第11話 条件
昼食をとった後、片付けをして次の講義に行く。講義の内容は、主に社会に出てやること。発信力や傾聴力、人間関係を良好にすること、遅刻しないなど一年に聞かせてどうするって内容をなぜか聞かされていた。俺は、バイトと言えど割と必要なスキルばっかりだったため割と頭にするすると入っていった。ちなみにBはげんなりしてた。あと何年後の話をしないでほしいと。
その後は、自由時間でみんな晩ご飯までは好きにしていた。ただ、森の中ということもあり、やることがないため、散歩だったり部屋で携帯いじったり、ゲーム持参してる人はみんなでゲームしてる奴もいた。そんな中は俺は1人で森を歩いていた。
Bたちと遊んでも良かったが、せっかくの田舎だ。こういうのを体験しといてもいいだろうと。
基本、迷子にならないように道があるため、その道に沿って歩いていく。
「ふぅー」
自然はいいな、いつもは色々バタバタした生活の中だったため、今の音があまりなく、木の揺れる音や虫の声だけののんびりとしたこの雰囲気を味わうのはいいものだ。
「おっ」
道に少し外れたところに川があった。近づいて手を川につけると冷たい。もう夏の気温になっているため、余計に冷たく感じた。ここで座りながらボーとするか。
川の音を聞きながら、景色を眺める。いいなぁ〜
あのような分からん講義以外は、カレーも美味かったしこういった景色も見れた。課外授業行ってもしょうがないと思ってたが楽しめるもんだ。
「いいね、この景色」
「‥!」
いつのまにか後ろに女子生徒がいた。
「えっと‥Dさん?」
「うん、そだよー。話すのははじめてだよね、A君。」
D、Bの話から話を聞いた内容だと、Cさんの次に可愛いらしい。その他はあんまり聞いたことがない。それぐらい全くというほど関わりがないため声かけられて普通にびっくりする。
「どうしたの?こんな所で。」
「A君こそ、ここで何してるの?」
「黄昏てるんだよ‥」
「何それw」
適当な冗談で笑ってくれた。チラッと表情見ると、確かに可愛い。アイドルにいてもおかしくないぐらい顔立ちがいい。
「まぁ冗談としてあんまりこういう場所来ないから暑いけど外で景色眺める方がいいなってなったわけ。」
「なるほどねー、確かに私もこの景色好き」
「分かってくれるかー」
うんうんと頷いているとDさんは、俺の隣の石の所に座る。
「一緒に見てていい?」
「いいよ、こんなのが隣でもいいなら」
「A君のことは嫌いじゃないから大丈夫だよー。」
「お、おう」
嫌いな人がいそうな言い方に少し闇を感じた‥怖
そこからは少しの間お互い喋らずただただ景色を眺める。普通はあまり関係が深くない人と一緒にいると気まずくなる。しかし、Dさんと無言が続いても気まずいどころか心地がいい。こんな感覚、はじめてかもしれない。
「ねえねえA君。」
「ん?」
唐突に声をかけられる。体を向けるとDさんは覗き込むように見ていた。
「寝なくて大丈夫なの?」
「え?」
今は、まだ夕方ぐらいの時間だ。寝る時間には、まだ早い。
「今の時間とかだといつも寝てるから寝なくて体もたないのかなって思って」
「あー、今回は課外授業のためにしっかり寝てきたから今は眠たいけど、寝ないとやってられんってことにはならんかな。」
「そうなんだー。」
まぁ確かにこの時間はいつも寝てる。じゃないと夜勤ができない。
「そう言えば、課外授業来たんだねー。仕事を優先するかと思った。」
「あー、俺もそうしようと思ったけど店長が行けって言われて仕方なく来たんだよ。」
ん?
