とんこつ鍋

久石あまね

悪いことするとバチがあたるよ

 オレとヒガシとけんちゃんは地元のスーパーマーケットで夜鍋をするために買い物に着ていた。

 ことの発端はヒガシの「鍋しよ」という端的なラインがオレに送られてきたことだ。そしてオレがけんちゃんを誘ったのだ。


 季節は秋。夏の暑さはどこへやら、少し肌寒い夜だった。


 スーパーマーケットにはもう惣菜は売り切れていた。大阪の田舎の方のスーパーなので、遅い時間には客は来ないのだ。


 オレたちは明らかに食べきれないほどの大量の鍋の具、とんこつスープの素、誰が飲むんだというほどのあり得ない量の酒を三つのカゴに入れ、レジへ向かった。


 するとレジには見慣れた男がいた。


 ムラがいた。ムラは元ヤンキーで中学のときはオレと三年間一緒に登校していた。朝、ムラの家に行くとムラのお母さんがアイスをくれたりした。そんなムラは成人式の日に改造自動車に11人乗りをして、新聞に載ったりもしていたが今はレジのバイトをしているようだ。


 レジにいたムラは妖しげに口端をもちあげた。するとムラは缶ビールだけピッとスキャンした。続けて商品をスキャンすると思ったがムラはレジ袋を六枚ほど出して、ニヤニヤしだした。


 いわゆるからレジというものだ。空レジとはレジを通さずに販売するということだ。

 ヒガシは「さすがムラ」といって眼鏡の奥の目を細めた。

 けんちゃんは「ホンマにええんか?」などちょっと同様していた。

 オレはヘラヘラ女のことを考えていた。


 オレたちは罪をしたことに無自覚で、このあと、とんでもないことが起こることになる。


 オレたちは素速い動きで連携しながら食材を袋に詰めた。


 そして駐車場を泥棒のように走り、ヒガシの白い軽自動車に乗った。満月に照らされたヒガシの軽自動車は妖しくきらめいた。

 ヒガシエンジンをいれるとまだ駐車場だというのに、急激に速度を上昇させた。


 「危ないて、ヒガシ」


 オレは助手席で叫んだ。


 ヒガシは空レジをしたことを焦っているのか、アクセルを更に踏み込み、ジグザグに停まっている車の間をすり抜け、車道に出た。ヒガシはそのままスピードを緩めずに、「カーレースや」といい、されにアクセルを踏み込んだ。 


 オレは、ヒガシは若さゆえの粋がった虚栄心が芽生えたのと、悪さをしたことに罪悪感を感じているのが原因でこんなに焦ってスピードを出しているのかなと思った。 


 誰も通らない暗い夜の車道で、爆走する白い軽自動車。


 危ないな。


 オレはそう思った。おそらくけんちゃんもそう思っていただろう。


 そしてついに事故は起きた。


 幼稚園の前の道路を左折しようとしたときだった。 


 ヒガシがハンドルを左に切ろうとして、声をあげた。   


 「あっやばっ」


 「やばいってホンマにっ」


 オレはいった。


 「うわーっ」

  

 けんちゃんが叫んだ。

  

 白い軽自動車は左折しきれずに、外灯に激突した。

 

 悪いことをしたら、バチがあたるのだ。


 泥棒にはバツを神様が与えたのだ。


 神様は誰に対しても公平だ。


 きっと良いことをすると神様は良いことを与えて下さるだろう。


 お天道さまは絶対にみている。

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とんこつ鍋 久石あまね @amane11

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