第41話 魔帝の剣……抜刀
やっとまともな一撃を入れたと思えば、魔人の血が毒って予想外だ。
口元に垂れている血を手で拭い、リグを真っ直ぐ見る。
リグはニヤニヤと笑みを浮かべながら、こっちに歩み寄る。
「どうした無能? さっきまでの威勢がないなー」
リグはボクの髪を掴んでくる、馬鹿力のせいで体ごと持ち上がる。
痛てぇなぁ、体は動かず重いし、髪を引っ張られて微妙に痛い。
「ペッ、お似合いの顔になったな」
「フフフ、アハハハ、ふっ死ねクソ!」
リグの強烈な蹴りが腹に入る、くっ、再び吐血をする。
蹴りの衝撃で本来は吹き飛ぶ勢い、けれど運悪く、リグが髪を掴んでいる。
衝撃が逃げ切れずもろに喰らってしまい、口から血が流れる。
さっき拭いたばかりなのに、また吐血してしまった。
リグの顔には血が付いている、オレが吐き出した血。
「お前こそお似合いに血を吐いているな」
「そっちには負けるがな」
直後、再び強烈な蹴りがオレを襲う。
蹴りが当たる直前に、体を逸らした。
よくも悪くか、リグから抜け出せる事はできたが、後ろにある大きな扉に衝突する。
「クロ君! 大丈夫!? 今回復して上げる」
「に、逃げろ!」
オレの言葉にユウナさんは怯む、それと同時にリグがこっちに向かって来る。
くっそ! こういう時に体を張らなくてどうするんだよ! 肉と骨が軋む。
「うぉぉぉぉぉ!!」
気合いと根性で立ち上がり、迎撃の構えを取る。この時、右手が軽いのに気付いた。
恐る恐る右手を見ると、そこには刀身が割れたロングソード。
斬撃の時に折れた──リグの血が刀身を溶かした。
完全なる害悪の毒、ロングソード壊れるのはこれで二度目か。
どっちも魔人戦の時に壊れる。
「この剣は魔人にでも呪われているのか?」
そう思えるくらいに壊れた。
ははっ、あぁもうやってやるよ! ロングソードを床に突き刺し、右手に装着しているソニアの手袋を外す。
次にロングソードを抜き、イメージをする。
もう剣としての役目は終了している、それなば魔法として使う。
「
破損しているロングソードを投擲する、手から離れる直前、赤黒いオーラを纏い真っ直ぐ向かう。
破剣赤星の仕組みは難しくない、簡潔にいえば物理魔法。
飛んでいく度にスピードは増し、落雷の速さで襲う。
スピードが上がる事に破壊力も増す、超脳筋魔法。
火、風、水を即座に収束し混合する。新しい質量、物質である赤星が誕生する。
質量、物質に関しては空想の物と捉えられても可笑しくはない。
「こんなの弾き飛ばしてやる」
リグは意気揚々に言う、あぁそうだな、お前ならばその選択をする。
それを見込んでのこの魔法だ、当たればただですまない。
リグは弾こうと手を伸ばし、速度が乗り切った破壊力が抜群に高い剣と、衝突する。
次の瞬間、耳を塞ぎたくなるくらいの轟音に、黒い煙が部屋に充満する。
「ゲホゲホ、何も見えない」
リグの魔力を感じられない、死んだのか? いや可能性は高くないだろう。
黒い煙は晴れると同時に、鼻をつまみたくなる程の異臭。
異臭の原因となる男が、不敵な笑みを浮かべる。
右上半身は吹き飛び、奴の近くに右腕が散っている。
赤黒い血が流れているが、床は溶け始める。
この異臭の原因は血? 人間相手以外にも毒になる。そう推測しないと成り立たない。
「クックックアハハハハ、魔人になって始めての大怪我だ」
リグは嬉しそうに表情をし、愉快そうに笑い飛ばす。
その様子に恐怖すら感じる。まず、魔人の生命力に驚かされる。
右上半身は吹き飛び、致死量レベルの血が流れているのに、平然としている。
「なんで平然と生きられているの?」
「オレ様は人間より上位な生物、貴様ら人間とは物が違うんだよ!!」
確かにその通りだ、魔人は人間より脅威的な知性、鋼のような強靭な肉体をしている。
魔力量だって比べ物にならない。
それが一体どうした? 人間より上位互換? 結構な事だ。
オレは魔人であるこいつを越える。
と、気持ちを固めた時、思わず目を疑いたくなる程の光景を目にする。
「やっと傷が回復してきた、厄介な魔法を使いやがって」
吹き飛んだ筈の右上半身が再生し、腕を回していた。
はは、流石にこれは絶望を感じてもいいだろう? 投げ出したくなるくらいの絶望感が、押し寄せてくる。
今の魔法で決定打にはならないと、見込んではいた。
だけど、それなりのダメージは負うと考えていた。
けれど、ほぼ全快に回復をされてしまった、オレが必死こいて付けた斬撃の傷すら完治している。
「くっそ流石にしんどいな。化け物にも限度がるぞ?」
皮肉のつもりでいった、リグは体をフラつかせ、突進をしてくる。
一瞬の行動に反応が遅れた、リグを捉えようとした時、首が絞まる。
くっそ全く息ができない、足を動かし、リグに何度も蹴りを入れ抵抗する。
だが、無意味だと理解する、それでも必死にもがき抵抗する。
「火球! 火球!」
横から火球が飛んでくる、決して弱くない魔法、それでもリグには通用しない。
「離れろ! 離れてよ!! クロ君から離れろ」
ユウナさんは雄叫びのように、リグに向かって声を荒げ、何回も何回も殴る。
一切のダメージはない、むしろ好都合と思っている。
なんせ目標が自ら来てくれるのだから、ユウナさんはお構いなしにリグを殴る。
リグの手がユウナさんに迫る。
駄目だ、このままだとユウナさんが連れていかれる。
……オレの命はもう考えなくていい。
右手をリグの心臓部分に置く。
「どうした抵抗をやめたのか?」
リグはオレを見て言う。その通りさ、抵抗をやめた。
今残っている前魔力を右手に注ぎ、放つ。
ドンッと音と共に、リグの体に大きな風穴が開く、首を絞めてる手が緩む。
間髪入れずに脇腹を蹴り抜く。
リグは床に転がり、オレらと階段の中間辺りで止まる。
「ゲホゲホッ、うぅ苦しいなぁ」
今ので完全に魔力が切れた、もう勝てる要素がほぼゼロだ。
頼みの綱である、ヴァニタスの魔導書は一切の反応を示さない。
「もう消去方的しかないよな」
ローブの中に隠していた、刀剣袋を取り出し、袋から剣を取り出す。
「そ、それは!? 魔帝に愛された剣! なんで貴様が持っている!!」
リグは食い付いてきた、黒、赤、金で装飾された鞘、赤と黒を混合した柄。
オレが執事長に渡され、ある時は支配をされそうになった魔道具──魔剣。
「クロ君まさか!」
「貴様に抜けるのか?」
「さぁな? 今まで抜けた事がないしな」
右手で柄を掴み、反対の手で鞘を掴む。
抜けるかどうかなんて今でも分からない。抜けられなければここで死ぬ。
ただそれだけに過ぎない。
力を入れずにゆっくりと剣を抜く、白銀の刀身が姿を現す。
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