第40話 魔人の正体

「クロ君どうする?」


 ユウナさんは小声で話し掛けてくる。

 オレは思考を巡らせる、今いる場所と階段までの間、そこには魔人がいる。

 階段まで走り抜くとしても、奴を退かさないといけない。

 ユウナさんが捕まってしまったら、終わりだ。

 魔剣はオレが所有しているが、いずれバレる。


「最短で魔人を倒すしかない、それかその間に貴女を逃します」

「後者の場合、君はどうするの?」

「前者と同様に魔人を倒してから向かいます」


 ユウナさんは不服そうだが、頷いてくれた。

 本当にすみません、そしてありがとうございます。

 どっちにしろ、魔人はここで倒す。

 倒さなければ同じ事の繰り返し。


「何コソコソ話しているんだぁ? オレ様にも教えろよ、さもねぇと殺すぞ!」

「バーカ、ユウナさんを殺せないだろ?」


 魔人は黙り込む、今の状況は最悪その物。だが、一ついい所を上げるとすれば、ユウナさんが傷つけられないとこ。


「無能如きが調子に乗るな」


 魔人が言う無能、この言葉は学園の時から引っ掛かっていた。

 これは魔人の正体に繋がる事、それだけは断言できる。

 魔人の発言、火の魔法、これだけでおおよそ見当が付く。


「お前こそいいのか? ヒュウガの人間が魔人化して?」

「ッ!? な、な、なんで貴様!!」


 明らか様に動揺をした、ユウナさんも気付いてない。

 オレだからこそ分かる事、昔から凄くて嫌いだった。


「ヒュウガの三男リグ」

「よく分かったな! 無能がよ! 景品として殺してやる」


 オレを無能っていうのは、ヒュウガの人間くらいしかいない。

 リグが魔人化したのは厄介だ、ただでさえ、強力な魔法に魔力を持っている。

 魔人化で更に磨きが掛かっている。


「あの時オレ様をぶっ飛ばした奴、貴様だろう!」


 あの時? あぁ始めてリグに勝った時か。

 顔を隠していたから、正体はバレていなかったが、今、現に戦っている。そこでバレたのだろう。


「憎んでいたのか?」

「当たり前だろ! 貴様のせいでオレ様の人生は壊れ始めた」


 何が人生が壊れだよ、お前まだ十三だろ、人生まだまだ長い。

 なんかジジ臭い事を思ってしまった。


「ユウナさん、防壁魔法か何か使えます?」

「え、一応使えるけど?」

「それならば防壁魔法を唱えて下さい」


 さっきから放っているエネルギー弾、火の魔法を考えると、ユウナさんを守りながらでは戦えない。

 ただでさえ、オレは風紀員長と違い、戦闘経験もセンスすらない。

 ユウナさんは魔法を唱える、透明の壁がユウナさんを包む。


「下らない小細工しているんじゃねぇぞ!」


 怒声しか上げれないのかこいつ。

 次の行動を一体どうするか、金色の指輪で魔力操作は可能。

 それにロングソードは地面にある、拾っている暇すらない。

 だったらこうするしかない! 


「これでも喰らいやがれ」


 オレは足を振り上げ、ロングソードを蹴り飛ばす。

 上手く柄の部分を蹴り、真っ直ぐ投擲のように飛ぶ。

 リグの眼前に迫った剣を弾き飛ばす。


「それくらい最初から読めている!」


 剣を弾く事くらい分かっていた、一瞬の気を逸らす為に過ぎない。

 その間にソニアの手袋を装着できた、ここからはリスク有りの肉弾戦だ!


「何だと!?」

「挨拶代わりに受け取ってくれよ」


 拳を硬め一閃を振る、リグが腕を前に出し防いだ。

 魔人は人間と違い、強靱で鋼のような肉体を持っている。

 たかが人間の殴打、受け止めきれると、慢心する。

 悪いがオレの攻撃は止めれない! リグの腕が弾き、顔を貫く。


「一瞬だけ吹っ飛んでろ」


 拳を振り抜く、リグの体は浮き、まるで吸い込まれるように吹っ飛ぶ。

 リグは壁に衝突し、穴が空く、その間にロングソードを拾う。


「クックックアハハハ!! そうではないと面白くない」


 リグは勢いよく壁の中から出て、接近する。それと同時に拳を繰り出してきた。

 リグの拳を片手で受け止める。


「戦闘を楽しんでるじゃねぇよ。こっちは何も楽しくない!」

「そう連れない事言うなよ」


 直後、リグは頭をぶつけてくる、油断をした、掴んでいた手を離す。

 ここで止まっては駄目だ、防御、または反撃の態勢を取らないと!?


「火球」


 気付いた時、目の前には火の球体が広がる。

 防ぐの無理か、……いつもここで諦めてしまう。

 それじゃあ駄目だ、それに火球はもう死ぬ程喰らってきた。

 左手を火球の前に出す。

 火花が散る、火球は一瞬で消滅する。


「いい加減離れろ!」


 右手で握っている剣を振る、リグはすぐさまにバックアップをし、距離を取る。

 悔しいがオレとリグでは、戦闘センスが違い過ぎる。


「ハハッ、本当に清々しい程に強いなぁ」

「どうした降参か? 今ならば楽に殺してやるぞ?」


 笑えてくる、本当に信じられないくらい強い、それでもどうしてか、負ける気がしない。

 不安、緊張が合った、それなのに今はほぼゼロに近い。


「降参も死ぬつもりもない」


 この感じ、体が覚えている。


「そうか、どっちみちお前は死ぬけどな!」


 リグは満面な笑みを浮かべ、近付いてくる。迎撃の体勢を取り待つ。

 リグは突進してくる、片手で剣を振い、一定の距離を保つ。


「小癪な真似を」


 小癪? そんな事一切思った事ないね!

 今度はオレの番だ、両手で握り、一歩踏み込む。

 と、同時にリグの火球が再びくる、今度は避ける事なく喰らってしまう。

 体が燃えるように熱い、それでも今の攻撃、リグは油断しきっている。

 わざと喰らってやったんだ、一撃くらい貰いやがれ! 下段から斬撃を飛ばす。


「やっとダメージを負いやがったな?」


 リグが避ける事もできず、肩から腹まで切り裂き、血飛沫が舞う。

 オレの体に返り血が飛ぶ、次の一撃で仕留める。

 そう思っていた矢先、体が熱くなる。

 火球を喰らった比にならない程の熱さ。


「ブッ、カハッ、なんだこれ」


 次の瞬間、口から大量の血が流れてくる。一体何が起きたのか理解しようと、頭を必死に回す。


「バカめ! 魔人の血はお前ら人間からすれば毒なんだよ!」


 あぁくそ、体が言う事を聞かず、思わず膝をつく。


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