第28話 ユウナの才能

 風紀員長はボクの体を掴む、あっやばいな。完全に怒られる。

 まぁこの惨事を見れば無理もないか。

 ボロボロになり倒れている黒虎の生徒、それに床は黒焦げ。

 多少はやり過ぎたかもしれない、でも、ボクは悪いとは思っていない。


「はぁー、たっくもう血気盛んなのはいいけど、時と場所は弁えな」


 ごもっともな事を言われる、冷静に考えれば戦う必要はなかった。

 もし戦うならば魔導戦がある、だけど、ボクはフォストを潰して置きたかった。

 これから先、ユウナさんに取って悪因分子になりえる。

 とはいえ、あんな魔法を直撃したらどうなっていただろう? 考えるだけでちょっと恐ろしい。


「風紀員長と剣持っていたんですね」

「え、あぁこれね。わっちの魔道具」


 ぼくとフォストの間に入った剣、ロングソードよりは細い刀身。

 それでも相当な魔力が込められている剣。魔道具といわれ腑に落ちた。

 風紀員長が魔道具を出して、止める事があるんだな、ただ単に言葉で止めるのがめんどくさいだけか。


「話しを少し戻すな。ユーリーは鬼才の軍師だ。それでもあり相当にレベルが高い魔法師。そんな奴とここで争うな」


 風紀員長がガミガミと怒る、これに関しては全部、風紀員長が正しい。

 でもボクの頭には全く入ってこない、フォストの事で目一杯。


「風紀員長、フォストにボクは勝てますか?」

「は? いきなり……今のままだときついだろうな」


 ボクの言葉に風紀員長は、怒りを混じりにしていたが、ボクの顔を見ると途端、真剣な顔つきに変わる。


「でも勝機がない訳ではない。運良く、まだ魔導戦は始まらない」

「勝機って何ですか?」

「魔導戦の間までにとにかく、戦闘に慣れろ! それしか言えない。一つの遠回りであり一番の近道だ」


 風紀員長は少し、複雑そうな表情をして、何処かに去っていく。

 つうか、これ一体どうすればいいの? 床にある残骸を、どうするのか考えていたら、複数人の人が来た。

 後片付けをする、みるみる内に床が綺麗になる。

 後は任せるか、ボクは後にし、途方もなく学園を歩く。

 戦闘経験か、確かにボクはカス程しかない。遠くもあり一番の近道。

 風紀員長がいうと妙に説得力がある。

 魔導戦の間までの期間、どのくらいあるか分からない。

 けれど、その間になるべく多く、対人戦闘をする。


「執事長との特訓を再開するべきか」


 ボクは学園に入学するって事になり、執事長との特訓は休止にしている。

 特に他の誰かとする人はいないし、唯一できるのは執事長くらい。

 ん? ボクが途方もない歩き──散歩をしている。

 一つの薄暗い部屋から、激しい物音が聞こえる。

 自然と音がする方に足を進める。

 窓の方を見ると、少しボロボロのユウナさんがいる。


「ユウナさん、何をしているんですか?」

「えっ、クロくん?」


 部屋に入り、ユウナさんに声を掛けていた。

 ユウナさんは呆然としながら、こっちを振り向く。

 一体ここで何をしていたんだろう? 薄暗い部屋を見渡す。

 床には魔道具は散らばっていた。そういえば、ユウナさんと魔道具は、何かと関連性が多い。

 こんな所で魔道具を使って、何をするんだ? 頭を悩ませていると、ユウナさんの口が開く。


「こんな所で何をしているとか思ったでしょ?」

「えっいや、あの」

「別に隠さなくていいよ」


 ユウナさんの思わぬ言葉、それにボクは動揺をしてしまった。

 クスクスと笑い声が聞こえた、視線を向けると、ユウナさんが口を隠していたが笑っている。

 そんなユウナさんを見て、何処か緊張の糸がほぐれ、ボクは床に座り込む。

 流れるようにユウナさんも座る。

 特に喋る訳でもなく、ボクらは座っている。


「ユウナさんがここで何をしていたんですか?」

「うーん。何と言えばいいのかな? まぁ簡単にいうと特訓」


 特訓? こんな人気のない所で特訓。魔道具が散らばっているし、魔道具を使った特訓? 


「私には才能がないから、魔道具を頼りにするしかない」


 魔道具を隠して、少し恥ずかしそうにしていた。

 実際魔道具はバカにされがちだが、応用性、汎用性は高い。

 魔力を持っていても魔法を、使えない人はいる。そんな人たちにとって、魔道具は最高の代物。

 本来ボクには無関係な事と思っていた、けど、魔帝の魔道具を使う事になった。今はもう身近な存在になっている。


「ユウナさんも魔導戦には出るんですか?」

「うん出るよ。今回の魔導戦は魔道具使用可だからね」


 だから魔道具の特訓、それにしても魔道具少し多くないか? 様々な形の魔道具がある。

 中には風紀員が使っていた物と、同じ代物もある。


「クロ君って魔道具に興味あるの?」


 魔道具に見入ってたら、ユウナさんが聞いてくる。少し怯えている。

 ボクの回答次第で、ユウナさんは傷つくだろう。


「ありますよ。魔道具は素晴らしい物なので、ただ風紀員が使ってたのと同じ物が合ったので」

「うんだって私が作ったからね」


 脳裏に風紀員長の言葉を思い出す。

「ユウナは風紀員とは協力関係」か、色々と腑に落ちた。

 風紀員の一室と、この部屋には少し共通点が合った。

 それは床に魔道具が散らばっている事、この学園で魔道具は、あんま復旧されてないと思う。

 その中で魔道具をあんな量、手に入れるのは至難の技。

 魔道具を作れる人間がいれば別だ、しかも協力関係であれば、無限に手に入る。


「私は魔法を使うより、魔道具を作る方が好きなんだよね」


 ニコッと満面な笑みを浮かべている。

 まるで今まで言えなかった事を、やっと言えて嬉しそうな様子。

 魔道具製作の方が得意、普通の魔法師ではできない事。

 膨大な魔力量と技術がないと、魔道具は製作できない。

 それを苦と思わず、楽しいと感じている。それで合って、高性能な魔道具。

 これは完全にユウナさんの才能。世間的には魔道具は認められてはいない。

 だが、もし再び、認められる事があればユウナさんの評価は上がる。

 その為には魔道具を少しでも、広めた方がいい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る