第33話 学園に迫る黒い影

「頭を使い過ぎた」


 フォストになるべく情報を、与えないように戦っていた為、逆に疲れてしまった。

 咄嗟に新しい魔法を作って、使うのも考え物だ。

 昇格戦の時はごく当然のようにできた。

 魔力は少し消費された、体力、調子は特に代わりなし。


「お疲れ様クロ君」

「……ユウナさん。お見苦しい所を見せてすみません」

「ううん。圧倒的な実力だったね、本気で優勝狙えるんじゃない?」

「……ご冗談を」


 ユウナさんは多分本気で言っている、悪いですけど、優勝には全く興味がない。

 ボクの目的はフォストを倒す。

 フォストが見せた魔法──雷竜の鍵爪。

 かなり強力な魔法だった、一筋縄で攻略ができない。

 それにあの様子だと、まだ何かを隠している感じ。

 対抗できる魔法を生み出した方がいい、少しユウナさんを頼るか。


「ユウナさん今から少し時間いいですか?」

「え、うんいいよ」


 ユウナさんは少し戸惑ったけど、了承してくれた。

 ボクらは少し場所を変え話す。


「うーん難しいねー。私は魔道具しか作れないし、クロ君がちょっと羨ましい」


 ユウナさんはボクの話しを聞き、心身に考えてくれた。

 確かにユウナさんは、魔道具製作に特化している。

 魔道具と魔法ではまたベクトルが違う。

 ん? ちょっと待てよ? 魔道具と魔法でまた違う。

 それでも、何かしら参考にできる筈。


「ユウナさんは魔道具作る時って、

 何か意識とかしていますか?」

「え? うーん。魔道具に付属させる魔力の特性とかかな?」


 魔力の特性、何かここからヒントを得ろ! フォストに対抗する術を。

 その時、ユウナさんがある事を口に出す。


「あっそうだクロ君。魔法創作に繋がるか分からないけれど、魔帝の魔剣。あれについて詳しく教えて上げる!」

「あれについてですか?」


 よくよく考えれば、魔帝に愛された武器、以外は知らない。


「実はね……」


        ◇


『では今からトーナメント表を発表するよ! 盛り上がっていけー!』


 リリィ先輩のアナウンスに生徒が、反応し盛り上がる。

 トーナメント表には二十五人の名前が、書かれている。

 その中で見覚えのない名前がある。

 三、四人は風紀員の先輩がいる。

 二人一組で戦うけど、一人だけ余るな。

 シードって所か、そこのシードにだれか 入る?


『それじゃあ発表』


 リリィ先輩は名前をだんだと上げていき、ボクはシードだった。

 二回戦くらいは免除される。フォストが勝ち上がればちょうどボクと当たる。


 フォスト当たるまでの間に、結構な時間が必要。

 それまでに何かをするのも手だ。

 ただひたすら見物ってのもあれだ、これ以上彼奴が新たな事を、するとは考えられない。

 最後の調整でもする。

 ボクは一人、通路に向かう、止められる事もなく進む。

 通路の隅で一回止まる、人の気配がしたから。


「標的……確保、その為にはお前には動いて貰うぞ」


 標的、覚悟? 部分的にしか聞こえない。

 気配は一人しか感じない、それでも話ている、もう一人くらいいるのは確定。

 会話の内容は不明、だが、直感的に不穏と思う。

 少し聞き耳を立てる、もし危険ならば捕縛する。


「誰だそこにいるのは?」

「っ!!」

「おい、誰かいるのか?」


 距離はどのくらい離れているか分からない。

 ボクは音も気配も消した、それなのに気付かれた。

 声から人物は二人、一人はボクの気配に気付き、もう一人は分かっていなかった。

 だったら最短距離で倒した方がいい!


