第32話 ブロック戦

『それでは5分後にAブロックの試合を開始とする! 各々準備をしろ』


 リリィ先輩から号令が出た、ボクたちはそれに従う。

 Aブロックに選ばれている人間は、ほぼ全員がその場に残る。

 他のブロックの人間は離れ、観客席に映る。

 ボクは手前側の観客席に座る、Aブロック、フォストがいるブロック。実物だな。

 少しでも彼奴の魔法を見切る。

 雷の魔力は未だに謎が多い、元々事例が少ない為、情報が少ない。

 だからこそ雷魔法は強力ともいえる。

 何よりフォストは自分の魔力に理解がある、鬼才の軍師としての才もあるのだろう。

 魔法や痛みは目に見えてたら、案外耐えれる物。それでも奇襲に遭えば、前者よりダメージが大きい。

 特にフォストは奇襲を主に扱っている。雷魔法を音も気配もなく、視界にも映らない。

 ある意味最強な魔力、だが、これはフォストだからできる事。


『それじゃあ皆、今から魔導戦のAブロックを始める!』


 リリィ先輩の号令、下にいる生徒たちからピリピリさを感じる。

 クラスもバラバラであり、学年も様々、その中で異様に目立つのがフォスト。

 ブロック戦といってもどの様になるかは、まだ詳しく説明をされていない。

 それ以前に準備期間の間、誰も詳しい説明をしてくれなかった。

 ボクは今ぶっつけ本番に出会している。

 特にアナウンスもない、どうやら五人生き残りのバトルロワイヤル制。


「フォスト! 貴様からぶっ飛ばしてやる!」


 一人の大男が雄叫びを上げながら、フォストに向かっていく、その姿に見覚えが合った。

 男は拳を振り抜き、フォストは上体を反らし躱す。

 軽く、一、二回、後ろにステップする、男から距離を取る。

 直感的に分かる、フォストは魔法を放つ気だ。

 フォストは左手を反らす、男の体が痙攣する。

 無詠唱で魔法を放った、軌道も魔力も全く感じなかった。

 少し手合わせした時と、比べ物にならない。


「なんだ弱いじゃん」


 続け様に同じ動作をし、一人、また一人と薙ぎ倒して行く、あっという間に八人まで減った。

 一ブロック推定三十以上、それをフォストは一人で片付けた。

 後、三人脱落すればAブロックは終わる。

 八人の中に風紀員もいる、後は黒虎とか高いクラスの人間、流石のフォストでも簡単にはいかない。

 フォストが使っていた魔法。

 ボクに撃ってきたのとは違う代物。

 まだ、隠し玉を持っていると考えた方がいい。


「フォスト彼奴強すぎだろ!」

「これは優勝候補の一角だな」


 観客席の生徒はフォスト戦い振りを見て、感激している物も、唖然としている人もいる。

 その中で出てきた言葉、優勝候補の一角。

 優勝候補に誰がいるのか、聞きたい物だ。でも、フォストの戦いから目を離せない。

 少ない情報でもいい、彼奴を攻略する。

 八人まで減ったからなのか、フォスト以外、動きが固くなっている。

 その証拠に魔力の流れが波を打っている。

 フォストは安定、どんだけ肝が据わっているんだ? 鬼才の軍師。

 ボクは何か腑に落ちない物が合った。

 鬼才の軍師、色んな意味で強い異名。

 何か大事な所を見逃している気がして、仕方ない。


「おいあれを見てみろ!!」


 後ろから声が聞こえ、ボクはハッとする。

 どうやら思考を巡らしている間に、場が動き始めた。

 三人一斉にフォストに向かって、魔法を放つ。

 一人、一人の魔法では埒が明かないと思ったのだろう。

 結局は後三人脱落させればいい、それならば、強い相手を協力して倒すのも一つの手。

 逆にこれはボク的には助かる、簡単に避ける事は難しい。

 必然的に魔法で防ぐか、相殺。

 次の行動次第で、ボクのスタイルも考えれる。


「あぁ本当にだるいな」


 フォストの体から魔力が溢れ出す、始めて外に魔力を出した。

 雷の魔力らしく金色の色、放たれる魔法に手を向け、フォストは詠唱しだす。


雷竜の鍵爪サンドラビュート


 フォストの前方に、八芒星の魔法陣が現れ、魔力でできた竜が顕現する。

 ビリビリっと雷を纏い、大きいな爪で魔法を切り裂く。

 魔法は爆散し、地面には魔法の残骸が散らばる、ボクを含め、観客席で見ている人間は息を呑む。

 まるで時が止まったかのように、動きも止まる。

 あの三人が脱落でこのブロックは、終了だな。

 ボクは観客席から立ち上がり、通路に向かう。


「彼奴余裕そうだな」

「あぁリステリの執事な」

「彼奴が一番の優勝候補の一人」


        ◇

 通路に出るとユウナさんが立っていた。

 ボクはなんの前触れもなく、近付く、ユウナさんはこっちに気付いて、手を振ってくる。


「どうしたんですか?」

「うーんちょっと緊張かな、私はこの魔導戦には出るとは思ってもいなかったし、出れるのは光栄だけど」

「不安ですか?」

「……うん。私なんかが出ていいのかなと思ってしまう。クロ君のお陰でクラス上がった物だし」


 そんなに卑下しないで欲しい物だ、確かにクラス昇格にはボクが、関係している。

