第2話 まさかのランク付け

「私は壁、囲い、バリア……」


 椅子の上で膝を抱え、そうこう呟いている間に入学式が始まったようだ。


「静粛に。まずは校長先生からの挨拶です」


 私は壇上に現れた人物を見て目を丸くした。だって、そこにいたのはまるでファンタジー映画に出てくるような思慮深い目をした髭もじゃの老人だったのだから。

 手には大きな杖を持っている。まさしく魔法使いと言った風貌だった。


「あれがこの魔法学校の校長先生か。気持ちよさそうなお髭ー」


 私は疲れていたのかもしれない。あるいは少しひんやりしながらも暖かい春の空気がそう思わせたのかもね。

 両隣の二人が聞いてもいないのに解説してくれるよ。


「彼がダンジョンからこの国に魔法を持ち帰ったんだってよ」

「まじかよ、魔法の始祖じゃん、まじやべー」


 ふーん、彼がそうなのか。私はたいして興味無く聞く。私は何か変わった新しい事が学びたくてここに来ただけで、魔法その物が好きってわけではなかった。


「ふわーぁ」


 私は欠伸をする。


「ねむ……」


 そうして目を擦っていると不意に声を掛けられたものだから私はびっくりしてしまった。


「儂の話は退屈かね。桜坂園音君」

「ふえ!? えええ……」


 見上げると壇上にいた校長先生と目が合ってしまった。彼は深い皺をよせながら私を睨むように見つめていた。もしかして私は怒られているのだろうか。

 ちくしょう、油断した。両隣の奴らのせいだ。チラッと見るとそいつらも見つめてきていて、私は目を伏せて縮こまってしまう。

 よせ、そんな目で私を見るんじゃない。同情や哀れみなんていらないんだ。

 ここで興味が無くて退屈だ早く済ませて教室に行きたいと言えるほど私は肝が据わった冗談を言えるたちではなかったので。


「いえ、とっても面白いです。もっと校長先生の話が聞きたいなあ……」

「そうか、桜坂園音君は魔法にとても興味があるのだな」

「ふぇっ!? 何でフルネーム知られてるううう……」


 私は頭から湯気が出そうになって混乱するばかりでそれからの話はあまり聞いてはいなかった。両隣にいた奴らの話も。


「なあ、もしかしてこの少女が……」

「ああ、噂に聞く春の魔法使いかもしれないな……」


 春の魔法使いって何だ? 私はもう聞き返す元気もなく、ただ入学式が終わるのを祈るのだった。




「長いな、入学式……」


 式が退屈で長く感じるのはどこも同じようだった。私はもうあくびはしないように注意して過ごす。時計を見るとたいした時間は経っていなかった。

 司会進行の生徒が次のメニューを読み上げる。


「では次は新入生代表の挨拶です。新入生代表風巻翼さんお願いします」

「はい」

「うおっ!」


 いきなり隣にいた男子生徒の片割れが立ち上がったものだから私は驚いてしまった。


「ごめんね、桜坂さん」

「いえ、お気になさらず……」


 よせ、これ以上私に注目を集めるんじゃない。そっとしておいてくれ。

 その願いが通じたのか彼はそれ以上、私に構う事はせず、マイクの前まで歩いていってそっとペーパーを開いた。

 隣にいたもう片方の男が聞いてもいないのに話しかけてくる。


「春の魔法使いでもあいつが気になるのか?」

「そりゃ気になるけど……って、話しかけないでよ!」


 もうふざけあっている時間はない。みんなが彼に注目している。何だ? あの風巻翼って人はそんなに有名人なのだろうか? 他校の事は知らない私にはちんぷんかんぷんだ。とにかく話を聞いてみよう。

 彼は落ち着いた声で新入生代表の挨拶を始めた。


「本日は私達のためにこのような式を催していただきありがとうございます。私達は今日、新たな一歩を踏み出すことになりました」


 スピーチは無難な感じで私は拍子抜けした。まあ、魔法学校と言っても日本にある普通の学校には違いないのだからこういうのは普通なのかしら?

 私がそう落ち着きを取り戻しながら思っていると彼は突然宣言した。


「そこで我が校の伝統である新入生の魔法使いのランク選定ですが私が務めさせていただきます」


 彼は壇上から私を見据えて不敵に微笑んだのだった。


「ん? 何? どういう事? なんで新入生の代表である彼が選定をするの?」


 私は混乱して隣の男に聞く。彼は全く驚いていない様子で爽やかに答えた。


「この学校の事は知らないのか? ここではその学年で一番偉い奴にランク分けの権利が与えられているのさ。この段階からすでにエリートの資格が与えられているってわけだな」

「ええーーー! それって意味があるの?」

「意味ならあるさ。自分の選んだ者たちが最強になれば自分の素質も証明できるってものだからな。目に見えないまだ新しい分野の魔法にとっては有用だと校長先生が始めた事なんだ」

「ふーん、そっかあ……」

「最初は魔力を測定できる特別なクリスタルを使ってた時代もあったそうなんだが、どこかの馬鹿がそれを壊すもんだから今の方法になったって話もあるんだ」

「なるほどね」


 まあ、魔法をこの国に広めた校長先生の決められた事なら間違いはないのかもしれない。だとしたらこれから気になるのは自分のランクよね。

 SやAは高望みだろうか。前の学校では中の上だった私にはB辺りが妥当かもしれない。

 新入生は大勢いるので私は物思いに耽りながら自分の順番を待つつもりだったのだが、風巻翼はいきなり私の目を見たまま微笑んで言ってきたのだ。


「まずは桜坂園音さんのランクですが……」

「ほえ、いきなり私?」


 SSSかSSか、あるいはあなたはSランクですと言われたらどうしましょ。周りがざわざわとしている中、私はつい期待して耳をそばだててしまうのだが、彼は少しも考える素振りを見せる事なく後、爽やかに言い切った。


「彼女はCランクと認定いたします」

「Cランクかあ……」


 まあ、分かってはいたよ。私の成績なんて中の上だってことはさ。それでも少しぐらいは夢を見たっていいじゃない。

 ガックリと肩を落としながら席でうつむく私に彼はさらに信じられない事を言ってきた。


「ちなみにCが一番下だから」

「ええ!? Fぐらい無いの!?」

「無いね。Cは君だけだから最下層から頑張ってね」

「ふえええ、嘘でしょーーーーーー!?」


 私は絶叫するしかなかった。彼は涼しい顔をして私を放置したまま続ける。


「では続いてBランクの発表ですが……」

「嘘でしょ……」


 それからも話は続いていったが私はもう自分の事で頭がいっぱいでみんなが何を話しているのか全く聞いていなかった。

 こうして私の波乱万丈の魔法学校の生活が始まったのであった。

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