「そうなんだー、じゃあ来れて良かったね。店長さん、いい人だね。」
「ちょっと待って」
「ん?どうしたの?」
おかしい‥
「俺、Dさんにバイトしてるって言ったっけ?」
「あー、B君から聞いたんだよ、いつもなんで寝てるの?って聞いたらバイトしたり、夜更かししたりで寝るの遅いからって。」
「そうなんだ‥」
いや、ならなんで
「なら、バイトじゃなくて〈仕事〉って言ったの?」
普通は仕事と言わない。高校がするの最低バイト。なのに彼女は仕事と言った、まるで俺のやっていることは社会人と一緒とでも言いたいように。
「語弊だよ、語弊。なんとなくだよー。」
「そうか‥?」
そんな間違いするだろうか、ますます疑念が増していく。
「私も聞いていい?」
「な、何?」
「A君って同い年だよね?」
「え?それはそうだよ。」
年齢を誤魔化す必要もないのに、なぜこんなことを聞くのだろう‥嫌な予感がする。この話が始まってから、いや彼女が現れた時から違和感があった。なぜ女子生徒が1人でいるのか、なぜ俺を見つけられたのか。なぜなら川は道から外れている。その上俺は座っていた。道から見えたとは思えない。
「じゃあさ、」
まるで俺の後をつけていたかのように。
「高校生の君がなぜ夜に働いているの?」
体に電気が走った。なぜ、どうしてと頭が混乱する。だが、まだ確実にバレていない。そう思い冷静さを取り戻す。
「え?俺のバイト先、夜勤なんてないけど?」
動揺していないように真顔でDさんを見る。まずは、誤魔化される範囲で誤魔化す。
「へぇ〜結構確信ついたはずなんだけど、全然動揺しないね。隠し通すつもりなんだ。」
「いやいや、隠すも何も俺は夜勤なんてしてないし」
今のやりとりで分かった。彼女にはバレている。
「じゃあ、これの説明してくれる?」
そう言って、彼女は携帯画面を操作してこちらに見せてくる。
「!!!」
そこには、あいつらの会社から出てくる俺の姿だった。夜勤明けのクソ眠そうな顔で。
「あー、親に頼まれて朝早く弁当持っていったんだ。たまたまそこを見つけたのかも。」
それでも誤魔化す。バレれば俺の生活は終わる。
「そうなんだー」
「そうそう」
Dさんが少し考える素振りを見せる。もしかしたら、たまたま見かけて勘違いをしただけかもしれない。しかし‥
「A君が仕事が終わる5時半頃、私日課で犬の散歩してるんだー。」
「へぇ〜朝早くすごいね。」
終わった。
「だから、私もたまたまだと思ったよ?でも、ほぼ毎日あの時間にあそこ通ったら木金以外の朝出てくる君を見たんだよね。」
おれのシフトは土曜から水曜の週5で大体入っている。もちろんシフトが変わる時もあるが、ほぼ今言ったシフトだ。
「何してるんだろ?と思ってたけど、朝学校に来た時のA君の顔と学校でずっと寝ていることを考えると自ずと答えは出るよね?」
「‥‥」
バレた。どうする?Dさんが学校に言えば、停学最悪退学になりかねない。バイトならまだしも
夜働いていることがアウトだ。
‥‥ダメだ。どうしようもない。この写真が証拠にはならないが調べられたら終わりだ。俺はバイトが出来なくなるし一人暮らしも終わり‥またあの家に帰ることに‥
俺が絶望な顔をしているのを見て彼女は言う。
「別に学校に言うつもりはないよ?」
「え?」
「さっき聞いたでしょ?なんでしてるの?それが気になっているの。法を犯してまで金が欲しいの?学校生活見ててもとても大変なことが分かる。でも、そこまでしてする必要があるのかなって。」
「‥‥」
「黙っててあげるんだから、それぐらい答えてくれてもいいよね?」
「そうだな‥」
頭の整理が追いつかない。Dさんは言うつもりはないから事情を話せ。そう言ってるのだろう。そう言ってくれるのは助かるがだからって俺の家の事情を話すのも憚れる。なぜなら決して他人に話せる内容ではない。しかし、頭が混乱してる今適当な嘘をつける余裕がない。仕方ない‥
「少し、長くなるよ?」
「いいよ、まだまだ自由時間あるし集合時間までに帰れば問題ないしね。」
そこから俺は、経緯を話した。かいつまんでだが、家の事情、1人暮らししていること、そして
「1人暮らしのための条件があった。」
「条件?」
条件は2つ
高校卒業してからは一切の支援をしないこと