 それでも約一月の間、貴女は魔道具での模擬を頑張ってきた。

 もう少し、自信を持って欲しい、こういう時、気を利いた事を言った方がいいのだろう。


「ボクはユウナさんに不安を持ちません。信じています。頑張って下さい」


 ボクにはそんな言葉はない、どんな言葉を言えば、この人が喜ぶか分からない。

 だからボクは本心で言う。

 正解も不正解とか関係ない、自分の言葉に嘘偽りはないのだから。

 ユウナさんを信じて待つ。


「うん、ありがとう! じゃあ私行ってくるね!」


 ユウナさんは自信満々に言い、戦いの場所に向かった。

 ボクも一旦観客席に戻るか、この後、ボクは信じられない光景を見た。


『次、Bブロック戦』


 アナウンスと共に戦いが始まり、一斉にユウナさんを集中攻撃。

 ボクを含め、誰もが第一の脱落はユウナさんと思った。

 あの人を信じてはいる、でも、この数を一人で対処しきれない。

 と、思っていたが現実は違い、ユウナさんは生き延び、多くの人が脱落した。

 一体何が起きたかは分かり辛い、魔力の流れを感じる事ができる為、何が起きたか分かる。

 ユウナさんは持ち前の魔道具を使い、魔法の軌道を変え、相手にぶつけた。

 魔法のカウンター、複数の攻撃が織り混ざり、一点に絞られた反撃。

 轟音と共にユウナさん以外の生徒は、倒れる。その中で四人だけ立ち上がり、そこで終了した。

 ほぼ、ユウナさんの一人勝ちだ。


「はは、これは予想以上だ。ボクも頑張らないと」


 Bブロックも終わり、次はCと進み、難なく終わる。

 次はボクのブロックの戦い。

 調子は全く悪くない、さてと、ここでボクは一体どのスタイルでいくか。

 現在、ボクには二つのスタイルが存在している。

 今まで通りの肉弾戦で戦う、ファイトスタイル。もう一つは魔法主体の攻撃しかしない。

 一月の間でどちらもかなり向上はした。

 一応どっちでも戦える。

 ユウナさんが作ってくれた、補強型の魔道具のお陰で魔法を使える。

 未だに振り回されている感はあるけど。

 それでも戦える!


『それじゃあDブロック開始』


 アナウンスと共に戦いが始まる。


「まずは強い奴から狙うのが醍醐味!」


 何の前触れもなく、火球が飛んで来る。

 避けるまでもなく、軽く手で弾く。

 魔法が飛んだ方向に体を向ける、手をこちらに向けたローブの男──風紀員がいる。


「ボクは強くないですよ。先輩たちの方が厄介ですよ」

「どの口が抜かしているんだよ、今ここにいる全員がお前の敵だ!」


 風紀員の先輩は少し呆れながらも、後ろを指す。Dブロックにいる全員が、ボクの方を見て敵意剥き出し。

 おっとこれは結構不味いなぁ? 早々に魔道具を付けた方がいいかもしれん。


「いつから一対多数になったんすか?」


 ボクは冗談めに言う、全員笑う事もなく、こっちを真っ直ぐ見ている。

 全員が臨戦態勢、少しでも動く気配を見せたら攻撃をしてくる所だろう。

 本当ちょっと不味いな、一瞬魔道具を使うか迷った。

 そしてボクはどうするか決断した。


「時間を掛けずに一瞬で終わらせる」

「できるもんならばやってみろや!」


 ボクの発言に一人の男が怒声を上げる、男はそのまま突撃してくる。

 こういう激情型のタイプは、簡単に扱いやすい。

 攻撃も単調的で分かりやすい。

 魔法を使わずに殴り掛かってくる。

 男の拳は空を切る、ボクは横にサイドステップし躱す。

 流れるように男の手首を掴み、捻りあげる。

 男の体は宙に浮き、バタンと背中から地面に落ちる。

 男は呻き声をあげていた。


「次は貴方たちだ」

「調子に乗んなよ! 一年坊主!」


 また一人が怒声を上げ、空に手を向ける。

 詠唱付きの魔法を放つなぁ、放たれる前に先手必勝。

 右手を向け、魔力を巡らせる。イメージを膨らませ、形にし放つ!


「なっ!!」


 赤い巨大な火球が右手から放たれる。

 魔法を放とうした男以前に、他の人間を巻き込む。

 火球はやがて消え、地面に火の粉が舞う。

 火球に当たった人たちは、その場に倒れ込む。

 これで大分脱落したな、今立っている生徒はかなり減った。

 残りは約二十といった所。


「そう来ないとな! クロ」


 風紀員の人は威勢よく言う、あんたのような熱血は別に嫌いではない。

 だけど、あんまり時間を取らせたくないから、すぐに終わらせる。


焔鳥ホムバーラ


 目の前に巨大な火球が生まれ、収束する。

 火はだんだんと巨大な鳥の形に変形し、残りの生徒に向かって飛んでいく。

 音速の速さの為、避ける事はできない。

 周りに火の粉を飛ばしながらも、突撃していく。

 火の鳥は容赦なく燃やす。

 すぐさまにアナウンスが入る。


『そこまで!』


 まだ健在している火の鳥は、急に静かに消滅する。

 少し時間は掛かったが勝てた、倒れている生徒たちに、背を向けその場を後にする。


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