「いや気のせいかもしれない。それでも場所を変えよう」

「分かった。あんたの言う通りにする」


 足音が広い廊下に響く、悔しい事にボクの体は止まる。

 それと一緒にホッとした自分がいる。

 いつからだ? こんなに意志まで弱くなったのは。


「気持ちから負けているじゃないか。こんなではフォストに勝つ以前に、ユウナさんを守れない」


 今のままではダメだ、意識から変えないと、そうしなければ勝てる物も勝てない。

 元々ボクは弱い存在、それをユウナさんは拾ってくれた。

 あの人の期待を応える、その為には今からでも意識を変える。


「あっクロ! いい所に居った」


 足を進めようとした時、声を掛けられる。

 声の方に振り向くと、ローブを羽織ったピンク髪の女性。


「リリィ先輩、アナウンスはどうしたんですか?」

「あぁ代わって貰ったよ。それにトーナメント明日だし、それでも色々と注意喚起を説明されている所かな」

「そうですか、それでボクに何か用ですか?」


 聞き返すと、リリィ先輩の空気が変わる。


「結構緊急案件かな、有無を言わさずに付いて来て」

「分かりました」


 始めてリリィ先輩から圧を感じた、しかも無言の圧。一番怖い。

 優しい人程、圧を掛けてくると怖い。

 リリィ先輩は前に進み、歩き出す。

 ボクは後ろに付いていく、廊下を進み、螺旋階段を登る。


「やぁやぁ集まったね、風紀員の諸君」「複数人は怪我で医療室にいるけど」

「細かい事はいいんだよ。これから緊急で風紀員会議を始める」


 風紀員長は椅子に座り、偉そうに語っていた。

 それにリリィ先輩が呆れながら言う。

 リリィ先輩が言ってた緊急案件は、会議の事か、ボクは周りを見渡すと、少し変わった風紀員室を見る。

 部屋には風紀員が揃っている、全員ではない。


「会議を始めたのは言うまでもない、学園に不穏分子を見つけた」


 パチンと風紀員長は指を鳴らす、目の前に机が現れ、その上には白い布を被った人がいる。

 座っている訳ではなく倒れている。

 なんだこれ? ボクは机に近付く。何も考えずに布を取る。

 そこには見知った顔がある、二つの意味で、他の風紀員から反応はない。

 つまりこれを知らないのはボクだけ。


「わっちが指示を出す前に見るんじゃない。まぁいいけど、それを見て何か思う事は?」

「驚きはしましたね色んな意味で、不穏分子はこれに関係している?」


 ボクの問いに風紀員長は首を縦に振る。

 あぁ予想外の事が起きた、魔導戦──ソロモンに波乱が起きる。

 さっき話していた謎の会話、あれも何か関係しているのか?


「風紀員はこれから先、学園の敵を探し、殲滅しろ」

「今は魔導戦とかあるけど、気を緩めずに見回りをしてね。もし何か一つでも問題があれば、私かアルトリアに連絡して」

「了解です!」


 どっちが風紀員長か分からない、会議はそれからも続き、終わった。

 風紀員はたちは解散し、風紀員室にはボクと風紀員長たちがいる。


「君は帰らないのかクロ」


 帰りたくても帰れない、この惨事に近いのを見ると。

 机の上には白を基調とした制服、頭には角を生やしている。

 ボクが殺したである魔人がいる、しかも安らかに眠っている。

 死んでいるのだから間違ってはいない。

 問題はここからだ、確かにボクが殺した魔人ではある。

 だけど、目の前の顔は間違いなく、ボクと戦ったドルグア。


「残酷な物だよなぁ、人間を魔人に変えるとは、人の越えてはいけない領域に踏み入れている」


 風紀員長の言う通り、確かに残酷だ。

 人のする所業ではない、まず魔人にするのは人がやったかも怪しい。

 人間を魔人に変えれる存在、ボクは全く想像が付かない。

 可能性としては二つ、かなり腕の立つ魔法師が、人体実験をし魔人に変えた。

 もう一つは架空の存在の悪魔、悪魔が何かしらの力で魔人に変えた。

 どちらも現実的ではない。


「考えるだけ無駄だぞ? もうソロモンの人間でこいつを解剖した」

「解剖した割には綺麗ですけど?」

「当たり前だ。遺族に返すんだ、惨い状態で渡せない」


 それもそうか、解剖したって事は多少の情報は出ている。

 その上で考えるだけ無駄って答え。


「複雑で決して解読ができない魔力が、刻まれていた。人間がやったとは到底思えない」

「それでも他の生物がやったとも考えれない」

「クロは物分かりがいいから、私たちも楽しているよ」


 その問いに何ともいえない感情を抱く、複雑な魔力が刻まれていた。

 もしそれを解読できれば、魔人の謎も分かる。

 まぁボクには到底できない事だ。


「それじゃあボクも戻ります」

「もし何か分かったら遠慮なく言え」


 頷き、風紀員室から出ていく、ボクは廊下を歩きながら考える。

 ドルグアは決して強くない、それなのに魔人は信じられない程強かった。

 ドルグアであれくらいの強さ、もしもレベルの高い魔法師が、魔人になったら……考えるのはやめよう。


「ドルグアの魔人化、それは全く分からないなぁ、それでも可能性がある」


 ドルグアには協力者がいた筈、そいつが何かを噛んでいると、ボクは推測する。

 魔導戦が終わったら、次に魔人化をさせた人間探しか。本当に忙しくなる。

 ボクはまだこの時、気付きもしなかった。魔導戦の裏で暗躍が起きている。


        ◇ 



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