1人暮らしをする家の家具や家賃などの固定費は自分で稼いでやりくりすること
俺が1人暮らしをするための条件がこれだ。
「何それ‥」
Dさんの顔が歪む。こんな話聞かされていい気分はしないだろう。
「それで俺はバイトという形で仕事をしている。」
正直、仕事内容はバイトの域を超えていると思っている。それもあいつらの仕業だろう。
「でも、夜勤である必要はないんじゃない?」
そう、別に最低限生きていくためなら夜勤をわざわざする必要もない。生活はかつかつになるが生きていけないレベルじゃない。でも、
「ここからは、あくまで仮説だけど高校卒業したら本当に関わりたくないんだろう。」
「どういうこと?」
「夜勤って深夜手当出るでしょ?だから思っている以上に金はもらえる。だから高校の間に金はある程度くれてやるから卒業以降は金の支援はせず自分で勝手に生きろ。俺はそう思っている。」
「‥」
実際のところ30代のサラリーマンの月額の手取り並みにもらっている。あくまで法がバレないように仕送りで振り込まれる形だが
「そういう経緯で俺は夜勤をしている。」
「‥‥A君はそれでいいの?」
「何が?」
家庭の事情はとてもディープな話だ。下手に踏み込めば、その人を傷つける可能性もある。
「両親にそんな扱いを受けたままで。今の生活のままで。」
「別に?」
「え?」
あっさりとした態度にDさんは困惑する。
「もうあいつらのことはどうでもいいし、今の生活も慣れた。」
「そういうことじゃなくて‥」
「じゃあ、どういうこと?」
「その‥」
さっきも言った通りディープな内容だ、だから言いづらいのだろう、ならそのまま黙っていて欲しいと思う。しかし、人はどうしても聞いてしまう生き物なのかもしれない。
「あなたの気持ちはそれでいいの?」
ガチガチに蓋したはずのものをビリビリ破られる気分だ。
「両親にそんな扱いされて悲しくないの?辛くないの?今の生活キツくないの?慣れたとかどうでもいいとかそんな投げやりな感じじゃなくてあなたは今、どう思ってるの?」
不快だ、俺は同情されるためにこの話をしたんじゃない、今の生活を守るためだ。なぜ俺はこいつに心配されないといけないのだろうか。この苛立ちは俺の踏み込んでほしくないところに入ってこられたというのもあるのかもしれない。俺の感情などどうでもいい、俺が今この瞬間生きていくために不必要なものだからだ。それに足を引っ張られるのは中学で学んだ。感情は余計なものだと、邪魔になるものだと。
「それは、関係ない事だよね?」
「‥‥」
「夜勤をしている理由、それは話す。でも、俺の気持ちを話す必要はないと思う。」
イラつきながらも相手には、できるだけ優しく接する。ここで気が変わったとか言われると溜まったもんじゃない。しばらくDさんは黙る。頭の整理でもしているのだろうか。
「この事、Cさんは知っているの?」
「え?Cさん?知らないはずだよ。」
なぜ、ここで彼女の名前が出てくるのか、謎だ。
「そう‥」
「なんで、Cさん?」
「なんとなくよ」
「こっちも話したんだし、それぐらい話してくれてもいい気がするけど?」
「学校に言わないという条件で話してもらったのと無償で話すのとは訳が違うよー」
‥俺、こいつ嫌いかもしれない。
「まぁ、事情は分かったから。学校にも黙っとくし他の人にも言わないよ」
「本当か?」
こいつのことを信頼しろっていう方が無理がある。でもまぁこっちは信じるっていう選択肢しかないからな‥
「人が頑張ってるのを潰すほど私は性格悪くないよー」
そこでDさんの表情が変わる。そこには嘘は言ってないという真剣さがあった。
「分かった‥信じるよ。」
「ありがと」
「12%くらい信じるわ」
「それ、全然信じてないじゃん‥」
思わず、ふっと笑ってしまった。それに釣られてDさんも笑う。適当なやり取りだがとても心地よかった気がする。嫌いなのにたまにこういうのがある。
「そろそろ時間だし、戻ろうぜ。」
「それもそうだねー。」
川から離れ道に戻り歩き出す。
「負けられない」
「ん?なんか言った?」
「なんでもないよー」
「‥‥?」
その時のDさんは笑っていた。俺はこれからどうしようと頭を悩ましているのに‥やっぱり嫌いだ。
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