四季おりおり 春風の魔法学校

けろよん

第1話 波乱の入学式

 魔法がこの国で認知されるようになったのはいつからか。

 詳しくはあまり興味がなかった私は調べてはいないが、まだ幼かった子供の頃だったと思う。

 その時の私には魔法が何か特別な素晴らしい物のように思えたのだ。かといってそれを職業にしようとまでは思っていなかったが。

 およそファンタジーとは縁のない退屈な生活。私の家はお金持ちで裕福でこそあったが私自身はそうした平凡な生活には飽き飽きしていたので。


「中学を卒業したら魔法を教えてくれる学校に行こうと思うの」


 つい魔法をろくに知りもしないのにそんなことを言ってしまったのだった。

 こんな私を誰も止めたりはしなかった。

 さて、これからどんな日々が待っているんだろうね。私はわくわくしながらその日は眠りにつくのだった。




 春の陽光が照らす学校に私は道を歩いて辿り着いた。


「ここが今日から私が通う事になる魔法学校ね」


 校門の前に立ち止まり独り言を呟く。校舎はまだ新しいらしく立派で綺麗だ。それが魔法というものの新しさを感じさせる。

 名門でお金持ちの私にはただの勉強なんて退屈で耐えられない。そんなありふれた物は凡人に任せておけばいいのだ。

 そこで時代の最先端である魔法を学ぶことにした。この科学の時代に魔法が生み出されたのはこの国にダンジョンが現れるようになってから数年後……


「っと、そんな事はどうでもいいわね。魔法なんて素敵な言葉。せいぜい私を楽しませてよね」


 そして、私は満面の笑顔で門を潜る。

 今日から私が通うことになったこの学校は日本で一番魔法の進んだ凄い学校と聞いている。学校の設備も充実しているようで私にふさわしい気品と美しさと広大さが門を潜ったばかりのこの場所からも伺えた。


「迷わないわよ。道があるんだから。順路はあっちっと」


 今日は入学式の日なので、門から校舎に続く道には新入生とおぼしき生徒達が歩いていた。みんな友達がいるようで明るく楽しそうにこれからの生活について話し合っていた。私は信じられない思いだった。


「信じられないわ。なんでみんな入学式の初日から一緒に話をするお友達がいるのかしら……」


 ここで動揺しても始まらない。落ち着け自分。入学式の初日から気おくれしてどうするの。私に必要なのは栄光だけ。同情や哀れみが欲しいわけではないわ。


「よーし、落ち着いた。不要な物は全て置いてきた。これから始まるのは輝かしい新生活よ。入学式が行われるのはあそこね」


 そこには立派な講堂があって入り口には受付があった。みんなそこに入っていくのだから間違いはないだろう。私も列に並んで受付の順番を待った。


「……」


 長いわね。お金を渡して順番を譲ってもらおうかしら。前の奴らと後ろの奴らが喋っていて肩身が狭い。

 待て待て、意外と早く列が進んでいく。係員の手際がよく思ったより早く私の順番が回ってきた。

 

「新入生の方はこちらで受付をお願いします。それでは学生証を提示してください」

「はい」


 私は学生証を取り出して、それを渡した。


「桜坂園音さんですね。確認しました。会場はあちらになります」

「ありがとう」


 私はスムーズに受付を済ませて講堂に入っていく。前の人がやっていたのを注意深く見ていたので簡単な物だった。

 それにしても桜坂と聞けば地元の人はだいたい驚くのにここでは静かな物だ。地元ではわりと有名な企業だというのに知られていないのかしら。

 それも何だか違う場所に来たと実感できて面白い。

 立派な調度品の置かれたエントランスを横切り私は会場のドアを入る。


「ここが魔法学校の入学式が行われる会場ね。私の席はどこかしら」


 前もって受け取っていたクラスと番号から探す。私の席は一番前のど真ん中の席だった。私は思わず息を呑みこんで冷や汗を垂らす。


「なんであそこなのよ。私出席番号一番じゃないんだけど。主席ってことなのかしら……」


 私、桜坂園音は前の学校までは出席番号順でも背の順でも成績でも上よりは下の中よりは上あたりでそれほど目立つポジションではなかったんだけど……


「まあ、問題はないわ。きっと私の成績が良すぎたのか、サ行より前の生徒が少なかったんでしょ」


 私は落ち着いて自分の決められた席に座る。緊張するけど入学式なんて頭の中で音楽を鳴らしてたら終わるでしょ。

 そう思いながら深呼吸してたら横から騒がしい声が聞こえてきた。


「おい! 俺達の席あそこだぜ!」

「まじかよ! 一番前なんてラッキーじゃん。座ろうぜ」

(え……なんですってええーーーー!?)


 その騒がしい奴らはあろう事か私の両隣に座ってきた。そして、私を挟んで楽しそうな会話のキャッチボールを始めやがった。


「でよー、隣の家に囲いができてよー」

「まじかよ、それ。壁じゃねーか」

「バリアだよ。あれバリア」

「魔法かよ。うわははは」


 何なんだこいつら、うぜええええーーーー。まさかの事態に私の頭脳はショートして真っ白になった。

 委員長がいればこんな奴らすぐに黙らせてくれるのにここにはいないようだ。前の学校を恋しがるのは早すぎる。

 とにかく、入学式が始まれば落ち着くでしょ。私は密かに気配を消して席の上で丸くなるのだった。

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