第34話 トーナメントの波乱

 魔導戦二日目。

 一日に出ていた出場者の大半は、負傷した。

 トーナメントに出る生徒も多少負傷をしている人はいる。

 ボクとフォスト、ユウナさんは無傷、問題はここからだろう。


「終わったよ」

「えっあっはい」


 急な声に腑抜けた返事をしてしまう。


「念の為の魔道具調整は終わり、もし違和感合ったら教えてね」

「うっす、ユウナさんの相手って強いんですか?」

「うーん分からない」


 ユウナさんはニコッと笑みを浮かべ、首を傾げる。

 その動作にボクは思わず、あっいい笑顔だ。

 と、思ってしまう。ユウナさん自身も相手の事を知らない。

 ボクはユウナさんの相手に、変な違和感を覚えた。

 まずそもそも名前を見た事もないし、五つのブロックにいなかった。

 ボクが見落としているだけかもしれない。

 それでも、なんだこの胸騒ぎは? 背筋が凍る程の嫌な予感。


「クロ君、私は大丈夫だから」


 心を見透かしたように言ってくる、声音、声色は正常。だけど、表情は固くなっている。

 笑顔ではいるが、その裏には恐怖がある。

 この人はいつも作り笑いをする。


「──クロ君、私から一つのお願いしていい?」

「はい? 一体何ですか?」


 お願い、一体何だろう? きっと何か大事な事なんだろう。

 ボクはその程度にしか考えていなかった。


「リステリの名前を受け取ってよ」


 ユウナさんの信じられない一言、一瞬、時が止まったようにボクの思考は停止する。

 言葉の意味を理解するのに数秒掛かった。

 その間、ユウナさんは何かを言ってくる事はない、ただひたすらボクの返答を待っている。

 どう答えれば正解? ユウナさんの申し出は普通に嬉しい。

 それでもボクはリステリの家名を、受け取ってはいけない存在。

 剥奪されたとはいえ、ボクは元々ヒュウガ。リステリとは敵対している。


「どうかな?」

「……すみません。それは無理です。ボクにはそんな権利はありません」


 嘘偽りもない本音、もしもできるのであれば、リステリの一員になりたい。

 だが、リスクも大きい。

 ヒュウガの誰かと会って、バラしでもされればボクは傍にいられない。


「そんな事ない! 次期当主の私が許可している……それでも受け入れない?」


 ユウナさんの笑顔がだんだんと崩れ、徐々に目尻に涙が溜まる。

 あぁボクは最低だ、ユウナさんを泣かせてしまった。


「だったら! 私は魔導戦でクロ君に勝つ。私が勝ったら素直に受け取りなさい!」


 ユウナさんは涙を拭って、ボクに宣戦布告をしてきた。

 ははっ、まさか宣戦布告されるとは、思いもしていなかった。


「分かりました、待っています、でもやるからには全力でいきます」

「その上で私が勝つ」


        ◇


『まもなくトーナメント一回戦始めるぞ! 一回戦は本命のフォストだ! それに対する、相手は三年の風紀員』


 アナウンスはやはりリリィ先輩ではない。やはりあの会議での決まりか、見回りをしているって所。

 フォストと風紀員の先輩は、魔技場のフィールドに対面している。

 さてと、このまま見物をするべきか? それとも見回りをするか悩む。

 まぁ眺めとくか、アナウンスはノリノリで紹介をしている。


「御託はいい! 早く始めようぜ」

「先輩落ち着いて下さいよ」


 風紀員の先輩はもう既に戦闘態勢。それに比べ、フォストはリラックスしている。

 この勝負も速攻で決着が付く、見てても意味ないな。

 観客席から立ちあがろうとしたら、肩をいきなり掴まれる。

 誰だ? と思い、背後を見ると風紀員長がいる。

 風紀員長はボクの隣に来て座った。釣られるように一緒に座る。


「どっちが勝つと思う?」

「どう考えてもフォストでしょうね」

「わっちもそう思う、風紀員の一人、一人は実力は高い」

「それでもフォストの方が一枚上手」


 風紀員長は頷く、この人がわざわざボクの隣に座るって事は、何かを企んでいる。


「それでボクに何か用ですか?」

「やはり気付いていたか、ユウナの相手、奴には気をつけろ」


 ユウナさんの相手? 一体どういう事だ? 風紀員長に聞こうとした。

 その時、物凄い歓声が起きる、フィールドに目を配る。

 フォストは腕を上げ、風紀員の先輩は倒れている。


「おいおい瞬殺かよ」


 速攻で決着は付くのは予想できたが、瞬殺とまでは予想できなかった。

 ボクも風紀員長も驚いていた、驚くと同時にボクの胸は踊る。

 フォストみたいな強い奴を、倒したい、踏み台にして最強へと至る。

 あぁ本当面白くなってきた。


「クロ、一つわっちからアドバイスをしてやる」

「アドバイスですか?」

「決して力に支配されるな。強大な力は魅力的だ、それでも支配されては意味がない」


 どうして今こんなアドバイスを、されたのかまだ理解ができていなかった。

 けど、きっと何か意味がある。

 ……力に支配されるなか、客観的に一回自分の事を考えてみる。


「風紀員長が言った言葉、その裏にドルグアが関係していますか?」


 ボクの言葉に風紀員長は大きく、目を見開く。どうやら図星だ。

 今のボクはドルグアと一緒なのだろう。

 最強に拘っている、最強、言葉だけでも魅力的。

 実現すれば尚いい、これでは彼奴と一緒だ。


「風紀員長ありがとうございます。ボクはボクの使命を果たします」


 席から今度こそ立ち上がり、ある場所へ向かう。

 ユウナさんが魔道具を作ってくれた部屋。ここでならばいいか。

 ボクはローブの下に隠れている、刀剣袋を出し、魔道具を抜こうとする。



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