第37話 リステリ家に突撃

 空からの眺めのも案外いいもんだ。そんな悠長に思っている場合でもないか。

 体は無意識に完治した、問題はあの魔人の攻略だ。

 今の場合、十回戦って一回勝てるかの確率、何かしらのヒントがある筈だ。

 頭をフル回転させ思考を巡らす、脳裏には魔人との戦いを思い出す。


「どう考えても死なない程度に遊ばれた」


 いや待てよ? 本当にこの推測は当たっているのか? 意識が途切れる前の魔人の言葉──表情。

 まるで虚をつかれた様子だった。

 きっと何か魔人に弱点がある筈だ、一体なんだ? 考えろ! ある一筋の光が頭を過ぎる。


「魔人は元々人間……ドルグアと同じと考えた方がいい」


 この推測はきっと当たっている、前代未聞の例としてドルグアがいる。

 人間が魔人化をしても可笑しくはない。

 ドルグアとあの魔人には、一つの共通点が存在する。

 それは戦闘での慢心だ、魔人の力は強力だが、子供のように遊んでいた。

 その慢心を逆手に取る事ができれば、オレにも勝機がある。


「言葉にするのは簡単だ、それでも実行するのがくそ難しい」

「グゥゥガ!」

「ん? どうしたワイバーン」


 ワイバーンが急に咆哮した、何か合ったのか? ワイバーンの視線の先、そこには歪の魔力。

 到底人間の魔力ではない。


「魔人の魔力、よく見つけたワイバーン。真っ直ぐ進め!」


 ワイバーンの速度が上がる、気を抜けば振り落とされかねない。

 ワイバーンの体にしがみつく、魔人とユウナさんの場所、一切の見当が付かない。

 どう考えてようが勝ち筋が見えない。

 いくら戦いの戦略を練ようが、決定打になる一撃がない。

 一つ可能性はある、ヴァニタスの魔導書。

 一番は魔帝の魔道具がいい。

 しかし、まだオレでは抜ける事さえできない。

 それならば可能性が高い、ヴァニタスの魔導書しかない。

 現に二回程顕現している、魔導書の中にはドルグアが持っていた、魔剣もある。

 ロングソードよりは安心感がある。


「ッ!? ここはリステリ邸」


 ワイバーンは急に速度を落とし、止まる。真下には見覚えがある屋敷。

 ここに魔人とユウナさんがいる、ん? ちょっと待てよ!? 魔人がリステリ邸にいるならば執事長は? 嫌な予感と共に額から汗が流れる。


「……ワイバーンゆっくりと着地しろ」


 オレの指示に従い、ゆっくりと体を落とす。やがてワイバーンは敷地内に着地する。

 オレはワイバーンの体から降り、周囲を見渡す。

 特段と屋敷が壊れている事もない、一体何処にいるんだ? 屋敷に着くと魔力の流れが途切れていた。

 屋敷の構造は熟知している、魔力の流れを途切らせ、捕縛できる場所はない。


「屋敷内を探索するしかないな」


 屋敷からワイバーンに視線を向ける、腕を伸ばし頭を撫でる。

 ワイバーンは目を瞑っている。


「ワイバーン少し待っていてくれ、すぐにユウナさんを連れて戻ってくる」


 ワイバーンが縦に首を振る、風紀員長の使い魔、知性が高いなぁ。

 腑とユウナさんと出会った当初を、思い出す、べオードウルフに襲われた。

 それでも魔物はオレの言う事を聞いた。

 あの時は思いもしなかった。

 自分に魔力がある事に、全ては昇格戦で発覚した。執事長の言葉、それに実感。

 その全てに線が繋がった。


「もう弱いとか最強とか関係ない、オレはあの人を助け出し守り抜く」


 扉を勢いよく開ける。玄関には執事長が倒れている。

 嫌な予感が見事に的中した、心臓の鼓動が急激に速くなる。

 はぁはぁとその場で息切れを起こす。

 お、落ち着け、冷静になれ、まだ執事長が安否を確認だ。

 ゆっくり歩み寄る、執事長の体はボロボロと血を流している。


「執事長、クロです。もし無事ならば返事をして下さい」


 執事長の体はピクリとも動かない。


「魔人よぶっ殺してやる」


 心の底から出てきた本音、口に出した瞬間、執事長の手がボクの頬に触れる。

 シワだらけでゴツゴツした手、咄嗟の事で反応が遅れた。

 すぐに手を握る。執事長は掠れた声でオレに言う。


「リステリの執事たるものが、そんな乱暴な口をしては駄目ですよ」

「執事長!!」


 良かった! まだ執事長には息がある。


「く、クロさん……すみません。ワタシが弱い為にと、止められませんでした」

「ち、違う、ボ、オレが弱いせいだ! 魔人に勝てなかったオレが悪い!」

「いいえ、そんな事はないです。ワタシは君の頑張りを誰よりも知っている」


 ずるいですよ、こんな時にその言葉、今から戦いにいこうとしている。

 それなのに涙が出てきてしまう、堪えろ、決して涙を見せるな。


「お願いがあります。お嬢様をお守り下さい……」


 執事長はそれを最後に目を瞑った。

 執事長の手はまだ温かい、まだ死んではいない。


「執事長待っていて下さい。オレが必ずユウナさんを守ります」


 執事長の手をゆっくり離し、心臓部分に手を置く。

 できるかなんか分からない、それでもやらなければ、執事長は死ぬ! 魔力を込める。

 頼む、恩人であり恩師を死なせたくない。執事長の傷よ回復してくれ。

 そんなオレの思いが伝わったかのように、執事長の傷はみるみると回復する。

 オレの右手、そして執事長の体を緑色の魔力が覆う。


「これが治癒魔法か、一瞬だけど意識的にできた」


 コツいや、治癒魔法の本質を少しだけ掴めた。

 この場所で執事長を放置する訳にはいかない。

 執事長を抱え、近くに合った部屋に入り、ベットに運ぶ。

 部屋から出て行き、少し歩いてから言葉を溢す。


「ユウナさんを攫い、傷つけるだけでは飽き足らず、執事長を瀕死の状態に多いやった。お前だけは絶対に許さない」

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