第35話 最悪の事態
「やはりダメか、これ本当に使えるのか?」
魔帝に愛された武器、今ならば抜けるかと、思ったが、やはりまだダメだ。
きっとまだ実力が足りない、何かをきっかけに抜ける事ができるのか? 客観的に考えていた。
だが、その時、ボクのローブから声が聞こえる。
『緊急事態発生! 動ける風紀員はすぐさまに魔技場に来い!』
声はそこで途切れた、今の感じ前も何処かで……脳裏にある記憶が思い浮ぶ。
まさかなぁと思うけど、念の為に急いで向かう。
螺旋階段を降り、一番下にまで向かう、ソロモンの校門から、真っ直ぐ左に進んだ所。
円形で出来た大きな白い建物がある。
人が中から大量に出てくる、今何が起きている? 通路に入り、観客席に向かう。
そこでボクは、驚愕の物を目の当たりにする。
「ゆ、ユウナさん?」
「来るなクロ!!」
ボクはフィールドに近付く、風紀員長は腕を広げ制止する。
なんだこれ? ボクが魔技場から離れている間、何が起きた? 思考が正常に反応していない。
目の前の惨事を見れば不思議ではない、なんせフィールドにはユウナさんと、魔人がいるのだから。
魔人の黒いローブはボロボロ、肌は黒に近い褐色、ギロリと赤い双眸がこちらを見る。
「来たか無能、お前の主人はオレが貰っていくぞ」
無能、久しぶりに聞いたなその単語、ユウナさんを連れていく? 何処に?
「クロ君来ちゃ駄目!!」
ユウナさんすみません、それはできません。最近命令に逆らってばっかでごめんなさい。
観客席にある手すりを掴む。
「おいクロ何をする気だ?」
風紀員長がボクを止めようとする、今この人に捕まる訳にはいかない。
体を乗りだして、手すりを離す、地面に落ちる間に金色の指輪を着ける。
魔力を体に流す、地面に着地すると、足下にクレーターができる。
「あのバカ! 前の魔人とはレベルが違うんだぞ!?」
知っている、ドルグアが魔人の時と、全く魔力の量、流れが違う。
「オレとやる気か? いいぜせめて楽しませてくれよ!」
「そんな御託はいい、お嬢様からその手をどけろ!!」
魔人はニヤリと口角を上げる、魔人の手がユウナさんの首に回る。
そのまま首を絞めた。「うぅぅ、く、苦しい」魔人はユウナさんの様子を見て、妖艶な表情。
人が苦しんでいる所を見て何が楽しい? ボクの体から怒りが込み上がる。
あぁ今すぐにでも魔人を、殴り倒したい! 拳を強く握る。
「なんだすぐに来ないのか、がっかりだよ」
魔人は分かりやすく愕然とする、はぁーと首を振る。
やはりボクを怒らせる為にやったのか、魔人はユウナさんを離す。
ユウナさんはゲホゲホと咳き込む。
「わざとボクを怒らせただろ? 激情して向かった所を殺す。それがお前の目的だろう?」
「なんだぁ案外冷静かよ、無能の癖に面白いな! さぁやろうか」
ボクが冷静? それは御門違いだ、全然冷静なんかではない。
今すぐお前をぶっ飛ばしたい、だけど、それよりユウナさんの命優先だ。
激情になると怒りに感情が支配される。
それではユウナさんを助けれない、こっちが攻撃する前に、ユウナさんを殺されたら意味がない。
殺す事はきっとないだろう、魔人の発言的にユウナさんを、生かして連れて行こうとしている。
「クロ君絶対に戦っては駄目! 敵わない。この魔人と君では天と地程の差がある」
そんな事はもう既に分かっている! 対面しただけで、今のボクでは勝てないと悟った。
それがどうした? ユウナさんを見殺しにしろと? できる訳がない。
「リステリ見ていろ、今お前の執事を殺してやるからよ!」
明らかさまに殺意を剥き出し、右手をこちらに向ける。
魔人の右手から魔力が充填する、あの時と一緒だ。
高密度の魔力が溜まり、綺麗な円の球体ができる。球体は赤い魔力を纏っている。
「これを喰らって生きていたら褒めてやる」
「何様だよ」
魔人の右手から放たれる、これを喰らったら一溜りもない! あの球体は多分炎だ。
炎に炎をぶつけても無意味、魔人の方が強力な炎。
ボクの火魔法では通用しない、ある意味万死休す。
炎の球体はゆっくりと徐々に、近付いてくる。
「水虎」
水で出来た虎が顕現する、咆哮しながら炎の球体に飛び付く。
水虎は前足を振り上げ、球体を攻撃する。
球体は爆散し水虎の体も崩れる。
何とか炎の球体を防ぐ事ができた、水魔法でできた水虎が崩れた。
もし生身で直撃したらと考えると恐ろしい、ほんの少し安堵し、隙を作ってしまった。
「やはりお前は無能だな」
一瞬の隙さえあれば、魔人はボクを倒せる。懐に潜られ、腹部に強烈な殴打がくる。
口の中に血が溜まる。
「ほほう? まだ死んでないか」
くっそ、息ができない、ガハッ、血を吐き出す。
口の中から鉄の味がする、前も似たような事が合った。
あの時は反撃ができた。
「簡単に死なないさ!」
体を回し拳を振う、魔人は一歩、後方に下がり躱す。
余裕そうだなぁ、その反対にボクは必死こいている。
「もう終わらせよう! 焔鳥」
「っ!?」
「お前が放った時から気に入ったんだよな」
ボクのとは違い、火球を出さずとも炎の鳥が出現する。
羽を羽ばたかせ、火の粉を飛ばす、あっつい! 火の粉に気を取られていると、眼前には火の鳥。
「中々には面白かったぞ無能」
火の鳥はボクの体を燃やし尽くす。
ユウナさんすみません、貴女様を守れない無能で……。
ボクの意識は消え掛かった。
「何だと!?」
「負けて溜まるかよ! ぶっ潰…….す」
「チッ、少し状況が変わった。リステリお前を連れていく。ソロモンの連中よ、いずれ我々はお前らを潰す」
我々? ボクの意識はまだ消えず、魔人の最後の言葉を皮切りに途切れる。
目が覚めた時には、ユウナさんも魔人も居らず、地面が抉れている。
そうか、ボクは負けてユウナさんを連れていかれた。
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