」

「はい」


 私は勧めに従って対面にあるソファーに座った。校長先生は作業の手を止めると視線を上げた。

 私は何を言われるのかと緊張しながら身構える。


「そう身構えずともよい。君はどうして呼ばれたのか分かるかね?」

「いえ、分かりません」


 正直に答えるしかないよね。校長先生の目はただ優し気で怒られる為に呼ばれたわけではないようだった。と言うかそう望みたい。

 私がそわっとするとじっと見つめていた校長先生は話を続けた。


「君は一つここに来て不服に思っていることがあるじゃろう?」

「風巻翼が私をCランクに決めた事でしょうか?」

「その通り、あれはわしにとっても予想外じゃった」

「と言いますとやはり私はSランクだったとか」

「ほう、君は自分がそんなに下だと思っておるのか」

「いやいや、そんな事はありませんよ」


 うっかり漫画の知識でいらない事を口走ってしまったようだ。校長先生は面白そうに笑った。


「わしが言いたいのは君には魔法の才能があるということじゃ。気落ちせずに学んでもらいたいと言いたくて呼んだのじゃが、いらぬ世話だったようじゃな」

「いえいえ、そんなことはありません。ありがとうございます」

「君が望むならわしの権限でAランクにしてやってもよいが」

「いえ、それはそれで風巻翼に馬鹿にされそうで。今のランクで頑張らせてもらいます」

「ほう、Aランクになれば昼食や寮も豪華になるというのに殊勝な心意気じゃな」

「ぐっ……」


 言うのが遅いよ。でも、もう答えてしまったので今更取り消しますとは言えない見栄っ張りな私だった。

 教室で待っているだろう香澄ちゃんの応援を思い出して頑張ろう。


「でも、私、魔法は全然知らなくて。どうすれば魔法を使えるようになるんでしょうか?」

「うむ、それはこれからこの学校で学んでいけばよい事じゃが少し試してみようかの。まずはこの水晶に手を当ててみてくれ」

「こうですか?」


 私が机に置かれたその水晶に手を当てるとそれは光を放ちながら透けていって向こう側の景色が見えた。

 それは心地よさそうな春の桜並木の様に見えた。


「おお、これは素晴らしい」

「この場所はどこなんでしょうか? とても綺麗ですね」

「ここは場所ではない。これは君の魔法のありようを示しているのじゃ。これは春じゃな」

「春? と言いますと春の魔法使い?」

「ほう、君は自分が言うほど何も知っていないというわけではないようじゃな」

「ええ。まあ、あはは……」


 もううっかりうかつな事は口走らないようにしよう。校長先生の視線が鋭くなった気がする。

 私が無を心掛けていると校長先生もそれ以上は追求せず、視線を緩めてくれた。


「春には様々な色があり、多くの生き物が目覚める。そして春は出会いの季節でもある。君の魔法はそうした性質を持っておるようじゃ」

「へえ、何だか凄そうですね」

「これが開花するかはこれからの君の頑張りしだいじゃがな。精進するように」

「はい、頑張ります」


 これで話は終わったようだ。私は一礼して部屋を後にする。

 春の魔法か。それがどんな物なのかいまいちピンと来ていないけど、私は自分の中に眠る才能を見つけられて嬉しかった。

 どうなる事かと思ったが、この学校で上手くやっていけそうだと思えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る