第38話 ユウナのいる場所

 オレの一言は屋敷内に反響する。この言葉を魔人が、聞いて反応してくれれば一番楽。

 まぁ現実はそこまで甘くはない。

 屋敷内で魔力の流れを消す方法、そんな物は普通はない。

 魔人にそんな技術があるならば別。

 だけど、ユウナさんにはない。


「いくら考えてもまとまらない。地道に部屋を探すしかない」


 しらみつぶしに部屋を見る、何処にも魔人やユウナさんはいない。

 それ所か、魔力の残影すらない。

 まだ一つだけ見てない所はあるが、一番の可能性が低いと思われる場所。


「行くだけ行くしかないな」


 踵を返し向かう。屋敷内は綺麗なまま、一切の傷もない。

 玄関には争った痕跡は合った、執事長が一方的にやられたのか、それとも起死回生に一撃を入れたのか、気になる所。

 そんな事を考えている間にも残りの部屋に着く。


「やはりここしかないな、執事長と使っていた特訓部屋」


 特訓部屋はリステリ邸の中で、一番魔力がこもっている部屋。

 しかし疑問も抱く、もしこの部屋にいるのであれば、多少の気配は感じる。

 扉に手をかけ開くと、そこには誰もいなかった。


「おいおいふざけんなよ! ここにいなければ何処にいるんだよ!!」


 オレは感情任せに床を殴る、ドンっと音が響く。

 それと同時に奥の壁が少しズレる。


「今奥の壁がズレた? なんで……だ」


 無意識に魔帝の魔道具に触れる。執事長はこれをオレに渡す時、奥に向かった。

 もしかしたらあの奥の壁、あそこに何か秘密がある。

 慎重に近付く、壁の最奥付近までに行く、壁に触れる。

 と、ギギギッと音が鳴る、壁は横にズレた。

 ズレたその先には地下に繋がる階段。

 次にポケットにある、ヴァニタスの魔導書を触れる。


「地下の禁断書庫……ここならば隠れれる」


 特に確証なんかない、ただ自分の直感がそう言っている。

 階段を降りる、だんだんと魔力の流れが強く、濃くなっていく。


「一体どんだけ続くんだ?」


 それなりに階段を降りたが、まだ続いている。

 降りるだけで疲労する、それからひたすらに階段を降りると、およそ二メートルを越える二つ扉。

 扉の前、階段の間には無駄に広い空間がある。


「早く言え」


 何か声が聞こえる、話し声か? 音と気配を殺し、聞き耳を立てる。


「魔帝の武器のありかを早く答えろ!」

「絶対に嫌だ! 貴方なんかに答えない!」


 この声は!! ユウナさんの声、必然的に話し相手は魔人。

 今すぐにでも突撃したいが、それでは学園にいた時と同じだ。

 隙を伺え、タイミングを見計らう。


「答えないとお前を殺す!」


 くっ! 抑えろ、今出ては駄目だ。

 今すぐにでも飛び出しそうな、体を力づくで抑える。


「貴方たちに教えても使いこなせない!」

「どうだろうな! あの方ならばきっと使いこなせる」


 あの方? それに会話的にこの魔剣、そうか、全て分かった。

 どうして魔人がユウナさんを攫い、リステリ邸の地下にいるのか。

 全てに線が繋がった。

 魔帝の事をリステリ家は代々伝承している、地下には魔帝の何かしらの道具が封印されているだろう。

 それを手に入れる為にはユウナさんが必要。

 だからわざわざ攫い、ここにいる。


「まぁ情報を渡さないならば、少し痛い目に遭って貰う」


 もうこのタイミングしかない! オレは急いで階段を駆け降りる。

 ロングソードを肩に担ぎ、魔人に斬り掛かる。


「な、なんで貴様がここに!?」

「その顔始めて見たよ!」


 虚をつく攻撃なのに魔人は簡単に避ける。オレが現れた事に驚愕し、一瞬、体を止めた。

 間髪入れずに魔人を蹴り抜く。

 魔人の顔が歪む、反撃の余地なんかやらない! 片手で剣を振る。


「はぁはぁ、流石にちょっと焦ったぞ!」

「嘘つけ、大分焦っただろ?」


 オレと魔人は軽口を叩き合う、あの攻撃を避けるか。

 蹴りを入れ、魔人の体勢が崩れ、そこに剣を振る。

 コンビネーションとしては、結構高かった筈、それなのに簡単に避けられた。


「そんな事がどうでもいい、よくこの場所が分かったなぁ」

「貴様の考える事くらい分かる」

「分かりやすい嘘だなぁ、まぁいいさ。お前はここで死ぬんだからなぁ!」


 魔人はさっきまでの焦りと違い、戦闘体勢。

 さっきのでやれなかったのは惜しい。

 とはいえ、必ず奴に勝てるとも限らない。

 魔人はこちらに向かう。


「まっ待って! 私の事は好きにしてもいい! だからクロ君には手を出さないで」


 ユウナさんの啖呵を切る言葉、それを聞き、ここに来て始めて見る。

 目から涙を流し、オレを真っ直ぐ見ている。

 こんなに見られているのに、一切気付く事ができなかった。

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