第8話 虚無
黙って自分の家の扉を開ける。
玄関を見るとまだ5時になる前のこともあり、薄暗い。
「‥‥」
リビングに入り、ソファに寝転がる。
金曜の夜勤明けのため、今日は学校がない。それに課外授業もあることから、バイトも明日から1週間ないため、約3ヶ月ぶりのちゃんとした休みだ。俺、休みの日何してたっけ?
周りを見回す。久しぶりに大掃除でもしようかと思ってもこまめに掃除していたため、そこまで汚くない。そして、家にいることが少ないためそもそも物が少ない。汚れる部分がないのだ。
「寝るか‥」
夜勤明けのため、そもそも眠い。ソファの上で目を瞑る。ベットに行くのも面倒で最近はずっとソファで寝ることの方が多い。
体の限界にきてすぐに夢の世界に入った。
(はぁ...)
(なぜ、お前はそこまで無能なんだ。)
(ふざけているのか?)
俺に向けられる視線、言葉、態度その全てが俺に対する批判。顔を合わせるたびに俺を罵倒する。最初の頃は、認めてもらうため、褒めてもらうため、俺はできると思いがむしゃらに努力した。勉強やスポーツ、専門的な実技など、あいつがやれと言ったことを全部食らいついてやった。しかし、
(流石、Xちゃん!素晴らしいわ〜!)
(おぉ!もうその分野をマスターしたのか!天才だな!Xは!)
この世に天才はいる。どんだけ努力して勝とうとしてもだ。中学生のレベルで考えたら俺は優秀な方だろう、だがそこまでだ。
追いつこう、追い抜こうと思って努力した結果突き放されていた。どこまで遠くなって行き、やがて見えなくなる。そして、残るのは嘲笑と軽蔑。それをいろんな分野をしては繰り返される。それが4年が続いた。そして、
(あぁ、そうか。)
努力の限界を感じた時、俺は諦めた。天才には勝てないのだと、認めてもらえないのだと、
ここに俺の居場所がないのだと。
その時が14歳になったばかりの頃だった。
その後の期間の事は覚えていない、ただひたすらにあいつらの言う通りに動いてただ時間を過ぎるのを待った。高校生になるまでの1年間で俺は1つの結論が出た。
受験結果を報告するとともに、決意に近い形で提案した。
(俺、この家を出ていくよ。)
「嫌なことを思い出した‥」
起きてすぐ、ボソリと呟く。久々にちゃんと寝たのに寝覚めがわるい。なぜこんなことを思い出すのか、寝てる時くらいまともな夢が見れないのか、と嫌気がさす。ソファから体を起こすと寝るときと同じで薄暗い。携帯で時間を確認すると18時半とほぼ12時間くらい寝てたらしい。
「どうするかな‥」
こんだけ寝たら、まぁ寝れないことは分かる。しかし、これから何をしようかと思っても何も思い浮かばない。
「俺ってバイトだけに生きてたんだな‥」
思わず笑ってしまった。いざ休みをもらってもその時間を有意義に使えない。社会人になった気分だ。
「とりあえず、なんか飯買いに行くか。」
腹が減っては何か活動することができないため、とりあえずスーパーにでも行って腹ごしらえをすることを決め家を出た。
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