第29話 魔道具の本質

 魔導戦で魔道具使用するのも一つの手。でも、ボクは魔道具を使えない。

 今の実力では、まだ魔道具を扱いきれない。

 それに普通の魔道具を、ボクが使っていい物なのか? 風紀員長には壊れたけど、ロングソードを渡された。

 それもボクの持っている魔道具を扱う為、だから他の魔道具を、使ってもいいのは疑問な所。

 それ以前に魔法にも慣れておいた方がいい。

 昔憧れだった魔法、少し前までは使えず絶望をしていた。

 それなのに今は魔法が使える。

 だけど、上手く魔法を放つ事ができない。

 使えるようになったのはいいが、上手く扱えないと意味がない。

 フォストと戦うならば尚更だ、戦闘経験と魔法の慣れを補う必要がある。

 戦闘経験に関しては、対人模擬で補える。

 問題は魔法をどうやって補うかだ。

 思考を巡らせ、考えている時、ユウナさんが話しかける。


「何か悩み事?」


 ユウナさんの言葉に、自分はどう答えるか迷った。正直にいえば速い話し、でもどんな事をいわれるか分からない。

 それが少し怖い、ユウナさんに見限られるのは嫌だ。

 きっとユウナさんはそんな事をしない、そんな事は分かりきっている、それでもボクの心に恐怖がある。

 魔人戦の後の言葉、あれも嘘偽りがない誠な言葉。

 だからこそ、ボクはユウナさんの期待に応えたい。

 それと同時に素直になれずにいる。

 頭ではそんな事は分かっている、でも、体と気持ちが閉ざしてくる。

 ──パーンと部屋に響く、静かな部屋に無粋にも鳴り響く。ボクは少しビクッとした。


「はい素直に言って」


 ボクは自然と言葉を紡いでいた、あぁ本当、この人には敵わない。

 ユウナさんは特に何か、言う事もなく、ボクの言葉をただ聞いてくれた。


「うん。じゃあ補強型の魔道具を使えばいいんじゃないかな?」

「補強型?」


 聞き慣れない単語、それを聞き返して見る。ユウナさんは表情を一切変えず、散らばっている魔道具を、集めている。

 その中で何個かの魔道具が飛ぶ、ボクは目を見開く。


「あっ合った、合った、これだこれだ!」


 お目当ての物を見つけたのが、それを高く上げて、見せつけてくる。

 ユウナさんの手には、二つの赤い腕輪を持っていた。

 ユウナさんは目を、輝かしながら説明をする。

 何処か楽しそうだった。


「これはね。見た目通りの腕輪、体内にある魔力を底上げできる」

「はい」


 ユウナさんの熱量に付いていけず、空返事をしてしまった。

 腕輪を凝視し、ユウナさんが大きな声を出す。


「これだけじゃあ意味ない! バカか私!」


 話しにあんま付いていけない、これはボクの理解力が皆無だから? ブツブツとユウナさんは独り言を言っている。

 ちょっと怖い、すると、パッと顔を上げて、頭を振っていた。

 ボクはひたすらに不思議そうにみていた。


「ねぇ、クロ君ってさ、リステリとヒュウガどっちが強いか、考えた事ある?」

「えっ」


 ユウナさんを見て、ぼっとしていた時、思いがけぬ話題。その話題はかつてボクが、興味本意で気になった事。

 いきなりどうして? ユウナさんはこの話しを振ってきた?


「正直あります」

「うんうん、私はどっちが強いか知っているからね」

「どっちが強いんですか?」

「率直にいうと、ヒュウガだね、特に今は最強」


 シンだ! ヒュウガの史上最高傑作の誕生、それでヒュウガは更なる地位を得た。

 性格はど畜生だけど、実力だけは高い。

 シンが居れば、ヒュウガは安泰だと言われている。

 何故か、ボクには少し悔しさが合った。心のどこかでヒュウガが負ければいい、と思っていた。

 けれど、現実はそんなに甘くない、リステリの次期当主がいうならば間違いない。


「元々は均衡していたけどね、リステリの前当主とヒュウガの現当主が戦い、私の父親は負け、亡くなった」


 空気が重たくなる、ユウナさんは笑顔のまま、でも、声色が暗く低い、何処か冷酷さを感じ取れた。

 ユウナさんがヒュウガを、嫌っているのには──これが。

 いやそれより、ボクはこんな話し、初めて聞いた。

 何の為に戦った? それに何故、命まで取る? 自然と怒りが湧いてくる。


「ごめんね、こんな暗い話しをして」

「いえ……」


 ボクはこの人の傍に本当に居っていいのか? いや、遅かれ早かれ知る事になった筈。それが極端に早くなっただけ。


「本当は私じゃなくて、アルトリアが当主になればいいのにね」

「他人事みたいに言うんですね」

「実際彼奴の方が強いし、でもね、わっちはやらん! って言い切られた」


 それは何とも風紀員長らしい、あの人は結構自由人だ。当主とか堅い席に座るタイプではない。

 強さでいえば化物だと思う、それでもあの人はまだ人がいい。


「なんでこんな話し、クロ君にしたんだろう? 分かんないや」


 ユウナさんは笑って誤魔化した、何処か、一人で抱えきれず、誰かにぶつけたかったが。

 相手はいなかった、そこでボクに話してしまった。


「ユウナさん、ボク絶対強くなります」


 さっきまで暗い表情だった、ユウナさんの顔に光が生まれる。

 ヒュウガを出て、ユウナさんに拾われてからヒュウガとは無縁になると、思っていた。

 でも、今湧き出てくる感情、その中にはヒュウガの怒りが強い。

 ボクは何がなんでも強くならないと、いけない。


「じゃあさクロ君。私が支えて上げる。フォストじゃなくて君のね」


 そうか、あの時のフォストの婚約発言、その中に支えるが合った。

 今思えばサポートに回れって、何様だよ。

 思い出して苦笑をしてしまう。

 ユウナさんの嬉しい申し出、これに対し、ボクの言葉は決まっている。


「お願いします」

「うん! じゃあまずはクロ君専用の魔道具製作だね!」


 ボク専用? それを気に集めた魔道具を分解し、魔力を出していた。

 ボクは魔道具製作を目の当たりにする。

 さっきまで山になっていた魔道具は、一気に部品に変わった。

 ユウナさんの魔力は、様々な色に変化し、新たな魔道具を生み出した。

 魔力で魔道具が作られいく、何か特殊な道具、魔法を使う事もない。

 ただ魔力だけで作っている、魔道具の本質、それは特別な力ではなく魔力。


「できた」

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