第14話 岐路
──連続強盗殺人事件の犯人逮捕。
翌日の朝、僕はテレビでそのニュースを見た。小さな町のニュースとはいえ、やはり大きな犯罪故にテレビで取り上げられていた。共に朝食をとっていた家族が安堵の声を上げる。僕もまた、安堵の息を吐いた。両親とは、やや質の違うものではあるが。
しかし、遠くの県で発生した鑑別所の火災のニュースがより大きく取り上げられていた。職員を含めた死者数十名。事件性のあるものかどうかは、現在調査中とのことだった。
解決した事件は、直に風化して忘れられていくのだろう。
ともあれ藤堂さんは、昨日の言葉の通りに犯人を引き渡した。僕の言葉は、しっかりと届いていた。だからなんだという話ではあるけれど、きっと今回のことで彼女に失望されたに違いない。それでいい。もう巻き込まれるのは御免だ。
▼
それから、一週間が経った。
藤堂さんは、再び、深窓の令嬢の立ち位置へと戻った。彼女は彼女をテリトリーを展開し、休み時間も誰とも交流することなく、ひたすら読書に勤しんでいた。
この一週間は生きた心地がしなかった。
いつ、また藤堂さんに声を掛けられるか分からなかったからだ。
しかし、以前の時のように視線を感じることもない。僕からは一切の興味を失ったかのように見える。
あの地獄のような瞬間を、感覚を、暫くは忘れることができないだろうが、それも平穏の中で風化していくはずだ。そして、僕の人生は徐々に平穏を取り戻していく。
「なぁなぁ、護。またゲーセン行こうぜ。それかカラオケとかどうだ?」
自分の席に座っていると、背後から肩を軽く叩かれた。大介だ。振り向けばそこには爽やかな笑顔がある。
きっとまた、僕のことを気遣ってくれてのことなのだろう。親友と呼べるたった一人の存在。それもまた、僕が日常に戻るための一助になっている。例え進む道が違ったとしても、大介と僕の繋がりはずっと続いていく。そんな、確信めいた思いがあった。だから、僕は大介の言葉に笑顔で頷きを返す。
▼
その日の放課後、僕たちはカラオケに行った。正直に言って大介も僕も歌が上手い訳では無い。けれど、細かい事は気にせずにお互いに笑い合いながら熱唱した。親友だからこそ、気兼ねなく遊ぶことが出来るのだ。
「楽しかったな、護」
「そうだな、良いストレス解消になったよ」
「やっぱり、なんかストレス溜まってたのか?」
「まぁ……少し、な」
「そっか」
少しどころの話ではないが、それは大介には関係の無いことだ。それに僕にとっても忘れたいこと。言葉にもせず、心の中からも追い出してしまおうと試みる。
その後はあまり言葉が進まず、やがていつものT字路に差し掛かった。
「じゃ、また明日な。護」
「うん、また明日。気をつけて帰れよ」
手を振り合って、互いの帰路へと着く。いつも通りの閑静な住宅街へとゆっくりと歩みを進めようとして、ふと、背後を振り返る。
大介の背中が見えた。まだ交換がされていないようで、切れかけて点滅を繰り返す電灯はそのままだ。大介がその下を通り過ぎた瞬間に、遂に電灯が切れた。暗闇に包まれ、その背中が見えなくなる。
何やら言いようのない不安に襲われて、その背中を追いかけたくなったが、ただの杞憂だろうと首を振る。電灯が切れたなら、交換が入るだろう。それこそ僕が市役所かどこか、担当している所に連絡を入れれば良い。それできっと、この不安も解消されるだろう。そんな風に、僕は考えていた。
この日が、大介と過ごす最後の日になるとは知らずに。
__________________________
更新が大変遅れました。早めに〆ていこうと思います。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます